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Soul 3 心
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日陰達が逃げ出した後の霊羅の部屋。真行寺神社の人でざわめいていた。
「お母さんは大丈夫なのですか」
日向が涙を堪えている。堪えられるのは、隣で翁が支えてくれているからだ。でなければ倒れている霊羅を見てすぐに泣き出してしまっただろう。
「身体には今のところ異常はありません。ですが魂が抜けています。ここに来る時何者かの気配を感じました。おそらくその者が霊羅様の魂を奪って去ったのでしょう」
「お母さん」
今度こそ日陰は涙を抑えられなくなり泣き出した。
他の人が「かわいそうに」とか「まだ幼いのに辛い使命を押しつけられてポロリ」とか陰で囁いているが日向の耳には入らない。
ざわめきの中、声が上がる。
「日陰だ、日陰が霊羅様の魂を奪ったのだ」「そうよ。あの子は今日ここに来られる日だったわ」「あいつだ」「あいつが攫ったんだ」「すぐに捕まえるんだ」「おー」
皆が日陰を捕まえに行こうと立ち上がる。人々は今にでも飛びだしていきそうな勢いだ。
だが
「待ちなさい。まずは天使様の協力を募る方が先です。天使様と話し合い、それから行動を起こしましょう」
「静香様。それでは日陰が逃げ出してしまいます」
「そうですよ。ですから天使が来るまでに捕まえておいたほうが……」
「わたしは、罪があるかわからないのに捕まえることは反対です。……それに日陰さんは我々からは逃げられません。そういう宿命なのですから」
やっと落ち着いてきた日向が口を開く。
「私が光の巫女ならば、日陰は闇の巫女である。そういう事ですね。静香様」
「まあそういう事ですね」
光の巫女が日向とは限らない訳ですけど。
「ちょっと電話を借りてもいいですか」
「ええ、いいですよ」
静香はそれだけ言うと出て行った。
霊羅の部屋の中では、しばらくの間沈黙が続いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぼろいけど入って」
案内されたのは一軒の平屋だった。悪魔はなぜか懐かしい感じがした。
「ずずず―」
「ずー」
二人は縁側に腰かけてお茶を飲んでいた。縁側からは、紅葉しきった林が見え景色は抜群だ。
「て、違うだろ」
悪魔がいきなり怒り出して、湯のみを縁側に置く。
「霊羅が攫われた手がかりを探さないと」
「どうやって」
「う~ん。どうやってだろう」
「あんた名前は」
「……」
「……?」
「あれ、言ってなかった?」
「聞いてない」
「そっか。オレはゼル宜しく」
「宜しくギル」
「ギルじゃねー」
「……ギル」
「だから……もういい。ギルで」
悪魔ゼルは、お茶を飲み始めた日陰を見る。
態度や正確は、霊羅とは違いが、それでも似ているところがある。
霊羅もゼルの事をギルと呼んでいたのだ。
日陰はこっそりゼルを見る。
白銀の髪と同じ目。
着古した浴衣。背中から生えている黒い翼。ゼルの容姿だった。
ゼルの笑みを見ると泣きたいような、不思議な感覚にとらわれた。
「とりあえず地獄に行ってみようと思う」
「地獄?」
地獄とは幽霊を痛めつけたり、苦しめたりしながら働かせるところだ。
日陰の表情が曇るのも当たり前と言えるだろう。
「不安そうな顔するなよ。大丈夫、霊羅は裁かれないよ。ただ知り合いが居るから探すのを手伝ってもらうだけ」
「本当に平気」
「平気だって、心配するな」
乱暴に日陰の頭を触る。
日陰はしばらくされるままになっていたが、ふと頭の中に疑問が浮かんだ。
「何で物や人に触れる。幽霊や天使は触れないのに」
「ああ。これは、霊力を使っているんだ」
「霊力?」
「そ。まあ霊感と似たようなもんだよ」
ゼルは背中の翼を広げ、空中に浮いた。
「行ってくるぜ」
「気を付けて」
ゼルは空に溶けるように姿を消した。
「お母さんは大丈夫なのですか」
日向が涙を堪えている。堪えられるのは、隣で翁が支えてくれているからだ。でなければ倒れている霊羅を見てすぐに泣き出してしまっただろう。
「身体には今のところ異常はありません。ですが魂が抜けています。ここに来る時何者かの気配を感じました。おそらくその者が霊羅様の魂を奪って去ったのでしょう」
「お母さん」
今度こそ日陰は涙を抑えられなくなり泣き出した。
他の人が「かわいそうに」とか「まだ幼いのに辛い使命を押しつけられてポロリ」とか陰で囁いているが日向の耳には入らない。
ざわめきの中、声が上がる。
「日陰だ、日陰が霊羅様の魂を奪ったのだ」「そうよ。あの子は今日ここに来られる日だったわ」「あいつだ」「あいつが攫ったんだ」「すぐに捕まえるんだ」「おー」
皆が日陰を捕まえに行こうと立ち上がる。人々は今にでも飛びだしていきそうな勢いだ。
だが
「待ちなさい。まずは天使様の協力を募る方が先です。天使様と話し合い、それから行動を起こしましょう」
「静香様。それでは日陰が逃げ出してしまいます」
「そうですよ。ですから天使が来るまでに捕まえておいたほうが……」
「わたしは、罪があるかわからないのに捕まえることは反対です。……それに日陰さんは我々からは逃げられません。そういう宿命なのですから」
やっと落ち着いてきた日向が口を開く。
「私が光の巫女ならば、日陰は闇の巫女である。そういう事ですね。静香様」
「まあそういう事ですね」
光の巫女が日向とは限らない訳ですけど。
「ちょっと電話を借りてもいいですか」
「ええ、いいですよ」
静香はそれだけ言うと出て行った。
霊羅の部屋の中では、しばらくの間沈黙が続いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぼろいけど入って」
案内されたのは一軒の平屋だった。悪魔はなぜか懐かしい感じがした。
「ずずず―」
「ずー」
二人は縁側に腰かけてお茶を飲んでいた。縁側からは、紅葉しきった林が見え景色は抜群だ。
「て、違うだろ」
悪魔がいきなり怒り出して、湯のみを縁側に置く。
「霊羅が攫われた手がかりを探さないと」
「どうやって」
「う~ん。どうやってだろう」
「あんた名前は」
「……」
「……?」
「あれ、言ってなかった?」
「聞いてない」
「そっか。オレはゼル宜しく」
「宜しくギル」
「ギルじゃねー」
「……ギル」
「だから……もういい。ギルで」
悪魔ゼルは、お茶を飲み始めた日陰を見る。
態度や正確は、霊羅とは違いが、それでも似ているところがある。
霊羅もゼルの事をギルと呼んでいたのだ。
日陰はこっそりゼルを見る。
白銀の髪と同じ目。
着古した浴衣。背中から生えている黒い翼。ゼルの容姿だった。
ゼルの笑みを見ると泣きたいような、不思議な感覚にとらわれた。
「とりあえず地獄に行ってみようと思う」
「地獄?」
地獄とは幽霊を痛めつけたり、苦しめたりしながら働かせるところだ。
日陰の表情が曇るのも当たり前と言えるだろう。
「不安そうな顔するなよ。大丈夫、霊羅は裁かれないよ。ただ知り合いが居るから探すのを手伝ってもらうだけ」
「本当に平気」
「平気だって、心配するな」
乱暴に日陰の頭を触る。
日陰はしばらくされるままになっていたが、ふと頭の中に疑問が浮かんだ。
「何で物や人に触れる。幽霊や天使は触れないのに」
「ああ。これは、霊力を使っているんだ」
「霊力?」
「そ。まあ霊感と似たようなもんだよ」
ゼルは背中の翼を広げ、空中に浮いた。
「行ってくるぜ」
「気を付けて」
ゼルは空に溶けるように姿を消した。
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