魔宝石 

覗見ユニシア

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≪ホーリーの鏡≫編

✡眠る魔法世界 ✡

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 ハヤセが呪文を呟いた後、眠りの花の花粉が飛び散った。
 そして、すべての生き物が、眠りについてしまった。

「ハハハ!永遠の眠りの世界がようやく訪れた」

 ハヤセの狂った笑い声を、眠ったふりをしていたわたしは、聞いていた。

(わたしが、寝てないってことは、もしかしてセール達も起きているのかも?)

 ハヤセがわたしに近づいてくる。

(起きている事、ばれてしまうの?)
 と思ったが。

「お守りの力もここまでか」

 ハヤセはわたしのポケットからお守りを取り出した。

「とうとう、力を手に入れたぞ!」
(あのお守りには、力があるの?)
「あち」

 ハヤセが、お守りの中身を取ろうとしたら、いきなりお守りが発熱した。
 熱さに参ったハヤセはお守りをわたしの上に落した。
 わたしの身体が熱くなる。
 うっすらと目を開くと、わたしの身体が、炎色に発光していた。

「なんだ?この光は!」

 驚愕の表情を浮かべるハヤセ。
 わたしは、立ち上がる。
 お守りはわたしと一体化した。

「起きていたのか。ミト!」
「……」

 わたしは、するどくハヤセを睨み付けた。
 わたしの口が無意識に呪文を紡ぐ。

「眠りの花を倒す物達よ、今、我の共へ」

 セールの宝石が入った袋がわたしの胸の中へと入り一体化した。

「な、なにが起こっているんだ!」
「ミトすずきひとみ」
「な、何~!」

 わたしを中心にまぶしい光が発生した。
 ハヤセの家から大量の魔宝石が、外へと飛び出していった。
 本来の持ち主の元へと帰って行ったのだろう。
 ハヤセは、黒真珠に姿を変えていた。
 眠らされていた、セール達が起き上がる。

「ありがとう。ミト」

 セールにお礼を言われても、わたしは喜べなかった。
 ハヤセを殺してしまったからだ。
 わたしはそっと、黒真珠を拾った。

「瞳」

 わたしの悲しみに気付いたのか、隆が、優しく抱きしめてくれた。

「おい、筋肉男。舞さんはどこだ」

 検事が筋肉男に詰め寄っていた。
 言葉の通じない筋肉男は、困惑していた。
 わたしは、検事の言葉で、まだ事件は解決していない事を思い出した。

「連れ去った、女の子は何処?」
「女の子は、無事だ。連れてくるから、そのかわり、魔界におれを返してくれ」
「わかったわ」

 わたしの言葉を聞いた、筋肉男は、安心して城に居る舞を連れてくると言った。

「ミト」

 セールがわたしに近づいていた。

「その黒真珠は、おれが、預かっておく」

 セールは、わたしから強引に黒真珠を奪い取った。

「人間でもすごい力を持った者がいるものね」

 後ろを振り返ると、ミト様が立っていた。
 怒ってはいない。やさしい表情をしていた。

「ありがとう」
「え?」

 わたしは、びっくりして瞬きしてしまった。
 ミト様に礼を言われるとは思っていなかったのだ。

「わたしは、眠りの花を完全に滅ぼすことは出来なかった。
 だから、ずっと時を止めて生きていた。
 あなたは、わたしがしなければならないことをしてくれた。
 だから、ありがとう」
「わたしは、あなたの為に、したわけではないわ」
「連れてきましたよ」

 筋肉男の声で、わたしは、振り返った。
 見ると、筋肉男に手を離された瞬間。舞は近くに居た検事に抱き着いていた。

「怖かったよ。検事君」
「もう、大丈夫さ」

 検事が、ぶっきらぼうながらも、優しく舞をなだめていた。

「さて、約束だ。おれを魔界に返してくれ」

 皆の視線がわたしに集中した。
 わたしは、呪文を唱える。

「ホーリーの鏡よ。
 今この手に」

 わたしは、ゆっくりと手を伸ばした。
 姿を現した、ホーリーの鏡を掴む。
 鏡を胸に押し付けた。
 鏡の標的を、筋肉男に向けた。

「悪霊退散!」

 鏡から、眩しいほどの光が放出された。
 光は、真っ直ぐに、筋肉男に直撃した。

「ありがとう。ロミーイト様」

 筋肉男は、笑みを浮かべながら、鏡に吸い込まれていった。
 それと同時にホーリーの鏡が消滅した。

「魔法の力は、取ったわ」
「え?」
「だって、魔法の力を取らないと、あなた達人間世界へは帰れないわよ」

 わたしは、ミト様の言葉で、人間世界へと帰らなければならないことを思い出した。

「今から、魔法陣を展開するから、手を繋いで」

 ミト様は、素早く魔法陣を展開させた。

「ありがとう。あなたのことは忘れないわ」

 ローイが、わたしに甘えて来た。

『ミト。わたしも忘れない。だから、ミトも私の事忘れないでね』
「うん」

 わたしの目から涙が溢れて来た。

『ミト。忘れない』

 シャイワーブズイが、泣きそうな顔をしている。

「本当に、おまえは、≪神のお助け」だったのかもしれないな。忘れるなよ。ぼく達の事」
「うん」

 セール達が、わたしの傍から離れた。
 魔法陣に乗っているのは、わたし、隆、検事、舞だけになった。

「呪文を唱えたら、心の中で、現実世界に帰りたいと強く念じるのよ」
「いろいろありがとう」

 ミト様は一瞬恥ずかしそうにしていたが、すぐに凛々しい姿へと戻った。

「魔法陣よ。この子達を人間世界に帰したまえ」

 わたし達四人は、強く現実世界に帰りたいと念じた。
 その瞬間、浮遊感を感じた。
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