33 / 115
海賊編 第一章 闇の霧対策部隊、王国所属の海賊
33
しおりを挟む
けれど、ラセには、通常時で見えて、会話を交わすことが出来た。
彼女達から聞いた冒険物語は心躍る物だった。
彼女達から教わった知識は、真実のみで、人間が簡単に書き換えられる歴史書とは異なっていた。
幼い頃、姿が見えない者を見えると言い、歴史書を否定したラセは、嘘吐き扱いされた。
嘘吐き扱いしなかったのは、ラセと同じように、水の精霊を認識出来たウェイルだけだった。
ウェイルの傍は、心地よかった。
ありのままの自分で居られた。
ウェイルが居なくなって、自分の居場所が無くなって、生き残る為に、ラセは、嘘をつくこと覚えた。
そしたら、誰もラセを嘘吐きと呼ばなくなった。
「今回は、惜しかったね」
暗闇から声が、聞こえた。
聞き覚えのあり過ぎる声に、ラセは、足を止めた。
辺りには、うっすらと闇の霧が満ちていた。
「その声、ウェイル?」
ラセは、喜びに頬を緩ませた。
「うん。そうだよ」
「ねえ、姿を見せて」
「まだ、駄目だよ。もう少し僕のお姫様が、がんばったらね」
ウェイルは、時々意地悪だ。
ラセが、闇の霧に対抗した分しか、姿を見せてくれないし、一緒に居てくれない。
それでも、ラセは、ウェイルが、生きていてくれるだけで、時々言葉を交わせるだけでうれしかった。
「だから、諦めずに、僕を追ってきてね」
わずかに、手のひらが頭を撫でてくれた感覚がした。
その感覚が、心地よくもあり、すぐに離れてしまったことが寂しくもあった。
「私は、闇の霧を倒す。そして、ウェイルを解放するから」
ラセの力強い言葉に、ウェイルは、うれしそうな声を上げた。
「うん。待っているよ。僕の勇敢なお姫様」
闇の霧が、薄くなって、姿をかき消した。
ウェイルの存在も感じられなくなり、ラセは、心細くなった。
「ラセ!」
霧が晴れた頃、ルイが走って来た。
「ルイ?」
「今、このへんに闇の霧が発生していただろ!闇の者に会って居たり、被害に会ったりしてないだろうな」
ルイは、怪我をしていないか、ラセの身体を触って確かめ始めた。
「ちょっと」
ラセは、ルイの拘束から逃れようと身じろぎした。
「大丈夫だから!」
ラセが、ルイを突き放そうとした時、ラセの胸にルイの手が触れた。
「!」
ルイは、慌てて手を離すと、ラセを指差して、驚愕していた。
「お前、女だったのか!」
今更気付いたルイに、ラセは、どう答えてよいのかわからない。
ただ、一言、ラセは、顔を真っ赤に染めて呟いた。
「変態」
「変態って!」
「変態は、変態。私に触らないで」
ラセは、身を守るように身体を抱えた。
じっと睨み付けるラセに、ルイは一歩離れた。
「わかったよ。悪かった。もう触ったりしないから、だから、付いてきてくれるか?」
「施設にならば、一人でも戻れる」
「施設じゃねーよ」
「?」
不思議そうに立ち尽くすラセに対して、ルイは、言いづらそうに告げた。
「船。俺達の海賊船にこい。その、船長とクレイは俺が説得するから」
「どういう、風の吹き回し?」
「そのままの意味だよ。お前このまま大人しく施設に居そうになさそうだし、目的が同じなら、一緒に行動した方が、効率もいいだろ」
照れているのだろうか?
ルイの耳がわずかに赤い。
「それに、ラセに言われて、思い直したんだ。
確かに今までは、海賊船の皆が、闇の霧に立ち向かうから、俺もなんとなく付き合ってきた。けど、それじゃ、駄目なんだって事。
今は、闇の霧に立ち向かう明確な理由は、無いけれど、闇の霧に困っている人々を助けたいって気持ちは確かにあるし、ガキのおまえが、頑張っているのに、放置しておけないだろう」
「私は、そこまで、ガキではない。でも」
「でも?」
「どうしても、一緒に行動してほしいと望むのならば、付き合ってあげてもいい」
「ずいぶんと上から目線だな」
「嫌なら」
「いや」
ルイは、ラセに向き合うと、優しい笑みを浮かべた。
「嫌じゃない」
なぜ、彼は、こんなにも、笑えるのだろうか?
私は、あの日を境に笑えなくなってしまったのに。
「なら、決まり。さっさと、私を船まで連れて行きなさい」
「本当に上から目線だな」
ラセの態度に、ルイはまた笑った。
おかしなところなど、人に馬鹿にされることなど、一言も言っていないつもりなのに。
ルイの後に続いて歩く。
いつのまにか、日が明けて、朝日が出ていた。
彼女達から聞いた冒険物語は心躍る物だった。
彼女達から教わった知識は、真実のみで、人間が簡単に書き換えられる歴史書とは異なっていた。
幼い頃、姿が見えない者を見えると言い、歴史書を否定したラセは、嘘吐き扱いされた。
嘘吐き扱いしなかったのは、ラセと同じように、水の精霊を認識出来たウェイルだけだった。
ウェイルの傍は、心地よかった。
ありのままの自分で居られた。
ウェイルが居なくなって、自分の居場所が無くなって、生き残る為に、ラセは、嘘をつくこと覚えた。
そしたら、誰もラセを嘘吐きと呼ばなくなった。
「今回は、惜しかったね」
暗闇から声が、聞こえた。
聞き覚えのあり過ぎる声に、ラセは、足を止めた。
辺りには、うっすらと闇の霧が満ちていた。
「その声、ウェイル?」
ラセは、喜びに頬を緩ませた。
「うん。そうだよ」
「ねえ、姿を見せて」
「まだ、駄目だよ。もう少し僕のお姫様が、がんばったらね」
ウェイルは、時々意地悪だ。
ラセが、闇の霧に対抗した分しか、姿を見せてくれないし、一緒に居てくれない。
それでも、ラセは、ウェイルが、生きていてくれるだけで、時々言葉を交わせるだけでうれしかった。
「だから、諦めずに、僕を追ってきてね」
わずかに、手のひらが頭を撫でてくれた感覚がした。
その感覚が、心地よくもあり、すぐに離れてしまったことが寂しくもあった。
「私は、闇の霧を倒す。そして、ウェイルを解放するから」
ラセの力強い言葉に、ウェイルは、うれしそうな声を上げた。
「うん。待っているよ。僕の勇敢なお姫様」
闇の霧が、薄くなって、姿をかき消した。
ウェイルの存在も感じられなくなり、ラセは、心細くなった。
「ラセ!」
霧が晴れた頃、ルイが走って来た。
「ルイ?」
「今、このへんに闇の霧が発生していただろ!闇の者に会って居たり、被害に会ったりしてないだろうな」
ルイは、怪我をしていないか、ラセの身体を触って確かめ始めた。
「ちょっと」
ラセは、ルイの拘束から逃れようと身じろぎした。
「大丈夫だから!」
ラセが、ルイを突き放そうとした時、ラセの胸にルイの手が触れた。
「!」
ルイは、慌てて手を離すと、ラセを指差して、驚愕していた。
「お前、女だったのか!」
今更気付いたルイに、ラセは、どう答えてよいのかわからない。
ただ、一言、ラセは、顔を真っ赤に染めて呟いた。
「変態」
「変態って!」
「変態は、変態。私に触らないで」
ラセは、身を守るように身体を抱えた。
じっと睨み付けるラセに、ルイは一歩離れた。
「わかったよ。悪かった。もう触ったりしないから、だから、付いてきてくれるか?」
「施設にならば、一人でも戻れる」
「施設じゃねーよ」
「?」
不思議そうに立ち尽くすラセに対して、ルイは、言いづらそうに告げた。
「船。俺達の海賊船にこい。その、船長とクレイは俺が説得するから」
「どういう、風の吹き回し?」
「そのままの意味だよ。お前このまま大人しく施設に居そうになさそうだし、目的が同じなら、一緒に行動した方が、効率もいいだろ」
照れているのだろうか?
ルイの耳がわずかに赤い。
「それに、ラセに言われて、思い直したんだ。
確かに今までは、海賊船の皆が、闇の霧に立ち向かうから、俺もなんとなく付き合ってきた。けど、それじゃ、駄目なんだって事。
今は、闇の霧に立ち向かう明確な理由は、無いけれど、闇の霧に困っている人々を助けたいって気持ちは確かにあるし、ガキのおまえが、頑張っているのに、放置しておけないだろう」
「私は、そこまで、ガキではない。でも」
「でも?」
「どうしても、一緒に行動してほしいと望むのならば、付き合ってあげてもいい」
「ずいぶんと上から目線だな」
「嫌なら」
「いや」
ルイは、ラセに向き合うと、優しい笑みを浮かべた。
「嫌じゃない」
なぜ、彼は、こんなにも、笑えるのだろうか?
私は、あの日を境に笑えなくなってしまったのに。
「なら、決まり。さっさと、私を船まで連れて行きなさい」
「本当に上から目線だな」
ラセの態度に、ルイはまた笑った。
おかしなところなど、人に馬鹿にされることなど、一言も言っていないつもりなのに。
ルイの後に続いて歩く。
いつのまにか、日が明けて、朝日が出ていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる