上 下
88 / 115
海賊編 第九章 武道会

88

しおりを挟む
「いつまで、寝ているんだい?」

 仕事から帰って着たマムは、ソファーで寝こける人達を見て呆れかえった。

「「う~ん?」」

 ラセとルイは、マムに呼ばれて目を覚ました。
 ロンは相変わらず眠ったままだ。
 窓から差し込む光が朝よりも明るくなっている。
 丁度お昼ぐらいの時刻であろうか?

「マム酒は無いのか?」

 一人用のソファーで眠っていたガベルがあくびをした。

「ガベルまでだらけているのかい?

 まったく、ただで泊めてやっているんだい。
 すこしは、家事位したらどうだい?」

「マム。ごめんなさい」

 ラセは、ロンとルイに釣られて眠ってしまった自分を恥じた。

「まあ。丁度いいや。
 あんたら向けの仕事が来たよ。
 家でその子供が目覚めるのを待つだけでは退屈だろう?」
「でも、いつロンが目覚めるかわからないし」

 ラセは、気持ちよさそうに眠り続けるロンを見た。

「それなら、情報を仕入れて来たよ。
 黒煙竜って言うのは、闇の帝国の守護魔神らしくてね。
 闇の帝国の住人の信仰対象として崇められているらしい。
 その名の通り、黒い竜が本来の姿らしいのだけれども、寝ていないと力を蓄えられない欠点がある。
 その子供は、つまり決戦に備えて力を蓄えているわけさ。
 時期が来たら目覚める。だから、あんたらも、働きな」

 マムが仕入れて来た情報の凄さに皆口を開けて驚いた。

「その情報信用出来るの?
 そもそも黒煙竜の詳しい情報を誰から入手したの?」
「てか、ロンは、闇の帝国の者なんだろ?ラセには危害を加えるつもりはなさそうだけど、味方になるのか?」

 ラセとルイは質問をマムにぶつけた。

「情報は信用出来る。
 まあ、これから会いに行く人物から詳しい話は聞くんだね。
 依頼内容は、情報をくれた人の息子を鍛えることだからね」
「鍛える?」
「どうしても、短時間で強くならないといけないんだと」

 マムの言葉に三人は顔を見合った。

「どうするラセ?」
「とりあえず、ここで、ロンの目覚めを待つのは、無駄な時間だと判明した。
 詳しい人物に会ってみたいし、マムの話に乗るのは悪くないと思う」
「ラセが、行くなら、俺も付き添う」
「まあ、ただ飯食わしてもらったし、少しは働くか」

 ガベルも依頼を受けることに乗り気のようだ。

「三人とも同意してくれたようだね。
 ロンは、黒い棺に入れ直して置けば、勝手に結界が発動して、外部からの被害を防ぐらしいから問題はないだろうね」
「ここまで、黒煙竜に詳しい人物、気になる」
「……会えばわかるよ」

 ルイとガベルは、マムに言われた通り、ロンを黒い棺に入れ直しに行った。
 マムと二人になった、ラセは表情を険しくした。

「マム。今回は、騙してはいない?」
「騙しちゃいないよ。少なくとも、あんたを傷つけたくて、騙したわけじゃないからね。
 本当は、ひさしぶりの親子の対面を喜んでくれると思っていたんだ」
「マム」
「あんたを拾った時から、あんたがセラ姫なんじゃないかと勘繰ってはいたよ。
 でも証拠がなかったし、あんたは何も言わなかった。
 ノーリア姫からの話をロティーラ王妃経由で聞いて、初めてあんたがセラ姫だと確信した。王妃はずっとあんたのことを想っていたよ」

 ラセは、先日出会ったロティーラ王妃のぬくもりを思い出した。
 あの想いはけして嘘偽りではなかった。

「マム。疑ってごめんなさい。
 私、マムに頼ってばかり」
「いいんだよ。あんたは、あたいの教え子なんだから」

 何も告げずに、マムの元を去ったのに、快く受け入れてくれた。
 今も、ラセの為に、力を貸してくれている。
 ラセは、マムを疑った事を後悔した。

「ラセ行こうぜ!」

 二階から降りてきたルイに呼ばれた。

「うん」

 ラセは、元気よくルイの呼び声に答えた。
 その様子を、マムとガベルは、優しい眼差しで見つめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

処理中です...