上 下
87 / 115
海賊編 第八章 棺

87

しおりを挟む

 ルイは、ロンの魔法に感心していた。
 落ち着いた後、朝食を取りながら、ラセ達はロンについて話あった。

「とりあえず、ロンが黒い棺に入っていたことは理解したけど、闇の帝国の場所を知っているかは聞き出せていないのだな」

 ルイは、ラセに寄り掛かって眠たそうに目を擦るロンに視線を向けた。

「聞いたけれども、話がかみあわないから」
「おい。闇の帝国の場所はどこだ?」

 ルイが、今にも寝てしまいそうなロンを揺り動かした。
 ロンは虚ろな瞳をぼんやりとルイに向ける。

『ボクの翼は、どこにでも飛んで行ける』

 ロンは、ラセの肩に頭を預けると今度こそ寝息を立て始めた。

「……話にならないな」
「とりあえず、再び目覚めるのを待つしかない」

 ラセは、気持ちよさそうに寝息を立てるロンを見て微笑んだ。
 昨日よりもおだやかな表情を浮かべるラセを見て、ルイは安堵していた。

「ずっと、傍にいるから」

 ルイもラセの肩に寄り掛かって目を閉じた。
「……重い」

 両方の肩に寄り掛かり心地よさそうに目を閉じる二人を見て、ラセも目を閉じた。
 ひさしぶりに、安らかな時が流れた。





「俺は、ラセの傍にいてやりたいんだ」

 ラセがマムに連れられて去った後、ルイは夕暮れ時の街並みでトタプに告げた。
 ノーリア姫達は、先に馬車で屋敷へと帰って行った。
 歩いて帰ることになったルイ。トタプ。アンナ。デチャニー船長は、今後の事に着いて話をしていた。

「確かにラセちゃんの傍にはいてあげたいけれど、海賊船の料理長である僕が抜けるとクレイに怪しまれるだろうし」
「このあと海賊船は、ティーラ姫のお供として、フォーチューン国へと向かうことが決まっている。わしも今のクレイとチャナ嬢に支配された海賊船を放置して離れるわけにはいかん。それに、わしにも船長としてのプライドがある」
「……わたしもトタプの傍を離れるのは、嫌だわ。
 ルイがラセの傍に居てやりたいと想う気持ちと同じように」

 それぞれトタプ、アンナ、デチャニー船長には、海賊船に留まらなければいけない理由があった。
 ラセの傍に居たいのは、ルイの我儘だと自覚してはいる。
 それでも、今ラセの傍に居られないのは、自分を殺しているようで辛かった。

「俺だけでも、ラセの傍に居られるような口実を作れないか?」

 ルイは三人に同行してもらうのを諦めて、自分だけでもラセの傍に居られる提案がないかと皆に聞いた。

「ルイ。あんた海賊船での生活しか知らないくせに、外の世界でやって行く気?」

 アンナは心配そうに、ルイを見た。

「もう、決めたことだから」

 ルイは決意に満ちた瞳を母親であるアンナに向けた。

「ルイももう十七歳だ。
 いつまでも、親にすがって生きる年頃でもないだろう」

 トタプは逞しい表情を浮かべるようになったルイを感慨深げに見つめた。

「ルイも旅立つときが来たか。わかった。
 クレイにはルイは祖父であるガベルの元へしばらく滞在することになったと伝えて置く。
 今日帰りが遅くなった理由もひさしぶりの旧友との再会に話が尽きなかったと言い訳をしようと考えて居たところだったしな」
「デチャニー船長。ありがとう!」

 ルイは、海賊船から出て行くことを許可してくれたデチャニー船長に礼を述べた。

「わしにとっても孫のような存在のルイが居なくなるのは寂しいが、ガベルが共にいるのならば安心だ」
「ルイ元気でやりなさい」

 アンナは旅立つ息子を抱きしめた。

「ルイ。ラセちゃんを守ってあげるんだよ」

 父親であるトタプと視線を交わして、

「ああ。かならず守るよ!」

 力強くうなずいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...