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海賊編 エピローグ

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「ただいま~!」

 ラセ達は、李祝に滞在している海賊船へと戻って来た。
 ラセ達の晴れやかな顔を見て、トタプ達は、闇の霧と決着が成功した事を感じた。
 ウェイルは、自分が闇化しようとした島を感慨深げに眺める。

「もう、終わった事だよ」
「……そうだね」

 ラセとウェイルが寄り添って、街並みを眺めていると、羽ばたく音がした。
 見上げると、黒煙竜へと姿を変えたロンが、海賊船の上空で羽ばたいている。

『ラセ。闇の帝国を救ってくれて有難う。
 名残惜しいが、ボクは、戻って闇の帝国を立て直さなければならない』
「こっちこそ、ありがとう。ロン。元気でね」

 ラセは、黒煙竜に抜けて大きく手を振る。
 セントミアも尻尾を振って見送っている。

『ルイ』

 ラセとウェイルの仲が良くて拗ねているルイに、黒煙竜が声をかける。

「なんだよ?」
『ルイにも、世話になった。だから』

 黒煙竜は、ルイに向けて何かを落とした。
 ルイは、慌てて手を伸ばして掴むと、竜の鱗だった。

『いつでも、呼んで。ボクは、ルイ派だから』
「は?何が?」

 黒煙竜は、無言で、ラセとウェイルを見る。
 ラセは、わからなくて、きょとんとした表情をしている。
 対してウェイルは、黒煙竜の言いたいことがわかったのか、含み笑いをしている。

「どうやら、黒煙竜は、ルイの味方らしいね。ライバルが多くて、僕は嫉妬ばかりだ」

 ウェイルは、ラセを抱き寄せる。
 顔を真っ赤にさせるラセ。
 その様子を見て、黒煙竜の言いたかった意味を察したルイも赤面する。

「さっさと行けよ!」

 恥ずかしさで、ルイは怒鳴り散らす。

『達者で』

 黒煙竜は、大空へと舞い上がって行った。
 姿が見えなくなるのは、あっという間だった。
 本当に有難う黒煙竜。
 ラセは黒煙竜の姿が見えなくなっても、ずっと空を見つめていた。
 
 
 
 風の大精霊のおかげで、いつもよりも早くフォーチューン国本島へとたどり着いた。
 ウェイルが闇の霧より解放された事を知ったホークは、涙を流しながら喜んだ。
 大げさだなと苦笑するウェイルは、嬉しそうだった。
 いつもの通り、ホークの館に訪れたラセ達は、再会を喜んだ後、さっそく水の大精霊の元を訪れた。

『よくやってくれたわね。信じていたわ』

 水の大精霊が現れたと同時に、風の大精霊は飛びついた。
 水の大精霊は、優しく風の大精霊を受け止める。

『寂しかった~』
『あ~わかったわ。よしよし』

 水の大精霊は、乱雑に頭を撫でる。

『セントミアもご苦労だったわね』
『はい。使命を達成出来て、私も一安心出来ました。

 全ては、ラセさんのおかげです。
 ウェイルさんは、私欲に走ってしまいましたし』
 セントミアが、ウェイルを睨み付けると、気まずそうな顔をした。

『そうね。ウェイルには、お仕置きがいるかしら?』
「ちょっと、水の大精霊様。ご冗談でしょう?」

 珍しく焦った様子のウェイルに笑みがこぼれる。

『冗談よ。ウェイルも人生かけさせちゃったし、悪かったわね。
 後は、あなたの好きにしていいわよ。それが、約束だもの』
「なら、これからは、ラセとずっと一緒にいるよ。いままでの分を埋めるくらい」
「ウェイル」
「お、おれも、ラセと一緒がいい」
「それは、どうかな?ラセが、王族に戻るのだとしたら、海賊の君とは、一緒に居られないんじゃないのかな?僕は、婚約者だから、平気だけどね」

 ウェイルの嫌味に反論出来ないルイ。

「ルイ。ウェイル。私は、海賊を続けたい。
 海賊船には、家族だって言ってくれた人達がいるから」

 トタプ達の温かい笑顔を思い出す。

「ラセが、そういうなら、僕も海賊になるよ」
「ウェイル王子!」

 ウェイルの切り替えの速さに、ホークが叫ぶ。

「別にパール王子が、フォーチューン国本島まとめているから、いいじゃない?」
「そういう問題では」
「ごめんね。ホーク。駄目な王子様で。でも、これだけは、譲れないんだ」

 ウェイルの強い意思を感じたホークは黙り込んだ。
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