上 下
31 / 44
第二章:バチャタン奪還戦

プロローグ:魔法使いのオーディションをはじめた

しおりを挟む
マリプの町から北に馬車で一日ほどの地点にあるニット村は、小さな村落というイメージの名ではあるが、実際はちょっとした宿場町の雰囲気がある。

宿屋は数軒あるし、小さいながら道具屋、鍛冶屋、武器屋まである。
さらには郵便局、銀行、ギルドの出張所もそれぞれ小規模ながら存在しているのだ。

メアリー・シェリーの屋敷を離れた2日後の午後、そのニットにある冒険者の集う酒場に俺とミエルは居た。バチャタンに向かう前に、ミンミンの後任の魔法使いを見つけるのが目的だ。

戦士のパーティーが魔法使いを募集しているという噂は、たちまち冒険者の間に広まっている。
なのでつぎつぎと売り込みに来る魔法使いがやって来た。
しかし、彼らの大半は金目当てである。
戦士が二人もいるパーティーなら稼げると踏んでいるのだ。

今も俺たちの目の前にはひとりの自称・魔法使いが居た。

「いいですか?この空のグラスをよく見てください。ハンカチをかけますよ」
そのハンカチを取り去るとグラスの中にウィスキーのような液体が出現した。

しかし俺たちが探しているのは魔法使いであって手品師ではない。

「あのな、すまんが俺たちが求めているのはヒーリング系の魔法使いなんだ。そっち系は何かできるか?」

「ああ、ええと・・じゃあお薬を出しましょうか?」

「いや、結構。ご苦労だったな。行っていいよ」

ずっとこんな調子である。
たまに少々使える奴が現れても、モンスターを含む反王朝勢力との戦闘が目的であり、前任者は殉職していることを告げると怖気づいてしまう。
役に立ちそうなパーティーのメンバーを探すというのは想像以上にに難しいものらしい。

「なあミエル。ここには碌なのが居そうにないな。これは魔法使い抜きでバチャタンに乗り込むしかないかもな」

「そうだな。回復薬をたくさん購入して持っていくしかないか」



俺たちはひとまず宿泊している宿に戻った。

部屋ではライカがひとりでメアリー・シェリーの研究ノートを読みふけっていた。
俺たちが戻ったことにも気づかぬほど没頭している。

「どうだライカ。メアリーのノートは役に立ちそうか?」

俺が声を掛けるとライカは顔を上げた。

「ああマーカス、ミエル、帰ってたの」

そう言うとライカはノートを俺たちに見えるように広げた。
そこには俺にはさっぱり理解できない数式がびっしりと書き込まれている。

「もう本当に驚くことばかりよ。メアリーは天才だわ。私なんか足元にも及ばない」

「俺は見てもなんだかさっぱり分からないよ。もう少し数学や理科を勉強しておくんだった」

ライカはまるで感動した大作映画について語るように、熱心に解説を始めた。

「とにかくすごいわ。メアリーは本当に生と死の秘密を論理的に解き明かしているの。立てた仮説はすべて数式で説明しているし、それを実験で証明している。徹底的に曖昧さや神秘を排除した科学的思考よ」

ノートをパラパラめくりながら、さらに説明を続ける。

「彼女の研究は蘇生術に留まっていない。それは過去の成果として、すでに先に進んでいる。魔法についてさえ科学的考察と解明を試みているわ。近年の彼女の関心はクローンと完全なる不老不死だったみたい」

「ちょっと待て、クローンだって?メアリーはクローン技術を持っているのか?」

俺がそう言うとライカはかなり驚いたようだった。

「ええっ!マーカス、驚いた。あなたクローンを知っているの?意外だわ・・そうよ、メアリーはほとんどクローン技術を完成させていたみたい。彼女は骨の欠片からでも生物を復元できるだけの技術を持っているわ」

驚いたのはこちらのほうである。俺が転生する前の世界と比較すると、一見文明がひどく遅れているように思われるこの世界で、そこまで高度なクローン技術が完成していたとは。

「でも、どうやらクローンに関しては彼女は途中で興味を失ったみたいだわ。何か実験で不都合が起こったのかもね。その部分のページがごっそりと破り取られている」

「ふーん、そうなのか」

「なので目下の研究課題は不老不死の実現ね。こちらもかなり核心に迫りつつあるみたいよ」

正直よくわからないのだが、この世界の科学力が侮れないものであることは確かだ。

「不老不死についてはいずれメアリーが完成するでしょうから、私は彼女の蘇生術をもう少し簡単にして実用性を高める研究をしてみる。おとぎ話の蘇りの呪文を現実にして見せるわ」

ライカは科学者魂に火が着いたようだ。

「ねえマーカス、ミンミンちゃんが持っていたこの武器なんだけど、初めて見るメカニックだわ。こんなに小さいのに高圧電流を放出するなんてすごい。バッテリーも小型で信じられないほど高性能よ。これを研究すればポータブルな蘇生メカが作れるかもしれない。でもミンミンちゃんはどこでこんな武器を手に入れたのかしら?」

それを説明するのは面倒なので、俺は黙っていた。


俺はその後、ひとりで仕立て屋に行った。

新しい道着を誂えるためである。
丈夫な木綿の生地を選び、採寸してもらう。
デザイン画は俺が書いたもので、もちろん黒帯も作らせる。
道着は翌日の午後までに出来るというので、なかなか仕事が早い。

次に鍛冶屋に行った。

チョーキの武器を失ったので、ヌンチャク、トンファー、サイを新たに作ろうと思ったのだ。
一応俺は鍛冶屋の息子なので、図面を引いて持って行き、細部について指図する。

こちらは完成には3日ほどかかるということなので、その間は魔法使いのオーディションをつづけてみることにしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

逆転世界でヘイトを溜めて犯されよう!〜貞操逆転世界で犯されたいリメイク版〜

腹筋パンダ(出張)
恋愛
早乙女隼人(さおとめはやと)は女に犯されたい願望を持つMな高校2年生。めちゃくちゃイケメンだが童貞だ。あほな事故で貞操が逆転した世界に迷い混んでしまう。貞操が逆転した世界だと分かった彼は思う。「夢の逆輪姦…いや輪姦して貰えるのでは?」と。 この世界で犯されるのは簡単だ。さてどのようにして女の子に犯されよう… メインはノクターンノベルズで投稿しています‼️ */寝取られは嫌いなので絶対にありません(断言) 私が好きだった(この作品を書いていた)作家さんが突然投稿をやめてしまわれたので、後を引き継ぐ形で投稿しております。 土曜日と日曜日の投稿でやっていきます。 よろしくお願いします! 是非ブクマと評価お願いします‼️ Twitterもやってますのでぜひそちらも覗いてみてください‼︎

【R18】抑圧された真面目男が異世界でハメを外してハメまくる話

黒丸
ファンタジー
※大変アダルトな内容です。 ※最初の方は、女の子が不潔な意味で汚いです。苦手な方はご注意ください。 矢島九郎は真面目に生きてきた。 文武の両道に勤め、人の模範となるべく身を慎んで行いを正しくし生きてきた。 友人達と遊んでも節度を保ち、女子に告白されても断った。 そしてある日、気づいてしまう。 人生がぜんっぜん楽しくない! 本当はもっと好きに生きたい。 仲間と遊んではしゃぎ回り、自由気ままに暴力をふるい、かわいい娘がいれば後腐れなくエッチしたい。 エッチしたい! もうネットでエグめの動画を見るだけでは耐えられない。 意を決し、進学を期に大学デビューを決意するも失敗! 新歓でどうはしゃいだらいいかわからない。 女の子とどう話したらいいかわからない。 当たり前だ。女の子と手をつないだのすら小学校が最後だぞ! そして行き着くところは神頼み。 自分を変える切欠が欲しいと、ものすごく控えめなお願いをしたら、男が存在しないどころか男の概念すらない異世界に飛ばされました。 そんな彼が、欲望の赴くままにハメを外しまくる話。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

R18 エロい異世界転移in異世界

アオ
ファンタジー
被虐性癖を、ひた隠しにしてきた女子高校生が異世界転移をし、色々なエッチな目に遭う話。 要素 レイプ 輪姦 セックス 鞭 奴隷

処理中です...