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海賊編 第七章 昔の名前
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しおりを挟む「ラセちゃん?大丈夫?起きている?」
ドアの外から、トタプの声が聞こえた。
ドアの隙間からおいしい匂いがラセの部屋へと入ってくる。
ラセは、起き上がって、鍵を外し、ドアを開けた。
「良かった。夕方になっても起きなかったから心配したんだよ?」
ドアを開けると食事を持ったトタプが安堵していた。
「ごめんなさい」
「食事出来る?スープとパンを持ってきたんだけれども」
トタプは、テーブルの上に、食事を並べた。
「うん。有難うトタプ」
ラセは、椅子に座り、テーブルにある食事を食べ始めた。
トタプの食事はあいかわらずおいしかった。
でも、ラセは途中で食べるのを中断してしまった。
スプーンを手にして固まるラセを不思議そうにトタプは、覗き込んだ。
「もしかして、食欲ない?大丈夫?」
「違う。トタプの作ってくれる料理はいつも愛情がたくさん籠っていて、おいしい。
でも、いまの私には、辛い」
「辛い?どうして?」
「トタプの料理を食べると、子供の頃よく聞いた話を思い出すの」
「お話?」
「そう。私に短槍を教えてくれた師匠の話」
「……ラセちゃんの師匠は、もしかして、ロティーラ?」
「どうして、それを!」
ラセは、言い当てられた事に驚いた。
「初めてラセちゃんの短槍の構えを見たときから、ロティーラと同じだって気付いていた。
ロティーラの短槍の構えは、僕の父、ガベルが作成したものでね。
あまり知り渡っていないから、見る人が見れば、わかるんだ」
「……」
「ロティーラは、今水の国の王妃様なんだよね?
ノーリア姫の使用人をしている時に教わったの?」
「……そんな所」
本当は、もっと幼い頃に教わったのだが、トタプにはあえて勘違いさせたままにしておいた。
「そっか。ラセちゃんがロティーラの弟子か」
トタプは感慨深げに頷いた。
「こうやって、巡り会えたのも、何かの縁かもしれないね」
「……」
「そうだ。水の国の王様って確かセイハなんだよね。
信じられないけれど、もしも本当ならば、書状を渡すときに、ロティーラとも会わせてもらえるかな?ラセちゃんも一緒にどう?」
「駄目!」
ラセは、椅子から立ち上がった。
ラセの迫力にトタプは、戸惑う。
「えっと?ラセちゃん?」
「王妃に会うのは駄目!」
ラセは、駄々をこねる子供のように首を横に振って拒否した。
「嫌!嫌なの!」
ラセは、混乱して叫んだ。
「ラセちゃん?ねえどうしたの?」
トタプがラセを落ち着かせようと手を伸ばす。
「触らないで!」
その手をラセは、払い落とす。
バチン!
ラセは頬を叩かれた。
叩いたのは、呆気にとられるトタプではなく、アンナだった。
「あんた!さっきから部屋の外で黙って話を聞いていれば、なんなの?
トタプの優しさを無下にするなんて許さない!」
アンナが顔を真っ赤にして怒っている。
ラセは、叩かれた頬を抑えた。
「ちょっと聞いているの?」
アンナに胸倉をつかまれた。
「アンナ。暴力はダメだよ」
トタプが怒っているアンナをなだめる。
「だって!この子生意気なんだもの!」
トタプに宥められたアンナは、仕方なしにラセを離した。
床に座り込むラセ。
悪口言われるのは慣れていて。
暴力を振るわれているのも、慣れているはずなのに、身体が放心して動けない。
トタプもアンナもラセの事を家族だと言ってくれた。
でも、今はどうなのだろうか?
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