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2019年7月
誰かが嘘をついている
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真奈美は服が汚れるのも気にせずに、屋上のコンクリートの床に仰向けに寝転んだ。
日がやや傾いてきているのと、爽やかな風が吹いているせいで、ほどよい涼しさである。
真奈美は考えた。
(まず、御影さんの見立てどおり、山口君は犯人では無いという前提で考えてみよう)
その前提で考えるなら犯人は誰なのか?いや、それ以前に容疑者がもう誰も居ない。
(容疑者から除外した人物は、確かに除外すべき人物だったのか?)
現在生きている人物の内、容疑者から除外したのは花城由紀恵、松下真一のふたりである。
(彼らを容疑者から除外した理由は、私が彼らの心を読んでそう判断したからだ。これって、何だっけ・・そうだノックスに違反している探偵法なんだよね。だから一から見直してみよう。あの人たちはもしかしたら金田探偵から、私がサトリ能力を持っていることを聞いていたかもしれない。それなら心で嘘をついた可能性もある)
考えてみれば、この一連の殺人事件で松下真一は恋のライバルである井土がいなくなり、花城由紀恵を手に入れるという利益を得ている。花城由紀恵も井土を疎ましく思っていた可能性が高い。
今、真奈美の中で、彼らふたりは容疑者リストに戻されたのだ。
(それと山口君を探さなきゃ。もし山口君がインビジブルスーツを着ているのであれば、防犯カメラには映らないから自由にこの建物を出入りできる。しかし、もしインビジブルスーツを着てはいなくて、彼のインビジブル能力によって姿を消しているのなら、出入りすれば防犯カメラに映ってしまう。ならば山口君は、花城幸助社長が亡くなったあの日からずっと、このビルのどこかに潜んでいる・・・?)
そう思い立った真奈美は勢いよく飛び起きた。
そして階段室から三階に降りた。
(まずはこの階から。山口君はどこに・・・)
真奈美はサトリ能力で気配を探った。インビジブル能力を使っている山口肇なら、その気配はとても微細なものであるはずだ。
真奈美の頭にピリッとした痛みが走った。
(誰かいる!)
真奈美はゆっくりと歩きながら、あたりの様子をうかがう。肉眼で見る限りはこのフロアには誰も居ない。しかし、確かに誰かの意識を感じる。しかもそれは恐ろしい害意だ。
(山口君じゃない!目に見えない別の誰か・・つまりインビジブルスーツを着た犯人?)
真奈美は背後を守るため、壁に背を向けて横向けに歩いた。全神経を前方に集中する。
先ほどより大きな痛みが真奈美の頭に走った。ついにそれが襲い掛かって来たのだ。
(しまった、後ろ?)
気が付いたときには、背後から何者かの腕で首を絞められていた。柔道で言う所の裸締めである。腕の感触は男性のものであった。この締め技ならわずか数秒で完全に気を失ってしまう。
しかし、真奈美が完全に意識を失う前に、なぜか男の腕が緩められた。
「やめろ!お前は誰だ」
(・・・この声は・・・金田探偵?)
「・・貴様・・山口肇か?」
真奈美は薄れゆく意識の中で、ふたりの何者かが争う気配を感じていた・・・
日がやや傾いてきているのと、爽やかな風が吹いているせいで、ほどよい涼しさである。
真奈美は考えた。
(まず、御影さんの見立てどおり、山口君は犯人では無いという前提で考えてみよう)
その前提で考えるなら犯人は誰なのか?いや、それ以前に容疑者がもう誰も居ない。
(容疑者から除外した人物は、確かに除外すべき人物だったのか?)
現在生きている人物の内、容疑者から除外したのは花城由紀恵、松下真一のふたりである。
(彼らを容疑者から除外した理由は、私が彼らの心を読んでそう判断したからだ。これって、何だっけ・・そうだノックスに違反している探偵法なんだよね。だから一から見直してみよう。あの人たちはもしかしたら金田探偵から、私がサトリ能力を持っていることを聞いていたかもしれない。それなら心で嘘をついた可能性もある)
考えてみれば、この一連の殺人事件で松下真一は恋のライバルである井土がいなくなり、花城由紀恵を手に入れるという利益を得ている。花城由紀恵も井土を疎ましく思っていた可能性が高い。
今、真奈美の中で、彼らふたりは容疑者リストに戻されたのだ。
(それと山口君を探さなきゃ。もし山口君がインビジブルスーツを着ているのであれば、防犯カメラには映らないから自由にこの建物を出入りできる。しかし、もしインビジブルスーツを着てはいなくて、彼のインビジブル能力によって姿を消しているのなら、出入りすれば防犯カメラに映ってしまう。ならば山口君は、花城幸助社長が亡くなったあの日からずっと、このビルのどこかに潜んでいる・・・?)
そう思い立った真奈美は勢いよく飛び起きた。
そして階段室から三階に降りた。
(まずはこの階から。山口君はどこに・・・)
真奈美はサトリ能力で気配を探った。インビジブル能力を使っている山口肇なら、その気配はとても微細なものであるはずだ。
真奈美の頭にピリッとした痛みが走った。
(誰かいる!)
真奈美はゆっくりと歩きながら、あたりの様子をうかがう。肉眼で見る限りはこのフロアには誰も居ない。しかし、確かに誰かの意識を感じる。しかもそれは恐ろしい害意だ。
(山口君じゃない!目に見えない別の誰か・・つまりインビジブルスーツを着た犯人?)
真奈美は背後を守るため、壁に背を向けて横向けに歩いた。全神経を前方に集中する。
先ほどより大きな痛みが真奈美の頭に走った。ついにそれが襲い掛かって来たのだ。
(しまった、後ろ?)
気が付いたときには、背後から何者かの腕で首を絞められていた。柔道で言う所の裸締めである。腕の感触は男性のものであった。この締め技ならわずか数秒で完全に気を失ってしまう。
しかし、真奈美が完全に意識を失う前に、なぜか男の腕が緩められた。
「やめろ!お前は誰だ」
(・・・この声は・・・金田探偵?)
「・・貴様・・山口肇か?」
真奈美は薄れゆく意識の中で、ふたりの何者かが争う気配を感じていた・・・
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