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海賊編 第六章 フォーチューン国本島

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 ドアをロックする音がした。

「ホーク。私だ。衣装が決まった」
「そうか。舞踏会まで時間があるな。悪いが、ラセを呼んできてくれ。話がしたい」
「わかった」

 キラーは、ラセを呼びに遠さがって行った。

「悪いが、クレイも席を外してくれるか?」
「……ラセに何を聞くつもりだ」
「ウェイル様の件で、話をするだけだ。

 残念な事に、闇の霧に堕落したことになっているウェイル様の件を公で話すのを、あまり好ましく思わない者もいてな。
 特に、パール王子びいきのキラーなどは、世間体を気にしたがる」

「ホークは、パール王子びいきではないのか?」
「あのような、お飾り王子、血筋は同じでも、王に相応しいとは思えない」
「?」

 実際にパール王子に出会った事のないクレイはどう返していいのかわからなかった。

「今回の舞踏会には、パール王子も出席される。
 気になるのならば、自分の目で判断することだ」

 控えめにドアを叩く音がした。

「呼ばれたラセです。そのお入りになっても」
「かまわない。扉は開いている」

 ラセが扉を開けて部屋に入ってくると同時に、クレイは部屋から出て行った。
 一度も目を合わせようとしなかったクレイを不思議に思ったが、ホークに呼ばれて、席に座った。

「よく来てくれた。キラーの遊びには、疲れただろう?」
「いえ。我儘を言って、結局使用人の服で舞踏会に参加することにしました。後ルイも」

 ラセの予想外の言葉を聞いて、ホークが吹きだした。

「そうか。いや、実に欲がない。あのキラーを足蹴に取るなど、貴殿は私が見込んだだけの人間である」

 ホークは、目に涙を浮かべて笑っている。

「別に足蹴にしたわけでは」
「わかっている。だが、キラーには、十分に気を付けろ。
 私と違い堅苦しくはないが、人の心に漬け込むのが得意でな。油断出来ない人物だ」

 ホークの言葉にどう返していいのか、わからず押し黙った。
 それよりも、この部屋の中にいる、水の精霊に戸惑っていた。
 出来るだけ、水の精霊が見えるのを悟られないように、視線で追わないよう、気を付けてはいるが、気になる。
 水の精霊は、ラセではなく、ホークに懐いているのだ。

「どうかしたか?」

 ぼーとしていたラセを不審に思い、ホークは首を傾げた。

「もしかして、私の話は、面白くはないか?」
「そのようなことはありません」

 ラセは、懸命に首を振って否定した。

「そうか。よかった。では、本題のウェイル様の件について、話をしたいのだがいいか?」
「は、はい」

 ラセは、姿勢を正した。

「そのように、気負わなくてもよい。後敬語は要らない」
「わ、わかった」

 いつまでも緊張の解けないラセにホークは苦笑した。
 その時、水の精霊が、ホークの目の前を通り過ぎた。
 ホークは目を細めて、水の精霊を見つめた。
 ラセはこの時確信した。ホークは水の精霊が見えているのだと。

 不意に、風が吹いた。
 机の上の書類が飛ぶ。
 ホークは慌てて書類を抑えたが、一枚ラセの元へと運ばれた。

 ラセは、風の精霊が書類を運んできたのだと、瞬時に分かった。
 他の書類を片づけるのに、夢中なホークの目を盗み、ラセは風の精霊が運んできた書類に目を通した。

『また、闇の霧に島国を奪われた。
 今回は李祝だ。
 段々本島に闇の霧の脅威が近づきつつあり、市民も恐怖を隠せずにいる。
 状況は最悪だ。
 国家の宝があれば、闇の霧など、敵ではないのに。
 ウェイル様が、戻ってこられれば、ウェイル様が持つ国家の宝の指輪さえあれば、
 フォーチューン国は救われるのに。
 今は、とにかく、国家の宝と、ウェイル様の手がかりを探すのが、この国の為だ。
 ウェイル様が闇の霧に奪われてから、出会った事のある娘を見つけた。始め男だと思ったのは内緒だ。
 とにかく、この娘ラセから、情報を聞き出すことにする。
 全ては、フォーチューン国の為に』

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