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Soul 7 望
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「どうしてゼルを悪魔にしたのですか?天使の身体と一緒に封印して置いた方が、面倒なことしなくて良かったですのに」
「頭を冷やせってことかな。時の流れは人を落ち着かせる」
ラークが説明しても桃色天使はまだ納得しきれていない。
「ゼルは天使の時の記憶を覚えていなかったのにですか?」
ラークは目を細めた。探るように細めた眼で、桃色天使を観察する。
(見かけにより、バカじゃないのかもな)
ラークは小さく笑う。その行為の意味がわからず、桃色天使はさらに首をかしげた。
「そうだね。あえて言うのなら、ギゼルが現世を見たいと言ったからかな。陰が転生するまで、水の中で閉じ込められているのは、つまらないだろ」
ラークはクルリと回転した。
「さてと。そろそろ霊羅の魂を身体に返すかな」
ラークは素早く呪文を唱え始めた。早口すぎて日陰達には聞き取れなかった。
霊羅の魂が、内側から発光してきた。
光は、魂と身体を繋ぐ糸をはっきりとさせていく。
ラークが指を鳴らすと、魂は勢い良く、洞窟の出口に向かって行った。
きっと霊羅の身体に戻って行ったのだろう。
「よっと」
ラークは人々を見下ろした。
「外に出たら、朝日は昇っているかな」
ラークは楽しそうに笑った。
洞窟の外は、まだ薄暗かった。
日陰たちは霊羅の様態が心配だった。
いくらラークに大丈夫と言われても外見が子供なので、あまり信用できないのだ。
「朝日だわ」
紺碧天使が指差す方向を見ると朝日が昇り始めていた。
「眠いです」
桃色天使が情けなく欠伸をした。
「霊羅」
岬介が返事が来ないことを承知で、口に出して呼んだ。
「なあに。あなた」
聞き覚えのある声が朝日の方向から聞こえた。
人々は耳を疑った。
人影が現れたが、逆光になっていて顔が良く見えない。
「霊羅」
岬介がもう一度声を出して名前を呼んだ。
「お帰りなさい。うんん。違うわね」
目が慣れてきて人影がはっきりとわかるようになる。
「ただいま」
霊羅が、腰をかがめ微笑んだ。
岬介が走り出し霊羅に抱きついた。
その後に日向、翁、巫女たちが霊羅の周りに集まり、声をかける。
皆に返事をしながら霊羅は日陰に微笑みかけた。
温かい安心しきった笑顔を浮かべている。
日陰は、涙が出そうになった。
だから、隣にいてくれるラークの手をそっと握りしめた。
もう独りじゃない。
もう大丈夫。
日陰は、ラークを視線の端でちらりと見た。
ラークは、どうしたらよいのか分からずおろおろしていた。
それでも、日陰に握りしめられた手を離さない。
むしろ強く握り返してくれた。
顔はあえて覗かない。きっと真っ赤に染まっているはずだから。
日陰も、今までの人生の中で一番幸せな笑顔を母親である霊羅に向けた。
長い時の中で、何度も、過ちと間違いを繰り返したけれど、最後に少女の望は叶えられた。
完
「頭を冷やせってことかな。時の流れは人を落ち着かせる」
ラークが説明しても桃色天使はまだ納得しきれていない。
「ゼルは天使の時の記憶を覚えていなかったのにですか?」
ラークは目を細めた。探るように細めた眼で、桃色天使を観察する。
(見かけにより、バカじゃないのかもな)
ラークは小さく笑う。その行為の意味がわからず、桃色天使はさらに首をかしげた。
「そうだね。あえて言うのなら、ギゼルが現世を見たいと言ったからかな。陰が転生するまで、水の中で閉じ込められているのは、つまらないだろ」
ラークはクルリと回転した。
「さてと。そろそろ霊羅の魂を身体に返すかな」
ラークは素早く呪文を唱え始めた。早口すぎて日陰達には聞き取れなかった。
霊羅の魂が、内側から発光してきた。
光は、魂と身体を繋ぐ糸をはっきりとさせていく。
ラークが指を鳴らすと、魂は勢い良く、洞窟の出口に向かって行った。
きっと霊羅の身体に戻って行ったのだろう。
「よっと」
ラークは人々を見下ろした。
「外に出たら、朝日は昇っているかな」
ラークは楽しそうに笑った。
洞窟の外は、まだ薄暗かった。
日陰たちは霊羅の様態が心配だった。
いくらラークに大丈夫と言われても外見が子供なので、あまり信用できないのだ。
「朝日だわ」
紺碧天使が指差す方向を見ると朝日が昇り始めていた。
「眠いです」
桃色天使が情けなく欠伸をした。
「霊羅」
岬介が返事が来ないことを承知で、口に出して呼んだ。
「なあに。あなた」
聞き覚えのある声が朝日の方向から聞こえた。
人々は耳を疑った。
人影が現れたが、逆光になっていて顔が良く見えない。
「霊羅」
岬介がもう一度声を出して名前を呼んだ。
「お帰りなさい。うんん。違うわね」
目が慣れてきて人影がはっきりとわかるようになる。
「ただいま」
霊羅が、腰をかがめ微笑んだ。
岬介が走り出し霊羅に抱きついた。
その後に日向、翁、巫女たちが霊羅の周りに集まり、声をかける。
皆に返事をしながら霊羅は日陰に微笑みかけた。
温かい安心しきった笑顔を浮かべている。
日陰は、涙が出そうになった。
だから、隣にいてくれるラークの手をそっと握りしめた。
もう独りじゃない。
もう大丈夫。
日陰は、ラークを視線の端でちらりと見た。
ラークは、どうしたらよいのか分からずおろおろしていた。
それでも、日陰に握りしめられた手を離さない。
むしろ強く握り返してくれた。
顔はあえて覗かない。きっと真っ赤に染まっているはずだから。
日陰も、今までの人生の中で一番幸せな笑顔を母親である霊羅に向けた。
長い時の中で、何度も、過ちと間違いを繰り返したけれど、最後に少女の望は叶えられた。
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