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海賊編 第三章 ノリ―ア姫

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 どうしてこうなったのだろうか?

 ラセは、街並みを見渡しながら、ため息をついた。
 話は、クレイ達が、朝食を取り終ったあとまで遡る。

「じゃあ。ふりわけは、これで決まり。各自仕事をがんばれよ!」

 クレイの合図で、仕事の役割を決める為に集まった海賊達は解散した。
 ラセは、一日目は、休暇。二日目は、海賊船の護衛の仕事を勝ち取った。
 これで、外に出なくても済む。
 ラセは、自室に戻って鍵を閉めて、眠りについてしまおうと思った。
 ところが、その腕をルイに掴まれた。

「ラセ。今日休暇だろ?俺に付き合ってくれよ。きっと楽しいぞ」

 ルイは、うきうきとした様子でラセを見つめた。
 犬だったら、絶対に尻尾が揺れているだろう。
 ちなみに、ルイの今日の仕事は棺の調査だ。決して休暇ではない。

「なぜ、あなたの仕事に私が付き合わなければならないの?」
「仕事はさせないって。ただ街をぶらぶら見て回るだけ」

 おかしい。ルイの仕事は、棺を国家の研究機関に引き渡した後、クレイのお供として、役所で事務処理をして、その帰りに、闇の霧についての聞き込み調査をする予定のはずだ。
 けして、街をぶらついて遊び歩く時間などあるはずがない。

「ルイ。もしかして、さぼる気?」
「違うって。効率化を考えて、俺は、別行動になったの」

 ルイが、言い訳をしていると、突然二人の頭の上に、大きな手が被さった。

「ルイに告げたことは、嘘じゃない。

 棺を運ぶには、力自慢の海賊達にまかせておけばいいし、研究機関への話と、役所への事務処理は、俺一人で足りる。現に、他の海賊達には、棺を運び終わったら、自由行動にしていいと告げてあるし」

「じゃあ。ルイの仕事はなに?」
「ルイの仕事は、闇の霧についての聞き込み調査。街中を沢山歩かなければならないから、デートには、丁度いいだろう」
「「デ、デート!」」

 ラセとルイは、クレイの言葉に赤面した。
 デートなんて、いままでしたことなかったし、なにより、ラセには、婚約者がいるのだ。他の男と付き合うなど考えられなかった。

「デートって、俺達そんな仲じゃねーし!」

 ルイが照れながら否定する。
 それを、楽しそうににやけながら、クレイが見つめる。

「デートならば、余計に一緒にはいけない」

 ラセは、ルイの手をふりほどいた。
 普段から、無愛想なラセだが、今回の事に関しては、怒りが含まれている気がした。

「私には、婚約者がいるから」

 ラセは、冷めたまなざしをルイとクレイに向けた。
 その言葉を聞いて、クレイは、地雷を踏んでしまったと自覚した。
 前に闇の霧の者を婚約者と呼んでいたことをすっかり忘れていた。
 気まずくなる空気。

「なあ、ラセ。おれ、別にお前とデートとか、恋仲になりたいとか、そんなこと、思ってないんだ。ただ、同じ海賊団の仲間として、仲良くなれたらって思えて」

 しょんぼりと、反省した様子のルイが告げた。

「ルイ」

 ルイは、そっけない態度を取られても、ラセと親しくなろうと、努力してくれていた。
 それでも、ラセは、誰かと親しくなることをずっと避けていた。
 自分が、付き続けた嘘がばれるのが、怖いから。
 ばれた時に、また嘘吐きと言われるのが、嫌だから。
 でも、今振り返れば、それは、全て自分勝手な我儘だ。
 相手を見ずにただ、逃げ出しているだけだ。
 ノーリア姫も、ラセと親しくしてくれようとした。
 でも、結局自分は、逃げ出してしまった。
 過去だ。過去だと思いながらも、振り払うことが出来ない。
 だからって、自分の過去を知らないルイの好意を拒絶してもよいのだろうか?
 答えは、否定。
 ルイは、何も悪くないのだから。

「デートじゃないなら、付き合ってもいい」

 ラセの素直になれない、そっけない態度でも、ルイは、嬉しそうに歯を見せて笑ってくれた。
 白い歯が、眩しい。
 きっと、ルイの心の中も、真っ白で穢れがないのだろう。
 穢れだらけの、ラセとは大違いで。

「ただし、今日の分は、仕事扱いにして」

 クレイは、ちゃっかり者のラセに参ったと苦笑を浮かべて承知した。
 





 確かに、一緒に街並みを見て回ることも、闇の霧の情報を調査することも、同意した。
 でも、どうしてこうなってしまったのだろうか?
 ルイが居ない。
 興味がありすぎて、どこかで寄り道でもしているのだろう。
 それは、まあ、大した問題じゃない。

 ラセは、街並みを見渡した。
 そして、目の前に立つウェーブをした濃緑色の髪をした少女を見つめて、ため息をついた。
 少女は、目をキラキラと輝かせている。

「ラセですわよね」

 少女の問いかけに、苦笑いを浮かべながら、ラセは認めた。

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