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海賊編 第十章 双子の王族

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 甘ったるい煙が辺りに漂う。

「ごめんなさい。でも、情報屋のマムなら何か知っているかと思って」

 ゲオルグは相変わらず目覚めず、ソファーで横になっていた。
 相当目の前でノーリア姫が攫われたのがショックだったのだろう。

「見取り図は渡すけれども、王家の警備は、生半可じゃいかないよ。
 それでも、立ち向かうのかい」
「ええ」

 ラセは拳を握りしめた。 

「ラセ」
 強張るラセの肩をルイが引き寄せた。

「俺も一緒に行くから。一人で抱え込むな」
「ルイ。でも危険だから」
「危険は承知の上だ。でもせっかく結ばれたのに、引き裂かれるのは、辛いだろ」
「そうね」

 せっかくゲオルグの想いが、ノーリア姫に届いたのに。
 このまま離れ離れなどあんまりだ。
 第一、イハ王子がなぜノーリア姫を攫ったかの動機さえわかっていない現状なのだ。

「関係あるかわからないけれど、今日の夕方ティーラ姫を乗せた船が、フォーチューン国へと向けて出航したらしいね」
「てことは、トタプ達も同行したのか」

 ルイは、家族である海賊船の皆が、この国を去ったことを知り、寂しさを感じた。

「……ルイごめんね。付き合わせて」
「俺がラセの隣に居る事を選んだのだから、今更気にするなよ」

 ルイに頭を撫でられて、ラセは、心の中のもやもやした気分が無くなるのを感じた。
 コンコン。
 ドアを叩く音がする。
 マムは、警戒しながら、扉越しに話しかけた。

「こんな夜更けに誰だい?」
「夜分に申し訳ありません。ノーリア姫の執事。ジイでございます。
 すこし、お話をさせていただいても宜しいでしょうか?」

 相手がジイだと判明して、マムは玄関ドアを開けた。

「ノーリア姫がお帰りにならないので、ジョン様の屋敷を訪ねたのですが、いらっしゃらなくて、ここしか他に思い当たらなかったので、来たのですが、ご存じありませんか?」

 ジイに聞かれて、ラセは、ノーリア姫がイハ王子に攫われた経緯を説明した。

「なんと!どうしてこのような事態に!」
「……わからない。でも、ノーリア姫を救い出さないと」
「ジイ。あんた何かイハ王子が、ノーリア姫を攫う理由に心当たりないかい?」
「イハ王子とノーリア姫の接点は、婚姻の件しか考えられません」
「でも、今日エコシェーザニ―姫に確認したら、本人同士に決めさせるって」
「エコシェーザニ―姫は、昔から冒険心旺盛な方でしたが、とてもお優しい心を持つお方でした。相手の嫌がることは決して致しません。
 けれども、残念ながら、階級を気にする貴族が沢山おり、イハ王子とノーリア姫の婚姻を快く思っている者達もおります」
「そんな」
「血統的に考えれば、イハ王子に相応しい方は、木の王国の姫君に値するノーリア姫だけです」
「そんなに血統が大事なのかよ」
「ねえ、この婚約の事、国王と王妃はどう考えているの?」
「ラセ?」
「婚約結婚が嫌で、盗賊になった父様が、同じことをするとは思えない。
 当人達が嫌だと言えばきっと婚約を解消してくれる」
「でもどうやって説得を?」
「乗り込むしかない!」
「そうだな。乗り込むしかないか。ラセが一緒ならば、出来る気がする」
「俺も連れて行ってくれ」

 ゲオルグが、目を覚まして、身体を起こした。

「ゲオルグ。起きて大丈夫なの?」
「……大丈夫だ。ノーリア姫は、俺が助け出す」

 シュ。
 突然、部屋の中に紙を巻いた矢が飛び込んできた。

「城からの知らせのようだね」

 マムは、慎重に結び目を解いた。
 しばらく、紙に目を通すマム。

「どうやら、あまり時間はないようだね」
「マム。何て書いてあったの?」
「イハ王子が、ノーリア姫を人質にとって、城に立てこもったよ」
「立てこもった?なぜ?」
「さあ。ただ相当荒れているようでね。王家に伝わる属性風魔法を手当たり次第ぶっとばしているらしい。下手に近づけない状態みたいでね。警備兵達も手が出せず、何とか避難させたらしいね」
「なんて、荒い精霊の使い方をするの」

 ラセは、光景を思い浮かべて、精霊達の虚しい叫び声が聞こえたような気がした。

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