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2019年7月
インビジブルスーツ
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・・・宮下君・・大丈夫・・しっかり・・・
(誰・・その声は・・山口君・・?)
宮下真奈美の額に何か冷たい物が置かれた。
「宮下君、大丈夫か。しっかりしろ」
真奈美はゆっくりと目を開く。
「おっ、意識が戻ったか?」
真奈美の頭の中に般若心経の読経の声が響いてくる。
「あ・・・金田さん?」
真奈美はどうやら三階の床に仰向けに寝ているようであった。真奈美は慌てて身を起こした。
「宮下君、あまり無理をするな」
「金田さん、すみません、助けていただいたみたいで。私にいったい何が」
金田は、辺りをぐるりと見渡してから答えた。
「誰か、目に見えない何者かが君を襲っていたんだ。おそらくはインビジブルスーツを着た山口肇だろう。僕は奴と格闘したんだけど、残念ながら取り逃がしてしまった」
(山口肇君・・・?いや、違う。あの悪意ある気配は誰か別の人)
「金田さん、あれは山口君ではありません」
「ん、それはどういうことだ。どうして君にそれがわかるのだ」
「あの透明人間の気配です。あれは私の知っている山口君のものではありません」
金田はふうとため息をつくと、静かに首を横に振った。
「君の知る山口肇はもう十年も前、中学生の少年だろう?現在の山口肇は純朴な少年ではない」
言われてみれば、それは確かに金田の言うとおりである。
「それに君は、その超能力に頼り過ぎている。だから君の捜査はいつも雑なんだ。危険だから、しばらくこの事件から手を引くことを勧めるよ。電話で山科警部に知らせておいたからすぐここに来るだろう」
まさに金田がその言葉を言い終わらぬうちに、血相を変えた山科が階段を駆け上がってきた。
「おい、宮平君。大丈夫か?」
「ええ山科警部。もう完全に大丈夫です。捜査に戻れます」
「馬鹿を言うな、救急車に乗せてもらえ。気を失ったんだから、一度ちゃんと医者に診てもらうんだ」
山科は有無を言わさぬ口調であった。しかたなく真奈美は言った。
「わかりました。でも救急車に乗る前に、山科警部の方の捜査状況を教えてください。私、病院でも考えたいんです」
山科は答えた。
「残念だがあまり進展が無かった。たとえば三上を殺した例の焼却炉だが、前に使ったのがいつだったのかがわかれば、いつガソリン容器を仕込んだのかが推測できるし、工場側にも防犯カメラがあるから、上手くすれば犯人の姿が映っていると考えたんだが・・花城由紀恵に確認したところ、花城社長の転落死以来この会社はずっと開店休業状態だったから、工場も焼却炉もまったく使っていなかったそうだ。今日になって初めて三上が破棄する書類を焼却するために使用した。つまり、トリックを仕掛けたタイミングはよくわからねえんだ。まあ気長に防犯カメラの映像に当たってはみるがね。宮下君の話では山口は他人の目には見えないサイキックだそうだが、カメラには映ると言ってたろう。しかし奴がカメラにも映らないインビジブルスーツを着ているのなら、正直それも難しい。こうなったら御影君の千里眼にでも頼りたくなってきたぜ」
その言葉を聞いた金田耕一郎が、すっくと立ちあがり高笑いした。
「はっはっははは!怪力乱神を語らぬはずの山科警部もついに焼きが回ったようですね。捜査の難航をそんな占いで乗り切ろうなんてね。しかしこの事件にそんな占い探偵の出番はありませんよ。この事件は最初からこの、金田耕一郎の事件なんです。間もなくこの私が山口肇を捕らえて事件を解明してお見せしましょう」
名探偵・金田耕一郎の演説を聞きながら、宮下真奈美は駆けつけた救急隊員に担架に乗せられた。
(誰・・その声は・・山口君・・?)
宮下真奈美の額に何か冷たい物が置かれた。
「宮下君、大丈夫か。しっかりしろ」
真奈美はゆっくりと目を開く。
「おっ、意識が戻ったか?」
真奈美の頭の中に般若心経の読経の声が響いてくる。
「あ・・・金田さん?」
真奈美はどうやら三階の床に仰向けに寝ているようであった。真奈美は慌てて身を起こした。
「宮下君、あまり無理をするな」
「金田さん、すみません、助けていただいたみたいで。私にいったい何が」
金田は、辺りをぐるりと見渡してから答えた。
「誰か、目に見えない何者かが君を襲っていたんだ。おそらくはインビジブルスーツを着た山口肇だろう。僕は奴と格闘したんだけど、残念ながら取り逃がしてしまった」
(山口肇君・・・?いや、違う。あの悪意ある気配は誰か別の人)
「金田さん、あれは山口君ではありません」
「ん、それはどういうことだ。どうして君にそれがわかるのだ」
「あの透明人間の気配です。あれは私の知っている山口君のものではありません」
金田はふうとため息をつくと、静かに首を横に振った。
「君の知る山口肇はもう十年も前、中学生の少年だろう?現在の山口肇は純朴な少年ではない」
言われてみれば、それは確かに金田の言うとおりである。
「それに君は、その超能力に頼り過ぎている。だから君の捜査はいつも雑なんだ。危険だから、しばらくこの事件から手を引くことを勧めるよ。電話で山科警部に知らせておいたからすぐここに来るだろう」
まさに金田がその言葉を言い終わらぬうちに、血相を変えた山科が階段を駆け上がってきた。
「おい、宮平君。大丈夫か?」
「ええ山科警部。もう完全に大丈夫です。捜査に戻れます」
「馬鹿を言うな、救急車に乗せてもらえ。気を失ったんだから、一度ちゃんと医者に診てもらうんだ」
山科は有無を言わさぬ口調であった。しかたなく真奈美は言った。
「わかりました。でも救急車に乗る前に、山科警部の方の捜査状況を教えてください。私、病院でも考えたいんです」
山科は答えた。
「残念だがあまり進展が無かった。たとえば三上を殺した例の焼却炉だが、前に使ったのがいつだったのかがわかれば、いつガソリン容器を仕込んだのかが推測できるし、工場側にも防犯カメラがあるから、上手くすれば犯人の姿が映っていると考えたんだが・・花城由紀恵に確認したところ、花城社長の転落死以来この会社はずっと開店休業状態だったから、工場も焼却炉もまったく使っていなかったそうだ。今日になって初めて三上が破棄する書類を焼却するために使用した。つまり、トリックを仕掛けたタイミングはよくわからねえんだ。まあ気長に防犯カメラの映像に当たってはみるがね。宮下君の話では山口は他人の目には見えないサイキックだそうだが、カメラには映ると言ってたろう。しかし奴がカメラにも映らないインビジブルスーツを着ているのなら、正直それも難しい。こうなったら御影君の千里眼にでも頼りたくなってきたぜ」
その言葉を聞いた金田耕一郎が、すっくと立ちあがり高笑いした。
「はっはっははは!怪力乱神を語らぬはずの山科警部もついに焼きが回ったようですね。捜査の難航をそんな占いで乗り切ろうなんてね。しかしこの事件にそんな占い探偵の出番はありませんよ。この事件は最初からこの、金田耕一郎の事件なんです。間もなくこの私が山口肇を捕らえて事件を解明してお見せしましょう」
名探偵・金田耕一郎の演説を聞きながら、宮下真奈美は駆けつけた救急隊員に担架に乗せられた。
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