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19.烈火と今後の方針を語る
しおりを挟む屋敷に戻った助彦達は、直ちに使用人を捕まえてヤジリに手当てをさせた。
命に別状はなく、安静に寝ていれば治るらしい。助彦と烈火は、ヤジリの無事に安堵した。
助彦は、ヤジリの部屋を後にして、縁側で月を見上げた。
「寝ないと明日持たないぞ」
月見をしていると、烈火が、助彦の隣に腰かけた。
「そういう烈火こそ、寝た方がいいんじゃないのか?今日は、鬼退治で疲れているだろう?」
月を見上げたまま、助彦は、話しかけた。
「俺は明日する事ないからいいんだよ。でもお前は、行くんだろ?菊之介の所に」
「烈火は、すごいな。なんでもお見通しなんだな」
烈火に指摘された通り、助彦は、明日菊之介を一人で訪ねようと思っていた。
今回の鬼退治の件でいくつか疑問に感じたことがあるのだ。
「なあ、烈火。暇ならお願いしてもいいか?」
「なんだ?」
「おれが居ない間、ヤジリを頼む」
真剣に頭を下げる助彦を烈火は、軽く小突いた。
「バーカー。助彦に頼まれ無くたって、ヤジリの面倒は俺が見るよ。あいつは俺の親友だし、昔から世話していたしな」
「烈火って、前から思っていたけど世話好き?」
「そうかもしれないな。助彦の世話も俺がしているもんな。普通は、主であるヤジリが、助彦の世話をしなちゃいけないんだが」
「ヤジリにおれの世話は、無理だよ」
「なんで?」
「だって、ヤジリは、おれ自身だよ。おれはおれの世話を出来ないから、ヤジリにもおれの世話は、出来ないよ」
「確かに。助彦も、ヤジリも人の世話をするタイプじゃないな。どっちかって言うと、世話したくなるタイプかな。つい、手を差し伸べたくなるんだ。でも、そういう人間の方が、人の上に立つ者としてふさわしいのかもしれない」
「どうして」
「だって、誰の手も借りないで一人でやり遂げてしまう帝よりも、誰かと協力して、何かを成し遂げられる帝の方が出来ることが広がるだろ?一人で出来ることは、たかが知れているが、みんなでやれば、大きな事が成し遂げられるんだ」
「確かに。烈火は、頭もいいな。世話好きで、頭も良くて、強くて、烈火はきっといいお父さんになるよ」
「そうか?」
「ああ。むしろおれのお父さんになってほしいぐらいだよ」
助彦が微笑むと、烈火は照れくさくなり助彦の肩を叩いた。
「バーカー。助彦には、帝がいるだろ」
「うんん。帝は、おれの父さんではないよ。だって、帝は、ヤジリの父親だから」
助彦は、先ほどの楽しそうな表情から一転して、寂しげに下を向いた。
「おれの生きた時代は、平成時代で、ここじゃないんだ。おれの母さんは、やっぱり京子だけなんだよ」
「こっちの世界の藤原京にあたる人物だっけ?」
「そう。おれの姉さんにあたる人なんだけど、おれのことを一人で育ててくれたんだ。京子は男性に人気があって、結婚の誘いが絶えないような人だった。でも、おれがたった一人の母さんを取られるのがいやで、わがままを言ったら、いつの間にか、全ての誘いを断るようになっていた。でも、おれは、間違った事をしていたのかもしれない。もっと、京子の幸せを考えてあげるべきだったのかもしれない」
「子供にとって、親を取られたくないって思うのは、当然の事だと思うぜ。俺は、田舎者で姉弟が多かったから、いつも両親の取り合いだったぜ」
「それって、寂しくないのか?」
「寂しい?確かに、両親が、他の姉弟ばかりかまうと切ないけど、その分空いた時間で、友達とか、姉弟とかと遊べるから、寂しくはなかったぜ。助彦だって、京子さんに、甘えてばかりでなくて、友達とかいただろ?」
「友達」
いつも一緒に居てくれた勝。母さんが仕事で忙しいときは、お寺に泊まり込んで、夜遅くまで、雑談に付き合ってくれた。
だから、京子が居ない時も寂しくなかった。
でも、京子には、そのような人は居なかった。
母さんは、男受けは、良かったが、女受けはしないタイプだった。
仕事場の人は、みんなライバルで、助彦を育てる為に、仕事一筋の人生を送っていた。
唯一、和風の物を作ったり、集めたりするのが趣味だった。
いつも母さんは言っていた。
「助彦が、無事に育ってくれるだけで、京子は幸せでございます」
だけど、本当は、支えてくれる人が欲しかったのでは、ないだろうか?
別次元の時間軸から、菊之介より助彦を助けて逃げ延びた京子。
だが、その苦労は、奈良時代に飛んだ助彦の何倍も大変なことだった筈だ。
この時代にない最先端の技術。
知人が誰も居ない環境。
苦労しない筈がない。
それでも、京子は、一人で助彦を育て上げてくれた。
「おれ、凄く、親不孝な子供だったな」
「なに落ち込んでいるんだよ。今親孝行している最中だろうが」
「おれ、親孝行しているのか?」
「お前、京の願いで、ヤジリを笑わすために、この時代に来たんだろ」
「正確には、ヤジリを笑わす事と、全ての鬼の抹殺だよ。でも、おれには、出来ないよ」
「ヤジリを笑わす事を諦めるのか?」
「違うよ。ヤジリは、笑わせる。だって、それは、おれがこの時代に来た時に決めたことだし、みんな望んでいることだから。でも、鬼を、菊之介を退治するなんて、したくないんだ」
助彦は、自分でも矛盾した事を言っているとわかっていた。
ヤジリを助ける為には、菊之介を退治しなければならない。
そして、人々に恐怖を与える鬼の存在は、この世にない方がよい。
それでも、自分の気持ちに嘘を付きたくなかった。
「助彦。お前は、お前の信じた道を行けばいい」
「でも、おれは、京子から、助彦って名づけかれたんだ。助けなちゃいけないんだ」
「だったら、余計に自分の信じた道を進め。お前本当は、菊之介の事も助けたいんじゃないのか?」
「菊之介を助ける?」
烈火の言葉を繰り返す。
ああ。そうだ。おれは、菊之介の事も助けたい。
全員助けて、ハッピーエンドでゲームを終えたいんだ。
「烈火おれ、後悔がないように、やりたいことをやるよ」
「そっか。まあ、俺も、自分の意見を貫き通したことがあるからな。俺、陰陽師になるのを親からすごく反対されていたんだ。お金もかかるからな。でも、どうしても、この夢だけは、譲れなかった。だからお金稼ぎながら、陰陽師の学び舎に通ったんだ」
「烈火って、なんでもやってすごいな。おれ、烈火みたいな人にだったら、本当に母さんを任せられるかもしれない」
「過大評価ありがとう」
月明かりの下で、赤毛の青年と緑髪の少年は、笑いあった。
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