ギゼル

覗見ユニシア

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Soul 7 望

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「後は君たちが知っての通り、オレは天使に錐を刺した」

 ラークは目を開けた。

「そして天使をこの洞窟に封印した」
「封印した!じゃあギルと白銀の天使は別人?」

 話が終わると皆は目を開けた。
 日陰と翁がそわそわしているのが、目の橋に映ったが無視した。
 今はラークの話を聞く方が大事だからだ。

「あたしは陰の転生体なの?」

 日陰は続けて質問する。

「そう。きみは陰の転生体。そこの二人もね」

 ラークは日向と翁を指差した。

「本当は、転生前の記憶を持って魂は生まれ変わってはいけないんだけどね」

 ラークは真っ直ぐ日陰を見る。

「君がそう望んだから」

 日陰は何も言わない。

「君の望を叶える時が来たよ」

 ラークが池の方に手を向けた。
 池の中から長方形の水の膜の中に入った白銀天使の身体が現れた。
 居合わせた人が息をのむ。

 白銀天使の姿は、髪の長さと服装と天使である事を除き、ゼルにそっくりだったからだ。

 ラークは宙に浮かんだ白銀天使を指差す。

「彼の名前は、ギゼル。そして」

 ラークはゼルを指差す。

「君の本当の名前もギゼル」

 ラークは目を細めた。まるでゼルの反応を計るかのように。

「オレが天使!ばかな」

 ゼルは数歩下がった。
 足が小石に当たった。

「君はオレの話を聞いて、ギゼルと心がシンクロしなかった?」

 ゼルは唇をかむ。
 否定したくとも、魂が真実だと認めている。

「日陰や霊羅は、きみの事を‘ギル‘と呼ばなかった?彼女たちは無意識のうちに、君の本当の名前の一文字を見つけていたんだよ」

 ゼルは何も言い返せない。

 ラークは口だけで笑った。顔は前髪に隠れていて見えない。

「観念しなよ。日陰を受け入れて、日陰を幸せにしてよ」
「……」
「お願いだから」

 ラークは顔を上げた。ラークの目にはいつの間にか涙が溜まっている。

「日陰を好いてあげてよ。彼女をもう」

 ラークは唾を飲み込む。

「独りだけにさせないであげてよ」

 最後の部分は悲鳴に変わっていた。
 ポロポロとラークの瞳から涙が流れる。

「ラーク」

 日陰は出来るだけ優しい声音で言った。
 一歩一歩ラークに近づく。
 ラークは子供の姿の通り無防備に泣き続ける。
 ラークを日陰は抱きしめた。

「ありがとう。そしてごめんなさい」

 ぴく。
 ラークの肩がわずかに動いた。

「何で謝るの?」
「嘘ついていたから」

 日陰はラークをぎゅっと抱きしめる。

「確かにギゼルの事好きだったよ。でも」

 日陰は言葉を切り、ラークを見る。
 ラークの瞳に微笑んでいる日陰の姿が映った。確かめてから、言葉を紡ぎ始める。

「それよりも独りになりたくなかった。独りは嫌なの。転生しても、前と同じに誰もいないのは辛いから」
「日陰」

 ラークも日影を抱きしめる。

「オレでよかったら一緒にいてやるよ」

 日陰の顔が赤くなった。
 ラークの顔もつられて赤くなる。

「あの」

 空気を読まないダイラがマイペースに話しかけた。

「な、なんだ」

 ラークはあわてて、日陰を離した。

「それで霊羅さんはどうなったのですか?」
「あっ」

 その場にいる全員がほぼ同時に声を上げた。

「ああ。彼女なら大丈夫。眠っているだけだから」

 ラークがパチンと手を叩くと霊羅の魂が水から浮かび上がる。

「霊羅には悪いことをしたと思っている。でもこれは、霊羅の魂からゼルを引きはがす為に、必要な事だったから」

 岬介は、眉をひそめる。

「魂を引きはがす?」

 岬介の質問にラークは縦に首を動かす。

「そう。だってそうしないと日陰とゼルをくっつける事が出来なかったから」

 ラークは岬介を見つめる。

「心配なのはわかるけどそんな怖い顔しないでよ。霊羅の魂は、ちゃんと安全に身体に返すから」

 ラークに言われた通り、岬介は怖い顔をしていた。だが、安全に返すと言われ、わずかに硬くなった頬の筋肉を柔らかくした。

「ところで」

 ラークはさっきの真剣な様子から子供っぽくなった。

「ギゼル。きみは天使に戻る?天使だった頃のきみは強くてかっこよかったぜ」

 ラークはにやにや笑いながらゼルを見る。
 ゼルはその笑顔が自分をバカにしているようにしか見えなくて、腹が立った。

「天使の頃のオレは、なんかきもいからパス。絶対に戻らない」

 ゼルはそっぽを向いてしまった。
 ラークは腹を抱えて大声で笑った。

「そんなに笑うな」

 ゼルは顔を真っ赤にして反論した。
 ラークは笑いすぎて出た涙を指で引き取った。

「わるかったよ。でも」

 ラークが間をおいた。それだけで笑いの空気が無くなった。

「戻りたくなったらいつでも言ってよ。力を貸すから」

 ラークが心からの笑みを浮かべた。
 つられてゼルも笑顔で頷いた。

「ああ。そうさせてもらう」
「あの~」

 間の抜けた声がした。振り返ると桃色天使が納得のいかない顔をして、首をかしげていた。

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