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海賊編 第五章 李祝
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しおりを挟む「遅い」
アンナは、海賊船の中で、イライラと机を小刻みに叩いている。
「確かに遅いね」
皿を磨きながら、トタプも心配して眉を下げた。
「わたし見てくる!」
アンナは、居てもたってもいられずに、甲板へと飛び出していった。
アンナが甲板に付くと、丁度クレイがチャナ達を連れて船に戻って来た所だった。
「クレイ。ルイとラセは?」
「ラセは、ルイを連れ戻しに行った」
「なら、わたしも探しに行く」
「駄目だ。二次遭難いや今回の場合三次遭難になるのか?とにかく駄目だ。
ラセなら、きっとルイを連れ戻して帰ってくるさ」
クレイは、アンナを励ます為に、拳を上げて大丈夫の意思を示した。
まだ不安は残るものの、クレイの言うことはもっともだったので、アンナは耐えた。
「それで、李祝の住人の避難は終わったのか?」
「周辺の民家に住む人々とその知り合い程度は。
ただ、屋敷の人間まで、避難勧告が届いていたかはわからないわ」
アンナ達が住民を避難させ始めた時、既に領主の屋敷は、闇の霧に覆われていた。
むやみに近づいては、新たな犠牲者を出しかねない状態だったのだ。
「屋敷の状態は、先ほど確認した。チャナ様達も保護した。
後は、ラセとルイが戻れば出航出来るな」
「ちょっと出航ってこの島を離れるってことであるか?
チャナ達は、まだあきらめていないである。
残る闇の霧は、浜辺だけであろう?
ならば、浜辺に居る闇の霧の根源を倒せばよいだけの話である。
そちら行くぞ」
チャナの言葉に護衛達の表情は硬い。
「ですが、また誰かが犠牲になったら」
先ほどの家臣達が居なくなった屋敷を見て、護衛達の戦う気力が落ちているらしかった。
「この島は確かに大事です。でも生きていなければ、何の意味もありません」
「島から脱出して本島に匿ってもらえば、民たちは闇の霧におびえる生活をしなくてもよくなります。ですから」
「意気地無し達に用はない!チャナは一人でも行くである」
チャナは、護衛の停止を振り払った。
遠目に、ラセがルイをお姫様抱っこして歩いてくるのが見えた。
ラセの後ろには、闇の霧が迫っている。
「ラセ。ルイ戻ったか!」
クレイは、ラセからルイを受け取った。
疲労したルイは、眠り込んでいた。
「闇の霧が船の近くまで来ている。急いで出発して」
「ああ」
クレイは、ルイを抱えて船へと乗り込んだ。
船の前で立ち尽くすチャナと護衛達。
「乗って。この島にはもういられない」
平然と答えるラセにチャナはビンタを食らわした。
ラセの頬が赤くなる。
「チャナ様」
護衛に後押しされて、チャナは、しかたなく船へと乗り込んだ。
「ラセも早く!」
甲板からアンナが呼ぶ。
その呼び声に誘われるように、ラセも船に乗り込んだ。
ラセが船に乗り込むと同時に、海賊船は出航した。
闇の霧に包まれる李祝が小さくなるのをラセはずっと眺めていた。
李祝を眺めるラセを憎たらしくチャナは睨み付けていた。
ラセ達が援軍に来たから、人数が増えたから警備に油断が出来たのだ。
ラセは屋敷の家臣を助けてはくれなかった。自分達の仲間は助けたくせに。
ついには、李祝を出ていかざる負えなくなった。
全ては、ラセが悪いのだ。ラセが悪い。
嫌な事の責任をチャナは全てラセのせいにした。
そうしなければ、大切な家臣と島を失ったチャナの心は保てなかったのだ。
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