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Soul 1 密
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田畑 日陰(たばた ひかげ)、田畑 日向(たばた ひなた)、真行寺 翁(しんぎょうじ おきな)は幼馴染だった。苗字で判るように、日陰と日向は双子の姉妹だ。
日陰は無口で人と話すのが苦手だった。それに比べて日向は明るくて人と話すのが好きだった。だから、日向は人々から好かれた。逆に日陰は人々から嫌われ、一人でいることが多かった。
日陰には判っていた。この関係は長くは続かないと。
日向が翁に惹かれ、翁も日向に惹かれていることを身近で感じていたから。
だから、二人が離れて行くのはわかっていたし、今更一人になる事を恐れてはいなかった。けれど、こんな形で二人の恋路を邪魔したくはなかった。
日陰達が小学四年生の時、家に一緒に帰るため、日向を待っていた。
だが声をかけて来たのは日向ではなかった。
「待って。聞いて欲しい事があるんだ。僕、君が好きなんだ」
「!」
日陰は驚き後ろを振り返った。
翁が顔を真っ赤にしている。しかし振り返ったのが日陰だとわかると、困った表情になった。
翁は日陰と日向を間違えたのだ。
確かに後ろ姿は日向に似ているが、常に一緒に行動している翁には間違えられたくなかった。
「日陰。翁に告白されたんだよね。どうして一緒に学校に行かないの」
翌日。日向に涙交じりの声で追及された。
「!」
昨日の告白現場を日向に目撃されていた!
どうやら、翁は日向が好きなのに、日向は翁が日陰を好きだと勘違いしたようだ。
日陰は学校に急いだ。
日向は日陰を追いかけなかった。
ただ先を行く日陰をじっと見つめていた。
教室のドアを開けた。
日直で普段よりも早く家を出た翁が居る。
翁は昨日の出来事を気にしてぎこちなく挨拶をした。
「厄介なことになった」
日陰は翁に告げた。
翁は日陰から聞かされた事実に茫然とした。
「あんたがバカだったからいけない」
日陰が日向の気持ちについて話し終えた。そのとおりだから翁を何も言い返せない。
「で、これからどうする」
「どうするって」
「……。日向の誤解解く?」
「ああ。でもあれから考えたんだ。日陰と付き合うのもありかなって」
「……。なんでそうなる」
「だって告白して置いて間違いでした。なんてかわいそうだろ。だから責任取った方がいいかなって」
「……バカ」
「バカ!?」
「……。そんなことしたら日向の誤解が深くなるだけ」
「確かにそうだけど。でも……」
「あんたが好きなのは日向。日向が好きなのはあんた。それがわかっているのにこれ以上誤解を深くする必要はない」
「えっ。それって僕と日向が両想いってこと」
「……。もう行く」
「えっ。日陰」
日陰は何も言わず立ち去った。
これ以上翁の傍にいたくなかった。
付き合おうと言われた時「はい」と言う言葉を飲み込むのにどれだけ苦労したか翁は気付いていない。
日陰も日向と同じように翁に惹かれていたのだ。
惹かれていたからこそ気づいた気持ちがある。
どんなに頑張っても二人は日陰が入る隙間さえないほど想い合っている事に……。
好きな人に振られた上、恋の協力までしてしまった情けなさに、涙でも出てくれたら少しはすっきり出来るのだが、瞳がうるんでくる気配すらなかった。
日陰は学校をさぼった。
次の日、めでたく日向と翁は恋人になった。
その日から日陰は日向たちと一緒に行動することが無くなった。
二人と一緒にいてひそかに翁を想っていた事実がばれてしまうのが怖かったのだ。
それから月日は流れ、日陰達は中学一年生になった。
だが日陰は知る余地も無かった。
この悲恋話に続きがあろうとは……。
真実から目をそむけたい余り望んでしまった彼女。
どうして過ちを犯してしまうのだろうか。
日陰は無口で人と話すのが苦手だった。それに比べて日向は明るくて人と話すのが好きだった。だから、日向は人々から好かれた。逆に日陰は人々から嫌われ、一人でいることが多かった。
日陰には判っていた。この関係は長くは続かないと。
日向が翁に惹かれ、翁も日向に惹かれていることを身近で感じていたから。
だから、二人が離れて行くのはわかっていたし、今更一人になる事を恐れてはいなかった。けれど、こんな形で二人の恋路を邪魔したくはなかった。
日陰達が小学四年生の時、家に一緒に帰るため、日向を待っていた。
だが声をかけて来たのは日向ではなかった。
「待って。聞いて欲しい事があるんだ。僕、君が好きなんだ」
「!」
日陰は驚き後ろを振り返った。
翁が顔を真っ赤にしている。しかし振り返ったのが日陰だとわかると、困った表情になった。
翁は日陰と日向を間違えたのだ。
確かに後ろ姿は日向に似ているが、常に一緒に行動している翁には間違えられたくなかった。
「日陰。翁に告白されたんだよね。どうして一緒に学校に行かないの」
翌日。日向に涙交じりの声で追及された。
「!」
昨日の告白現場を日向に目撃されていた!
どうやら、翁は日向が好きなのに、日向は翁が日陰を好きだと勘違いしたようだ。
日陰は学校に急いだ。
日向は日陰を追いかけなかった。
ただ先を行く日陰をじっと見つめていた。
教室のドアを開けた。
日直で普段よりも早く家を出た翁が居る。
翁は昨日の出来事を気にしてぎこちなく挨拶をした。
「厄介なことになった」
日陰は翁に告げた。
翁は日陰から聞かされた事実に茫然とした。
「あんたがバカだったからいけない」
日陰が日向の気持ちについて話し終えた。そのとおりだから翁を何も言い返せない。
「で、これからどうする」
「どうするって」
「……。日向の誤解解く?」
「ああ。でもあれから考えたんだ。日陰と付き合うのもありかなって」
「……。なんでそうなる」
「だって告白して置いて間違いでした。なんてかわいそうだろ。だから責任取った方がいいかなって」
「……バカ」
「バカ!?」
「……。そんなことしたら日向の誤解が深くなるだけ」
「確かにそうだけど。でも……」
「あんたが好きなのは日向。日向が好きなのはあんた。それがわかっているのにこれ以上誤解を深くする必要はない」
「えっ。それって僕と日向が両想いってこと」
「……。もう行く」
「えっ。日陰」
日陰は何も言わず立ち去った。
これ以上翁の傍にいたくなかった。
付き合おうと言われた時「はい」と言う言葉を飲み込むのにどれだけ苦労したか翁は気付いていない。
日陰も日向と同じように翁に惹かれていたのだ。
惹かれていたからこそ気づいた気持ちがある。
どんなに頑張っても二人は日陰が入る隙間さえないほど想い合っている事に……。
好きな人に振られた上、恋の協力までしてしまった情けなさに、涙でも出てくれたら少しはすっきり出来るのだが、瞳がうるんでくる気配すらなかった。
日陰は学校をさぼった。
次の日、めでたく日向と翁は恋人になった。
その日から日陰は日向たちと一緒に行動することが無くなった。
二人と一緒にいてひそかに翁を想っていた事実がばれてしまうのが怖かったのだ。
それから月日は流れ、日陰達は中学一年生になった。
だが日陰は知る余地も無かった。
この悲恋話に続きがあろうとは……。
真実から目をそむけたい余り望んでしまった彼女。
どうして過ちを犯してしまうのだろうか。
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