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16.戸惑うヤジリの心境
しおりを挟む先に帰宅していたヤジリは不機嫌だった。
帝と妃に無礼はしなかったかなどと、小うるさく聞いてきたので、ヤジリに手紙を渡した。
手紙は、帝と妃が書いた物だ。助彦の言葉に感涙を受けた二人が思い立ったら即行動との事で、愛情たっぷりの手紙を書いたのだ。いままで威厳を保ってきたのが水の泡な様な気がしなくはないが、今の助彦はただの伝令だ。内容までは気にしない。第一、助彦が持ってきた手紙の内容をヤジリが信じない確率の方が高い。
ヤジリは、とりあえず読んではいるようだ。
助彦はその隙に、部屋に戻った。
部屋に戻ると烈火が我が物顔で座っていた。
「で、どうだったよ。感動の親子の再開は」
「うん。甘えてきた」
「甘えて来たって。あの帝と妃が甘えさせてくれたのか?」
「うん。今、ヤジリが愛情表現いっぱいの手紙を読んでいる所」
「ちょっとどんな顔して読んでいるのか見に行ってからかおうかな」
冗談交じりに烈火と話していると、ヤジリがやって来た。
「羅生門の鬼調査は、今夜行う。助彦も一応式神なので、同行してもらう。烈火。丁度いい所にいるな。助彦に道具の知識や、鬼の知識を叩き込め」
「ヤジリ。自分の式神の仕込みぐらい自分でやれよ」
「うるさい。こんな手紙を寄越す式神など、面倒みたくない」
「手紙が偽物だって疑っているのか?おれが言っても説得力ないけど、本物だぞ?」
「本物だってことは、承知している。誰が、帝と妃の直筆を間違えるものか!」
ヤジリは、怒鳴るとそっぽを向いてしまった。
「もしかして、ヤジリ照れている?」
「て、照れているわけがないだろうがー!」
明らかに照れているのを隠そうとするヤジリが可笑しくて、助彦と烈火は、大声で笑った。
「笑うなー!」
ヤジリの怒鳴り声が屋敷に響いた。
何とか鬼調査の準備と、助彦への仕込み?を終えた三人は、羅生門の前まで来た。
異臭がするし、目を光らせている黒い鳥が止まっていたりして、気分のいい場所ではなかった。
三人は、持ってきた松明で辺りを照らしながら用心深く進む。
「それにしても、鬼出現情報なんて、珍しいよな。最近はなかったのに」
「そうか?現にいま連れている式神は、鬼の間者だが?」
「まだそのネタ引っ張るのかよ」
「そっか。じゃあ助彦を退治しないとな。これで任務完了だぜ」
「だから、おれは鬼の間者じゃねーし。第一、烈火には本当の事話してあるだろう?」
「やだなー。助彦ちゃん冗談だってー」
烈火が笑い飛ばそうとした時、ヤジリが鋭く睨み付けてきた。
「本当の事とは、何だ?」
「え、いやその……」
「烈火には、話せて主である我には、話せない事なのか?」
「だから、その、おれが鬼の間者じゃないって事実を話しているだろ。それのことだよ」
笑ってごまかそうとする助彦に対して、ヤジリは、寂しそうな表現を浮かべた。
「我は、助彦の事がわからない。我はいままで菊之介様の言いつけ通りに助彦を式神として扱ってきた。それがたとえ、鬼の間者であったとしてもだ。だが、鬼の間者であるはずの助彦が、なぜそこまで、帝と妃に気に入られた?なぜ、烈火とそんなに親しくなれた?なにか術でも使ったのか?だが、我には助彦が術を使って人の心を掴もうとするほどずるい奴には、思えない」
「ヤジリ……」
いままで、ヤジリを笑わせることばかり考えていて、ヤジリが何を思っているのかを考えようとしなかった。勝手に、ヤジリが笑えばハッピーエンドだと思っていたのだ。
だが、今の状態を今のヤジリに告げてしまってもいいのだろうか?
実は、助彦が、別次元の時間軸から来た、もう一人のヤジリであること。
鬼の親玉、菊之介は、ヤジリを操ってはいるが、本当は、ヤジリの事を愛していること。
そして、だれもが、ヤジリに笑顔を取り戻してほしいと思っていること。
あれ?
そこで、助彦は疑問を覚えた。疑問を突き止める前に、突然奇声が上がった。
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