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海賊編 第六章 フォーチューン国本島

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 着替えを済ませたラセ達を乗せて、馬車は、城へと向かう。
 その間もずっとチャナはルイにくっ付いていた。
 クレイもチャナとルイの中を茶化して楽しんでいる。
 昔ラセ自身もクレイに茶化された事があったが、今回のような甘い雰囲気ではなかったはずだ。
 キラーは、面白そうにからかい、ホークは無関心だった。
 ラセも、無関心で居ようと心掛けた。 
 でも、ルイとチャナの事が気になってしまう。

 よく考えたら、男世帯のせいもあり、いままでルイがラセ以外の女の子と親しくしているのを、見たことがなかった。

 だから、ルイの隣は、ラセの指定席だったはずなのに。
 どうしてこんなに、心が苦しいのだろうか?

 ラセは、ウェイルだけがいれば、よかったはずなのに。



 悶々としていると、城に辿りついた。
 城には、着飾った人達がいて、楽しそうに談話している。
 豪華な食事が端に並び、演奏家達の音楽に合わせて中央では優雅にダンスを踊る人達がいる。

「うまそうな食事だな」

 ルイは真っ先に食事に食らいついた。

「品がないぞ。ルイ」

 食べ物に夢中のルイにクレイはあきれ果てた。

「ルイは、舞踏会を楽しんでくれているようだな。喜んでもらえてよかった」

 キラーは豪快に笑った。
 チャナは、羨ましそうにダンスを踊る人達を見つめている。
 それに気付いたクレイが手を差し出した。

「どうですか?一曲ご一緒してはいただけませんか?」
「クレイにワルツが踊れるであるか?」
「たしなみ程度には」

 クレイは、チャナの手を取ると、リードし始めた。
 うまくはないが、下手でもない。
 少なくとも初心者ではないのだろう。
 チャナは、クレイのまあまあなリードに満足したようだ。
 ダンスをする花へと交じっていく。

「では、行くか。肖像画の所へ」

 ホークは、手を差し出した。

「えっと、なぜ手をつなぐ必要が?」
「肖像画への通路は、ここから反対側にある。ダンス場を通り抜けて行った方が早い。
 だから」

 ホークは、ラセの身長まで屈みこんだ。

「一曲踊って頂けますか?」
「ば、ばか!使用人にダンスを申し込む貴族がどこにいる!」
「ここに」

 ホークは、真面目な顔で答えた。
 冗談を言っているつもりは無いらしい。
 ラセは、ため息をついた後、ホークの手のひらに手を乗せた。

「向こう側に渡るだけだ」

 ラセの同意を得たホークは、優雅な動きで、ラセをリードして踊る。
 当然ドレスを着ていないラセは悪目立ちした。
 人々の蔑みの声が聞こえるが、相手がホークだと気付くと驚きの声があがる。

「なんで、使用人と王家に親しい家柄のホーク様がダンスを!」
「ホーク様は、誰ともダンスを踊らないはずなのに、悔しい!」

 ハンカチをかみしめて、悔しがる貴婦人までいる。

「ホークって、モテるんだ」
「権力目当ての人間に興味はない」

 ダンスを踊る過程で自然とホークと身体が密着する。
 端正な顔立ちが近い。
 役人の割に、身体は鍛えているらしい。
 恋愛に疎いラセには、よくわからないが、ホークみたいな人を美形と人々は呼ぶのだろう。

「反対側についたぞ」

 ホークは、ラセから身体を離した。

「それにしても、足を踏まれるのを覚悟で誘ったのだが、一度も踏まれなかったな。
 ステップに間違いもなかったし、もしかして初心者ではないのか?」
「えっと、ホークのリードが上手かったから。それしか考えられない」

 本当は、フォーチューン国に嫁ぎに行くにあたり、猛特訓させられたのが、身体に染みついていたからとは言えなかった。

「……そうか?まあ、ラセとダンスを踊れて楽しかった。
 肖像画の場所にはこの通路から行ける」

 ホークの指示に従い、ラセは舞踏会会場から離れる。
 しばらく歩くと、壁に何枚もの肖像画がかけられている通路に出た。

「この肖像画は、歴代の王と王妃を描いた物だ。
 そして、王と王妃の指にある指輪が、国家の宝だ」

 ラセは、まじまじと、指輪を見た。
「国家の宝である指輪は、フォーチューン国の王と妃の婚約指輪として、代々受け継がれて来た。
 ウェイル様が、こっそりと国外に持ち出した事まではわかっているのだが、その後の足取りがつかめない。
 こちらも捜索部隊を派遣してはいるのだが、なかなか有力な情報は無い状態だ」
「……」
「ラセどうした」

 ラセは、指輪に見入って、胸元を抑えていた。
 いや正確には服の上から、ウェイルからもらった指輪を握りしめていた。

 ラセは、何度も肖像画の絵を見た。
 ウェイルからもらった婚約指輪が、国家の宝の指輪だと確信した。

 指輪を今、ホークに渡せば、フォーチューン国と李祝は救われる。

 それなのに、身体が動かずに硬直してしまっている。
 ウェイルとの形ある絆を失うことを恐れているのだ。

「ラセ、具合でも悪いのか?」

 ホークに身体を揺すられて、ようやく、ホークに呼ばれていることに気付いた。

「……大丈夫」

 ホークの顔をまともに見られない。

「すこし、疲れたか?外の空気でも吸って休むか?
 噴水のある庭園が近くにあるのだが」
「……うん。連れてってくれる?」

 ラセは、ホークに支えられて立ち上がった。
 無言で二人は歩く。

 外に出て、噴水のある近くのベンチに腰を下ろした。
 夜風が心地よい。
 風の精霊が舞、水の精霊が噴水で遊んでいる。
 ラセは、のんびりとした精霊達の様子に、心を落ち着かせた。

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