魔宝石 

覗見ユニシア

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≪眠りの花≫編

✡眠りの花のある洞窟 ✡ 中編

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 ミト様らしき人物は、また弓矢を構えた。
 目の色は、海の輝きを宿したかのようなブルーの瞳だ。
 ハヤセがミト様を睨み付けた。

「ああ。そうかもしれないな。
 ミト様。そこにいるセールはあんたの子孫だ。くれぐれも可愛がって大事にしてやりな」

「ちょっと待って?ハヤセがミト様の子孫じゃなかったの?」
「悪いな。ミト。おれは、セールと入れ替わっていたんだ。イブンと出会う前にね」

 ハヤセが、わたしを抱き寄せた。
 わたしの耳に小声でつぶやく。

「好きだったぜ。ミトの事」

 ハヤセがわたしから離れた。

「さあ。殺せるものなら、殺して見ろよ。ミト様」
「ええ。望むところよ」

 ミト様は、弓矢をハヤセに向けた。

「やめて。ハヤセを殺さないで!」

 わたしは、ハヤセの前に立ちふさがった。
 ミト様が、弓矢を放った。

『ミト。あぶない!』

 ローイがわたしに向かって走ってくる。
 放たれた矢がローイに刺さった。
 血がたくさん出ている。

「ローイ!」

 わたしは、ローイに駆け寄った。

「ローイ。ローイ!」

 私の目から涙があふれ出る。

「どうして、かばったのだ。ローイ」

 ミト様が、怒っている。

『自分の命よりも、大切な人の命の方が大事だから。
 ミト。わたしの最後の力を受け取って』
「ローイ」

 ローイは、呟くと、消えてしまった。
 わたしの手の中に笛が握られていた。

(これが、ローイの最後の力)

 セール達は、唖然としている。
 わたしは笛を首にかける。

「どうして、この娘が命を懸けるほど、大切だったのだ?」

 ミト様は、ローイの行動に疑問を感じた。

「そうだ。おまえの名前を聞いておこう」

 わたしの事を、ミト様は指差した。

「ミト。いや、すずきひとみ」
「すずきひとみか。まさか人間か?」
「そうよ」

 わたしは、すらりと答えられた。
 ミト様は、激怒した。

「人間ならば、魔法世界に来るな。魔法世界を滅ぼすつもりか!」

 わたしは、ミト様の言葉の意図が理解出来なくて、困惑した。
 代わりに口を開いたのは、ハヤセだった。

「最初は、そのつもりだった。でも今は違う。ミトをこの世界に連れて分かったんだ。
もし、この世界が眠りの花によって、眠った世界になってしまっても、ミトがやってきて、眠りを解き放つのだろうなと」
「え?わたしが解き放つ?」
『そうかもしれない。ミトはとても不思議な力を感じるから』

 わたしは、何か気配を感じ取って、はっとした。

(何かが、来る。とてつもない力を持った何かが!)

 シャイワブーズイも感じ取ったのだろう。
 耳をぴくぴくさせて、警戒している。

『何か来るな』
「なんだって!」

 セールが驚愕している。

「眠りの花の産み根が来る」
「産み根?」

 わたし達は、ハヤセの言葉を理解出来なかった。

『ハヤセ。よくもこのわたしを裏切ったな。わたしを殺す気か』

 突如、黒いローブを羽織った男が姿を現した。
 男からは、怒りがあふれ出しており、わたし達を睨み付けて来た。

「おまえ、人間か?血をもらうぞ!」

 わたしに焦点を定めた黒いローブの男が、襲い掛かって来た。

「やめろ!」

 ハヤセはわたしを庇うように立ち塞がる。
 わたしは、ローイからもらった笛を吹いた。
 ピー。
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