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海賊編 第四章 凪
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しおりを挟む翌日。
フォーチューン国本島に辿りついた海賊船は、一部の人間を伴い、買い出しに出かけた。
ラセは、海賊船に残る選択をした。
ここは、ウェイルの生まれ故郷で、ラセが嫁ぐ予定だった場所だ。
しかし、ウェイルが隣に居ないのに、上陸する気にはなれなかった。
ラセは、仕事を終えた後、自室に籠って寝ることにした。
懐かしい夢を見た。
ウェイルが、やってきて、嫁ぐことが決まった瞬間の夢を。
一番幸せだと感じた時の記憶を思い出していた。
「ラセ。ラセ」
心地よい夢の中。雑音が入る。
かぶりをふって、その雑音を追い払おうとする。
早く、ラセと呼ばれる人が、呼んでいる人の傍にいけばいいのに。
そうしたら、この雑音は無くなるのに。
いつまでも、続く雑音に嫌気がさす。
誰なのだろう?
少年が呼び続ける相手は。
「五月蠅い。私は、ラセじゃない。私は……」
五月蠅かった少年の声が止んだ。
そうだ。私の本当の名前は……。
そこまで、考えて、ああと気付く。
そうだ。この頃は、まだ、別の名前を名乗っていた。
今の名前では、無かった。
今の名前は、闇の霧に襲われて、王国から追放させられた後に名乗り始めた偽名だ。
「ラセ」
今後は身体を揺すられるのを感じた。
意識が、眠りから現実へと覚醒していく。
そして、現実へと導く声が、ルイのものだと気付く。
ラセは、慌てて覚醒した。
飛び起きたラセと至近距離に居たルイがぶつかった。
「「痛い~!」」
同時におでこを擦る二人。
「たっく。飛び起きるなよな。びっくりした」
ルイが悪態をつきながら、ラセを涙目で睨み付ける。
「ごめんなさい」
明らかに悪いラセは、ルイに対して謝罪を述べた。
「夕飯の時間がすぎても、こないから、心配になって呼びに来たんだ」
そこまで、話してルイは顔を背けた。
「その、鍵が開いていたから、勝手に入って悪かった。だから、服を整えてくれるか?」
ラセの服は、寝起きで乱れていた。
鎖骨が見え、肩まで寝着がずり下がっている。
ラセは、ルイに指摘された通りに、服装を整えた。
「その、さっきの話は、本当なのか?」
「さっきの話って?」
寝ぼけている時の事を思い出せなくなっていたラセは、首をかしげた。
「……いや、なんでもない」
不自然に言葉を打ち切るルイを不審に思いながらも、ラセは、寝台から降りた。
同時にラセのお腹が鳴った。
「トタプさんが作ってくれた夕飯まだある?」
「ああ。取り置きしてテーブルに置いてある」
「そっか。ありがとう」
部屋を出て行くラセは、既に夕飯のことしか頭になかった。
ルイは、壁を殴った。
「俺って意気地無しだな」
昨日トタプに、知りたいなら、知ればいいと言われた。
それなのに、ラセに聞くことが出来なかった。
今の名前が、ラセの本当の名前ではないのかと。
聞いたら、今まで築き上げた大切な関係が壊れてしまいそうで怖かった。
前みたいに、ラセが一人で旅立って行ってしまうのではないかと、不安だった。
「俺、どうしたらいいのだろう」
最初は、自分よりも幼い子供が、無茶をするのを放置出来なかった。
一緒に行動する内に、妹のように思えて、守りたいと思った。
でも、今はどうだろうか?
ラセの事を純粋に知りたいと思うと同時に、ラセに遠くに行ってほしくないと望む自分がいる。
ラセは、詮索されるのが、好きではなく、自分の事は、多くは語らない。
それでも、ルイに過去の事を話してくれたから、すこしは、信頼されているのだと思う。
でも、まだルイの知らないラセがいる。
今のルイでは触れる事すら敵わない、ラセの深い心。
きっと、ウェイルは、ラセの全てを知っているのだろう。
出なければ、ラセはあそこまでウェイルに依存したりはしないはずだ。
ラセのことを知り尽くしたウェイルに対して、ルイの中から悔しさがこみ上げた。
誰かに嫉妬することなど、今までなかったからルイは自分の感情に困惑した。
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