上 下
16 / 115
盗賊編 第七章 地の国クエル王国

16

しおりを挟む
 ロティーラは、セイハに向かって、泣きそうな声で、怒っている。
 ミヤとは、ロティーラ達を助けてくれた少女の事だ。
 助けてもらった日依頼、ミヤの家にお世話になっていた。

「雨が、降らないのは、おれのせいじゃねーよ」
「だったら、水の王国の力で△○☆」

 ロティーラの口を、セイハが押さえつけた。

「静かにしろよ」
「……」

 ロティーラが、頷くと、セイハは、手を離した。
 おぼつかない足取りで、ベンチに座る。
 黙り込んだ、ロティーラの隣に、セイハも腰を下ろす。
 俯いたロティーラの様子を窺ったセイハは、ロティーラが泣いていることに気付いた。

「ロティーラ。……大丈夫だから。おれが、なんとかしてやるから、だから、泣くなよ」
「……本当?」

 セイハと視線を合わせたロティーラの目に涙がたまっている。

「本当に、ミヤさんを助けられるの?……ヒック」

 ロティーラは、泣きすぎて、言葉を続けられなかった。
 心配したセイハが、ロティーラの肩に手を置いた。
 セイハは出来るだけ、とびっきりの笑顔を作り、優しく言った。


「大丈夫だ。おれがかならず、助ける。ミヤさんを生贄にはさせない」


 セイハは、ロティーラの涙を開いた手でふき取る。
 ロティーラは、『セイハがいれば、大丈夫』だと思えた。
 不安定な気持ちは、セイハの身体に寄り掛かると、収まって行った。
 




 雨が降らないまま、雨降り祭り当日を迎えた。
 雨降り祭りは、昼から開催される祭りで、朝は、準備の為、祭りの人達は慌ただしく働いていた。

「ついにこの時は着てしまった」

 空は、雲一つない青空で、雨が降りそうには思えない天候だった。
 段々と日が上り、昼が近づいてくる。
 ミヤは、生贄の白い衣装に着替えさせられていた。
 顔は白い布で覆い隠されていた。
 ミヤの身体は、死への恐怖で震えていた。

「私、今日で死んでしまうのかな?」
「ミヤさんを死なせたりしません。絶対に!」
「そうだ。おれ達がいるのだから」
「有難う。ロティーラ。セイハ」

 ミヤから震えが収まり、ロティーラとセイハ安堵した。




 ついに、雨降り祭りが、開催された。
 祭りの内容は、雨乞いの為、踊ったり、祈りを捧げたりするものが多かった。
 ロティーラは、祭りの出し物の一つ、砂押しに参加した。
 砂押しとは、砂を大袋に入れて、大袋の上で踊るシンプルな芸だ。
 大体二十代前後の男女が、宙が入りをしたり、跳ねたり、飛んだりしていた。
 ロティーラも、まざって芸を楽しんでいた。
 でも、楽しんでいる間にも時は流れていく。
 日が沈んでも、雨が降ることはなく、雨降り祭りの大イベントである生贄が、始まろうとしていた。
 生贄は、底が見えないほど深い大きな井戸に落されるのだ。
 井戸の底に住む、魔物に生贄をささげることによって、雨が降ると昔から言い伝えられていた。
 観客は、井戸の周りへと集まっている。

「ねえ、セイハ本当に大丈夫なの?」

 いくらロティーラが問いかけても、セイハは黙って、真剣に何かを考えていた。
 ロティーラは、不安な気持ちになった。


 観客から、叫び声が湧きあがった。
 生贄の衣装に身を包んだミヤが、神官に連れられて、やって来たのだ。
 ミヤの周りには、松明を持った人々が、五、六人囲むように歩いている。
 気のせいかもしれないが、すこし雲行きが怪しくなっている気がする。
 一番偉そうな神官が、呪文を唱えるのに合わせて、他の神官達も復唱を始めた。
 呪文を神官達が唱えている時間が、どのくらいの時間かは、わからない、
 呪文が終われば、ミヤは生贄に捧げられてしまう。

 ロティーラは、ひっしに無い頭を振り絞ったが、何もよい知恵は浮かんでこなかった。
 呪文が終わると、空が暗くなっているのに気付いた。
 夜だからと言うのもあるけれども、それだけではない。
 セイハの作った雨雲が雨を降らせようと、やって来たのだ。

 ミヤが、井戸の前に立たされた。
 張り出された台に乗ったミヤの後ろに神官が立つ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...