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海賊編 第十章 双子の王族

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「フォーチューン国になど、行きたくはないわ」

 ティーラ姫は、寝台に横になっていた。

「仕方ないだろう。国務なのだから」

 イハ王子も同じ寝台に腰かけている。
 二人は双子なだけあって、一緒にいると落ち着くのだ。

「重要な任務なのは、承知しているわ。でも、イハと別れるのが辛いの」

 伸ばされたティーラ姫の手に、イハ王子の指が絡まる。

「俺だって寂しい。まるで心を切り裂かれるような気分だ」
「イハ」

 ティーラ姫は、イハ王子の指を引き寄せた。

「王国主催の大会出場するのでしょう?がんばってね。応援しているわ」
「俺が、負けるわけがないだろう」
「それも、そうね」

 ティーラ姫が、微笑む。
 イハ王子は開いた方の手で優しくティーラ姫の髪を撫でた。

「……いつまで、こっちにはいられるんだ」
「王国主催の大会が終わって、準備が整い次第旅立つわ」
「……そうか」
「ところで、今日クレイに接触したわ。彼ものすごくラセに恨みがありそうで、殺してくれって頼んだら引き受けてくれたわ」
「そいつ、信用できるのか?」
「あら、焼いているの?大丈夫。クレイは、王家に逆らうほど愚かではないわ」

 珍しくご機嫌なティーラ姫に、イハ王子は優しい眼差しを向けた。






 王国主催の武道大会。
 まさかの敗退に、イハ王子は落ち込んでいた。

「まさかあのような方法で屈辱を味わうとは思わなかった」
「不覚」

 イハ王子とティーラ姫はいつものように、同じ寝台で横になっていた。

「このままでは、風の国の王子の名誉にかかわる。
 なんとしても、ゲオルグを倒さなければ」
「なら、いい方法があるわ」
「いい方法?」
「そう。もうすぐ、ノーリア姫が十六の誕生日を迎えることは、知っているでしょう?」
「そういえば、そうだったな」
「ゲオルグは、ノーリア姫に惚れているわ。だから、イハがノーリア姫を娶るの。
 そうしたら、ゲオルグは悔しがるでしょうね」
「……あいかわらず、悪知恵が働くな」
「あら?負けたままではくやしいのでしょう?
 それに、もうすぐわたしは、この国を旅立つわ。
 わたしが居ない間に、結婚式を済ませてほしいの」
「ティーラ」
「イハが誰かを娶る姿を見たくないの」
「……ティーラは、戻って来たら、ゲオルグと結婚するのか?」
「……イハがするなら、わたしもするわ。相手が生きていればの話だけれども」
「随分と物騒なことを言う」
「だって、二人との婚姻は、結婚を延期する為の口実だったはずよ」
「まあ確かにそのとおりだが」

 ティーラ姫は、イハ王子の腕の中で、目を閉じた。

「離れたくないわ。イハ」
「俺も離れたくない。ティーラ」

 腕の中に収まっているティーラ姫をイハ王子は、力強く抱きしめた。






 無事にエコシェーザニ―姫との面会を終えたラセ達一行は晴れやかな気分だった。

「じゃあな。気を付けて帰れよ」
「ええ」

 ノーリア姫達と別れたラセとルイは並んで夕暮れ時の街並みを歩いていた。

「ゲオルグのやつ、ノーリア姫と結ばれてよかったな」
「そうだね」
「なあ、ラセ。俺もおまえのこと、す」

 ルイが、言葉を言いかけた時、ノーリア姫を送り届けていたはずのゲオルグが息を切らしながら戻って来た。
 尋常ではない慌てぶりに、ラセは、先ほどの穏やかな顔から一遍して緊張した面持ちへと変わった。

「た、大変だ。ノ、ノーリア姫が攫われた!」

 ゲオルグから告げられた衝撃的な言葉に、ラセ達は息を飲んだ。

「攫われたって誰に!」

 ゲオルグは、白亜の城を指差した。

「風の国、第一王子。イハに」

 強敵過ぎる相手に、ラセは武者震いを覚えた。

「頼む。ノーリア姫を救いだしてくれ」

 ゲオルグは、それだけ告げると、地面に倒れこんだ。

「ゲオルグ!」

 倒れこんだゲオルグをルイが背負った。

「これからどうする?」
「取りあえず、状態を把握しましょう」

 ラセは、震える手を押さえつけて冷静を装った。
 




「イハ」

 ティーラ姫は、甲板に出て、潮風を浴びていた。
 長いツインテールにした髪が、風になびく。

「さようなら。イハ。幸せに」

 船が出航する合図が辺りに鳴り響いた。
 夕日を背にして、船はゆっくりと、港を離れて行った。


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