上 下
22 / 32
2019年7月

誰かが嘘をついている

しおりを挟む
 真奈美は服が汚れるのも気にせずに、屋上のコンクリートの床に仰向けに寝転んだ。

 日がやや傾いてきているのと、爽やかな風が吹いているせいで、ほどよい涼しさである。

 真奈美は考えた。

 (まず、御影さんの見立てどおり、山口君は犯人では無いという前提で考えてみよう)

 その前提で考えるなら犯人は誰なのか?いや、それ以前に容疑者がもう誰も居ない。

 (容疑者から除外した人物は、確かに除外すべき人物だったのか?)

 現在生きている人物の内、容疑者から除外したのは花城由紀恵、松下真一のふたりである。

 (彼らを容疑者から除外した理由は、私が彼らの心を読んでそう判断したからだ。これって、何だっけ・・そうだノックスに違反している探偵法なんだよね。だから一から見直してみよう。あの人たちはもしかしたら金田探偵から、私がサトリ能力を持っていることを聞いていたかもしれない。それなら心で嘘をついた可能性もある)

 考えてみれば、この一連の殺人事件で松下真一は恋のライバルである井土がいなくなり、花城由紀恵を手に入れるという利益を得ている。花城由紀恵も井土を疎ましく思っていた可能性が高い。
 今、真奈美の中で、彼らふたりは容疑者リストに戻されたのだ。

 (それと山口君を探さなきゃ。もし山口君がインビジブルスーツを着ているのであれば、防犯カメラには映らないから自由にこの建物を出入りできる。しかし、もしインビジブルスーツを着てはいなくて、彼のインビジブル能力によって姿を消しているのなら、出入りすれば防犯カメラに映ってしまう。ならば山口君は、花城幸助社長が亡くなったあの日からずっと、このビルのどこかに潜んでいる・・・?)

 そう思い立った真奈美は勢いよく飛び起きた。

 そして階段室から三階に降りた。

 (まずはこの階から。山口君はどこに・・・)

 真奈美はサトリ能力で気配を探った。インビジブル能力を使っている山口肇なら、その気配はとても微細なものであるはずだ。

 真奈美の頭にピリッとした痛みが走った。

 (誰かいる!)

 真奈美はゆっくりと歩きながら、あたりの様子をうかがう。肉眼で見る限りはこのフロアには誰も居ない。しかし、確かに誰かの意識を感じる。しかもそれは恐ろしい害意だ。

 (山口君じゃない!目に見えない別の誰か・・つまりインビジブルスーツを着た犯人?)

 真奈美は背後を守るため、壁に背を向けて横向けに歩いた。全神経を前方に集中する。
 先ほどより大きな痛みが真奈美の頭に走った。ついにそれが襲い掛かって来たのだ。

 (しまった、後ろ?)

 気が付いたときには、背後から何者かの腕で首を絞められていた。柔道で言う所の裸締めである。腕の感触は男性のものであった。この締め技ならわずか数秒で完全に気を失ってしまう。

 しかし、真奈美が完全に意識を失う前に、なぜか男の腕が緩められた。

「やめろ!お前は誰だ」

 (・・・この声は・・・金田探偵?)

「・・貴様・・山口肇か?」

 真奈美は薄れゆく意識の中で、ふたりの何者かが争う気配を感じていた・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発

斑鳩陽菜
ミステリー
 K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。  遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。  そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。  遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。  臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

声の響く洋館

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。 彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。

イグニッション

佐藤遼空
ミステリー
所轄の刑事、佐水和真は武道『十六段の男』。ある朝、和真はひったくりを制圧するが、その時、警察を名乗る娘が現れる。その娘は中条今日子。実はキャリアで、配属後に和真とのペアを希望した。二人はマンションからの飛び降り事件の捜査に向かうが、そこで和真は幼馴染である国枝佑一と再会する。佑一は和真の高校の剣道仲間であったが、大学卒業後はアメリカに留学し、帰国後は公安に所属していた。 ただの自殺に見える事件に公安がからむ。不審に思いながらも、和真と今日子、そして佑一は事件の真相に迫る。そこには防衛システムを巡る国際的な陰謀が潜んでいた…… 武道バカと公安エリートの、バディもの警察小説。 ※ミステリー要素低し 月・水・金更新

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

処理中です...