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第29話 武道会開幕

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 アカリを見送ると、僕たちは通路からバトルステージ傍のチームエリアへと移動した。

 試合が始まると、もう選手へのサポートは禁止されているため、できることはここからアカリの戦いを見守るだけとなる。

 周囲をぐるりと観客席に囲まれた、とても見晴らしの良い屋外ステージに、マイクを持った司会者が現れた。

「武を愛するみなさん、本日はようこそお越しいただきました! ただいまより、第二十一回、ブシドータウン武道大会を開催致します!」

 司会者の宣誓と共に、観客席から大きな歓声があがった。

「いよっ! 待ってました~!」

「一年に一回しかないこのお祭りイベントを、どんなに待ち望んだことか!」

「今年はどの道場が優勝するんだろうね。前年からの連覇を狙う優勝候補のチームテンペンか、はたまた他のチームが大番狂わせを起こすのか。う~ん、これは一瞬たりとも目が離せない大会になりそうだ」

「やだ、ちょっとあの子なに~? 普通に事故らないか心配なんだけど。あんな小さな女の子がほんとに戦えるの?」

「ほんとだ。ヤバいだろあれ。あんな華奢な女の子と屈強な男たちが戦ったら、極めて危険な事故になりかねない。運営はなにを考えてるんだ?」

 観客もステージに立つアカリの存在に気づいたようで、そのざわめきが輪のように拡がっていく。

 それもそのはず、他の見るからに強そうな選手たちが威風堂々と並んでいる中、その一回り以上も小さな女の子がポツンと立っているのは、ある種一番目立つ異様な光景といえた。

 アカリは一人だけあまりにも場違いな雰囲気で、本人もそれを感じてしまっているのだろう、とても緊張した面持ちで居心地が悪そうに立ち尽くしていた。

「アカリ……! クソっ、僕が代わってあげられれば……! 心ない声に負けるなよ、アカリなら絶対に大丈夫だ、がんばれ……!」

「なあに、案ずるでない。試合が始まればくだらない雑音は消える。むしろ楽しみにしようではないか、そのときの彼奴らの驚いた顔を」

《ゼインさん良いこと言うやん》

《大丈夫! アカリチャンネルの視聴者は、みんなアカリちゃんの強さはわかってるから!》

《生意気なやつらをギャフンと言わしたれ、アカリちゃん!》

 アカリが可哀想で見てられなかったのだけど、ゼインさんと視聴者さんたちのおかげで心が救われた。こういうとき、一人じゃないって本当に幸せなことなんだなぁと実感する。

 会場のざわめきが収まるのを待ってから、司会者から大会のルールが説明される。

「試合は一本勝負。場外となるかどちらかが戦闘不能になるまでその腕を競っていただきます。試合時間に制限はありませんが、戦闘に積極的に参加しない選手に対しては、主審より警告がなされ、警告を二回受けるとその選手は失格となります。剣は安全のため、両面に刃がついていないものを使用します。選手のみなさん、安心して大いにその腕を振るってください!」

《なるほど、決着がつくまで徹底的にやるスタイルなのな》

《しかし、このルールだと余計にアカリちゃんの安全が心配になってくるけど、大丈夫かな……》

《正直本当に危険なときは、自ら場外になってほしいまである。アカリチャンネルのイチファンとして》

《ほんとだよ~。これからもファンとして、このチャンネルをずっとずっと見ていきたいんだからね。途中で見れなくなるとか絶対イヤだよ?》

《オイ、ガチで危ないときはステージに乱入してでも、トベが身体張って守れよ?》

 もちろん、その覚悟はとうの昔にできている。アカリにも本当に危険なときは自ら場外を選ぶようにと言い含めてあるけど、アカリの性格上ギリギリの限界まで戦おうとするだろう。その場合は失格になってもいい覚悟で、僕がステージに乱入する。

 後でどうしてそんなことしたんだって、アカリに恨まれたっていいんだ。それよりも、アカリのこれからの未来のほうが、僕には大事なことだから。

 ルール説明が終わると、次に試合の解説を担当する解説者の紹介が始まった。

「それではご紹介しましょう! ブシドー専門チャンネルのサバラン先生でーす!」

「みなさんこんにちは、今年も本大会の解説を務めさせていただくことになりましたサバランです。キングライブで武術や剣術の解説動画を中心にアップする、ブシドー専門チャンネルを運営しております」

 解説の先生ということで、一体どれぐらいのBPを有しているのかと、僕は非常に興味深くサバランのBPを視た。

 なんと、そのBPはだ!

 ……。

 ……。

 ……。

 ……って、えっ?

 め、めっちゃ弱い……。

 予想とはまったく違うあまりの弱さに、僕はその場にズッコケた。(?)

 BPの数値から推察するに、どうやら知識だけは豊富なものの、こと実戦になるとからきしというタイプの解説者らしい。

 僕だけがわかるレベルの低さに頭を抱えていたところ、サバランが急になにかに気づいたようにこちらを見つめてきた。

「おや? チームエリアのほうにも配信をされている方がいますね。ハハハ、私の同業者さんというわけですか。そこの方! チャンネル名はなんとおっしゃるんですか?」

 BPの低さに意識が行っているところに、思わぬところで観客の視線が集中したため、僕は心臓が止まりそうになった。いい歳して動揺するところをアカリに見せたくはないため、なんとか平静を装って言葉を紡いでいく。

「あ、は、はい! 天才美少女剣士アカリチャンネルといいます! 出演者のアカリは本大会に選手として出場しております! あの一番小柄な女の子です、みなさんどうぞよろしくお願いします!」

 さっきまで違う意味で注目されていた女の子が、キングラの配信者とわかり、一度は収まった会場のざわめきがまた拡がりだした。

「ほう、あの小柄な女性剣士のチームの方でしたか。フフッ、これは楽しみですね。みなさん、よろしければ彼らのチャンネルを登録してあげてください。せっかく勇気を持ってこんな不釣り合いな場所まで出てきてくれたんです。思い出を作りにきただけにならないように、なにかないと可哀想だ」
 
 く、くっそ~。言い方がなんとなくシャクにさわる気がするんだけど、底辺のチャンネルと思ってバカにされてるのかな? だけど、ここはひとまずありがとうと言っておくよ。アンタの宣伝のおかげで、この大会に優勝できたらきっと登録者が激増すると思う。

 僕は配信画面を縮小し、サバランのチャンネルのランキングを確認した。

 2万9987位 【ブシドー専門チャンネル】 BP 1万4251

 僕が視ているBPと実際の人気に差があるのは、サバラン自身にバズる才能はないものの、おそらく長くやっていることに加えスタッフが優秀なのだろう。僕はBP1だけどアカリには才能があるのと同じ理屈だ。

 ちなみに、ランキングが表示されるのは3万位までのため、アカリチャンネルはまだ名前すらないランキング圏外となっている……。

 見てろよ~。いまは底辺だと思ってバカにしてるかもしれないけど、アカリの才能や将来性を見たらみんな必ず驚く! アンタのチャンネルなんかすぐに抜いてやるんだからな!

 僕が心中で密かにそんな決意を固めていると、司会者が高らかに宣言した。

「それでは一回戦を始めます! さきほど一気に注目度がアップしたアカリ選手、なんといきなりの初陣です!」
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