上 下
59 / 61

第59話 結婚記念日

しおりを挟む
 とても照れくさそうに、しかし嬉しそうに、ブレイズは話した。

「実は今度の祝日、ミモザとやれてなかった『結婚式』ってやつをやることになってな。まあ俺も柄じゃねえとは思ったんだが、こいつがどうしてもって言うもんで」

「まあ! 二人で決めたことでしょ? ブレイズって昔からそういうとこあるわよね~」

「ちょちょ、抑えて抑えて! 式の前に喧嘩とかなったらシャレになりませんよ!」

「うふふっ。冗談よ冗談、ありがとうトベさん。式は身内だけで、できるだけ簡素なものにしようと思ってるの。トベさんとアカリちゃんも来てくれるわよね?」

「もちろんですよ! あ、その式、僕たちのチャンネルで配信させていただいてもいいですかね? 視聴者さんたちにもこの件ではいろいろとご心配いただいて、なにかとご協力いただきましたので」

「はい。トベさんと繋がることができたのも、特定班のみなさまのおかげです。ぜひチャンネルの視聴者さんたちもご一緒に、良い式にしていけたら」

《お~い、特定班のみんな~! 呼ばれてるぞ~!》

《いいよいいよ、俺たち別に見返りを期待してやったわけじゃねえから》

《二人が幸せならそれでいいよな》

《かっけぇwwww》

《すげぇ、ネット民の鑑だ……!》

「おふたりとも、ご結婚ほんとうにおめでとうございますっ! 式がとってもとっても楽しみですっ!」

「おう。アカリ、お前も早く良い相手見つけろよ」

「ブレイズ! そういうのがダメって言ってるの!」

「はわわっ! よ、よい相手……」

「こらこら! またプロデューサーの目を盗んで、アカリに変なこと吹き込んでるでしょ! アカリは配信者としてトップを目指してるんですから、そんな余裕はありません!」

「ははっ、おっかないプロデューサーさんが出てきたから、俺たちは退散するか」

「ブレイズ~? 元はといえばあなたが……!」

 これから夫婦になる二人の心温まる掛け合いを、僕たちは微笑ましく見守った。

 今度の祝日っていうと五日後か。楽しみだな~。ブレイズとミモザさんが結婚なんて、本当にめでたい日になりそうだ。

 そうして五日後、結婚式の日。

 僕たちは式場となった教会で配信をしながら、純白の華やかなタキシードとウエディングドレスに身を包んだ、ブレイズとミモザさんを見守っていた。

 式場では他にゼインさん、ブレイズやミモザさんの身内の方々が、二人の新たな門出を見守っている。

《ううっ、ダメだ俺、こういうの泣けてきちゃって……》

《ブレイズとミモザさんが歩んできた、二十年分の苦労が詰まってるからな……》

《でも苦労してきた分、二人はきっと幸せになれると思うよ。だって会えなかった数だけ、相手が自分にとってどれほど大切な存在だったのか、二人は気づいてきたんだから》

 ふと横を見ると、アカリは涙で床が海になってしまうんじゃないかというくらい号泣していた。

「ふぇぇええぇえん、ふぐっ。ミモザさん、ほんとにほんとにお綺麗ですね……!」

「うん。純白のウエディングドレスがとても似合ってる。ブレイズさんもいつもとは全然違って、なんだか今日は二人とも別人みたいだね」

 牧師さんが誓いの言葉を投げかけると、二人は互いに顔を見合わせて、とても優しく、穏やかな表情で頷いた。

「今日が、俺とお前の結婚記念日だ。お前と二人でこの日を迎えられたことを、俺は生涯忘れることはない」

 この二十年間の月日を思い出しているのか、ミモザさんは涙をこらえながら何度も頷いた。

「わたしも……。ありがとう……ブレイズ」

 イーストエリアの竜とまで呼ばれた天才剣士が、今日だけは剣ではなく指輪を握っている。

 誰よりも愛しあう二人が指輪を交換すると、まるでこれからの門出を祝福するように、指輪が光った。

 それはこの世界のどんな絶景よりも感動を覚える、とても美しい光景だった。

 そのときの僕には、思いもよらなかったんだ。

 二人の門出を祝う、なによりも輝かしい日になるはずだった結婚記念日が、まさかになるなんて……。

 教会の扉が突然開くと、その向こうからなにかが放たれた!

 それは弾丸のような速さで空中を疾走すると、そのまま幸福の絶頂にいた花嫁の腹部に突き刺さった!

 純白のドレスは鮮血で真っ赤に染まり、花嫁はその場に力なく倒れた……。

「ミモザァアァアアァアァアアッッッッ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で検索しながら無双する!!

なかの
ファンタジー
異世界に転移した僕がスマホを見つめると、そこには『電波状況最高』の表示!つまり、ちょっと前の表現だと『バリ3』だった。恐る恐る検索してみると、ちゃんと検索できた。ちなみに『異世界』は『人が世界を分類する場合において、自分たちが所属する世界の外側。』のことらしい。うん、間違いなくここ異世界!なぜならさっそくエルフさん達が歩いてる! しかも、充電の心配はいらなかった。僕は、とある理由で最新式の手回しラジオを持っていたのだ。これはスマホも充電できるスグレモノ!手回し充電5分で待ち受け30分できる!僕は、この手回しラジオを今日もくるくる回し続けて無双する!!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ
ファンタジー
魔界に召喚されてしまった彼女とシマシマな彼の日常ストーリー 2022年6月9日に完結いたしました。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」 前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。 軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。 しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!? 雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける! 登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...