魔宝石 

覗見ユニシア

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≪眠りの花≫編

✡帰還した人間世界✡

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 ざわざわ。辺りの喧騒が騒がしい。

「目を覚ましたぞ」
「本当だわ」

 人々が、わたしの周りを取り囲んでいた。
 ここは、わたしが、落ちたビルの地面。
 髪型も服装も、わたしが、魔法世界に旅たった前のものだった。

(夢だったの?)
「瞳?」
「瞳!」

 人混みをかき分けて、父さんと母さんがやってきた。

「ビルから落ちたって聞いて心配したのよ」
「生きていてくれて、よかった」
「父さん。母さん」

 スーツ姿の両親が、目の前に居た。
 会社から、慌てて駆けつけてくれたようだ。

「どこか怪我はないか?」

 わたしは、父さんに抱き上げられた。

(ひさしぶりに、父さんのぬくもりを感じた)

 わたしは、両親に連れられて、病院を訪れた。
 七階から落ちたのに、奇跡的に怪我をしていなかった。
 検査をして、遅くなったので、両親と手をつないで、家に帰宅した。
 家は三階建てのマンションで206号室だ。

「いままで、構ってやれなくてごめんね」

 両親は、わたしが、自殺未遂をしたと勝手に勘違いして、いつもよりもやさしかった。

「わたし、明日から学校に行くね」
「偉いわね。瞳」
「うん」

 部屋の中に入ると、なつかしくてたまらなかった。
 わたしは、ポケットに手を突っ込んだ。
 そこには、おじいちゃんからもらった大切なお守りがあった。

「瞳。家買おうと思うんだ。これからは、いっぱい構ってやれるからな」
「そうよ。家よ」

 母さんが、嬉しそうに笑った。

(家か。まあいいか)

 夜が更け、わたしは、眠りについた。



「ミト。大丈夫だったか?」
「うん。ハヤセ!やっぱり、夢じゃなかったんだ」
「馬鹿。ここは、ミトの夢の中だろう」
「そっか。でも夢の中でも、ハヤセに会えて嬉しい」
「……残念だけど、こういうことなんだ」
「え?」

 いつのまにか、セールが、目の前に立っていた。
 気付くと透明な壁が出来ていた。
 透明な壁の向こう側に、ハヤセが閉じ込められている。

「セール。ハヤセを出してあげて?」

 セールは、首を横に振った。

「出してあげたいのは、山々だけれども、ぼくの魔法では無理なんだ」
「そ、そんな」

 わたしは、座り込んでしまった。

「ごめんな。ミト」

 セールは、すまなそうな顔をした。
 





 目覚まし時計の音で、目が覚めた。

「あら、起きたの。おはよう」
「おはよう」
「おはよう」

 父さんは、着替えて食事を始めていた。
 わたしは、洗面所に行き、顔を洗った。
 夢のことが、ふと頭をよぎった。

「どうした?瞳?」
「な、なんでもない」

 わたしは、身支度を済ませて朝食を食べ終えた。

「行ってきます」

 家を出る。
 学校への道を歩き始めた。
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