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盗賊編 第八章 火矢の嵐

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「その話、本当か!」

 セイハは、火の国の住人に食い下がった。
 セイハの目は、嘘は許さないと訴えかけていた。

「本当だ。姫の名前は確か」
「言わなくていい!」

 突然怒鳴ったセイハに、火の国の住人は怯えた。
 セイハは、気まずそうに視線を逸らすと、懇願するように、弱弱しい声を発した。

「お願いだ。こいつの目の前で、言わないでくれ」
「は、はい」

 セイハは、それっきり黙り込んでしまった。
 セイハは、ロティーラが知らないことを知っているのかもしれまい。
 たぶんロティーラには言えないことで、秘密にされることに対して、胸が苦しく感じた。

『とりあえず、水の国と風の国の結婚式にいくのだろう?
 行かなければならない、定めの様だから」
「うん。行こう。水の国と風の国の結婚式へ」
「有難うございます」 

 いつのまにか、沢山の火の国の住人が現れ、ロティーラ達にお辞儀をしていた。
 火が消えてことにより、避難していた人々も、ロティーラ達を見上げていた。
 町の人が無事であることを知ったロティーラは、手を振った。

「ジョン。ごめん。耐えてくれ」

 歓声にかき消されて、セイハの苦痛の独り言は、誰も聞いていなかった。

「う!」

 火の国の住人達が突然苦しみだした。
 闇の中から、恐ろしい声が聞こえてきた。

『そこの魔神と少年と少女よ。
 よくも火を町から消し去った。
 今回だけは、ほめてやろう。
 しかし、水の国と風の国の結婚式は、邪魔をさせない。
 これで、エレメンタル大陸の五つ国を支配できる日も遠くない』

 闇の帝国の者は、不気味な笑い声を残して、消えた。
 闇の帝国の者が去ると、雨がやみ、空が晴れ渡る。
 火の国の住人達は、消えかける闇に飲み込まれるように姿を消してしまった。

「あ――――――――!」

 ロティーラが突然、何かを思い出したのか、大声を上げた。
 大声に辺りに居た人々が驚愕している。

「ドレスが、燃えちゃった」

 ロティーラ達が止まっていた黒猫亭は、燃えてしまっていた。

「どうしよう。ドレスが~」

 ロティーラは、大声で泣き始めた。
 セイハは、大声の五月蠅さに耳を抑えているが、顔は、可笑しさで笑っている。
 セイハの様子に気付いたロティーラは、頬を膨らませて怒った。

「笑わなくてもいいじゃない。ドレスが無いと、結婚式に行けないんだから」
「別におまえが、出るわけじゃないだろ」

 セイハとロティーラは、久しぶりに張り合った。
 二人の喧嘩する様子を、魔神サピダジョースンは、呆れながら聞いていた。
 確かに、自分の主は、変で落ち着きがないかもしれない。
 けれども、町を燃やされ、悲しい思いをしている人々が、二人の様子を微笑ましげに見つめている。
 人々に、笑みを取り戻したのは、間違いなくロティーラの力で、魔神サピダジョースンは、改めて見直した。

 ロティーラは初めて会った時から、変なことを言う娘だった。
 しかし、そこが良いのだ。
 自分の欲望しか持っていないと思っていた人間達だが、この娘と出会い、行動を共にすることによって、人間にもいいところがあるのだと、教えてもらった。

 この娘、ロティーラは、本当に不思議な少女だ。
 変で、落ち着きがなくて、予想外の行動をする娘だからこそ、もっと知りたくて、ずっと一緒に居たいと思うのだ。

 魔神は、大抵、何かを守ったりするために、産まれてくる。
 しかし、わたしは、何を守る為に、産まれて来たのか、わからなかった。
 だから、沢山の人に出会える機会を作る為に、「一つだけ願いを叶えてくれる魔神」として今まで生きて来た。
 だが、もうその必要はない。

 わたしは、ようやく守りたい者を見つけられたのだ。



 おそらく、セイハも気付いていると思うが、ロティーラは、ただの少女ではない。
 この娘は、セイハと、エコシェザニーと似た力を持っている。
 まあ、本人は、気が付いていないようだが。

 セイハとロティーラの口喧嘩に、町の人達も参加して、笑い声が響き渡る。
 さすがに五月蠅く感じ始めたので、魔神サピダジョースンは、口喧嘩を終わらせることにした。

『ドレスならば、大丈夫だ。わたしが黒猫亭を出る前に、結界を張って守っておいたから』

 ドレスが無事だと分かると、ロティーラは、嬉しそうに笑った。
 ロティーラの笑みに釣られて、魔神サピダジョースンも微笑みを浮かべた。
 魔神サピダジョースンに教えられた通り、黒猫亭跡地に向かうと、ドレスなどの荷物は無事だった。
 町は、ほとんど焼けてしまったけれども、「泣いている暇があったら、直す」と、町の人々は、前向きだった。
 普通は、簡単に割り切れないだろうに、ロティーラに笑顔を分けてもらったおかげか、町の人々の顔は、晴れやかだ。


 翌日。復興作業をする町を後にした。
 水の国と風の国の結婚式会場は近い。

 闇の帝国が待ち構えていることを知ったが、ロティーラ達は、立ち向かおうと決めた。


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