上 下
27 / 61

第27話 約束

しおりを挟む
「お話はわかりました……。ですが……わたしはブレイズに会うことはできません……」

「な、なんですって! 一体どうして?」

「その理由もお話することはできないのです……。本当に……本当に申し訳ありません……」

「ミモザさん……」

「なぜじゃ……。なぜじゃミモザよ……」

《ええ~っ、なんでだよ~?》

《ちょっと幻滅~》

《なんちゅう冷たい女》

《この人、ブレイズさんの気持ちがわからないの?》

「みなさん、先走るのはやめてください。これにはきっと訳があるはずです」

 荒ぶる視聴者さんたちを制止しながら、僕はミモザさんの返答に感じた『気になる点』に考えをめぐらせた。

 『お話はわかりました……。ですが……わたしはブレイズに会うことはできません……』

 ミモザさんは『町に戻ることはできない』ではなく、『ブレイズに会うことはできない』と言った。なぜそんな言い方を?

 もちろんその直前にブレイズの話を聞いていたという流れはあるが、僕たちがお願いしたのは『町に戻ってきてください』ということ。このミモザさんの言い方には、町に戻ることよりも『ブレイズに会うことが困難』であるという強い意識が働いているように感じる。

「……ミモザさん。その理由を話せないということは、それは当時失踪してしまった理由も話せないということですか?」

「……はい。本当に申し訳ありません……」

 予想どおりだ。そして、僕の推理がすべて正しければ、ミモザさんは『この町に来る』こと自体は了承してくれる可能性がある。

「わかりました。では、もう一つお願いをさせてください。今日から四日後、この町で武道会が開催されることはご存知ですよね?」

「それはもう、かつては剣の道を志す端くれとして、目指していた高みの一つですから……。その武道会がなにか……?」

「実は僕が配信を教えている女の子が、今度ゼインさんの道場の代表として、その武道会に出場するんです。名をアカリといいます」

「ア、アカリです。ミモザさん、はじめまして」

「まあ。うふふ、声でわかるわ、とっても可愛らしい女の子のようね。剣を学ぶのは辛いことも多いけど、すごくやりがいがあるでしょう。わたしは志半ばであきらめてしまったけど……どうかあなたはがんばってね」

「ミモザさん。もう一つのお願いとは、あなたにもこの子の試合を見にきていただきたいんです。いえ、あなたにはその試合を見届ける『責任』があると思っています」

「試合を……ですか?」

「はい。この子は二十年前、あなたとブレイズさんが果たせなかった夢を叶えるために、いま必死にゼインさんの修行を受けて試合に出ようとしています。ほんの一週間前までは、剣のことなどなにもわからない、まったくのド素人だったこの子がです。すべては、あなたとブレイズさんのことを想って」

「わたしとブレイズのこと……。アカリちゃん……あなた……」

「わ、わたしには、トベさんやゼインさん、特定班のみなさんのようにすごいことはできないので、自分にできることでみなさんをしあわせにできたらなって。なので、ミモザさんも見にきていただけるとうれしいですっ」

「僕たちは優勝して、あなたを縛っているその『鎖』を必ず解き放ってみせます。僕たちを、信じてくれませんか」

 ミモザさんはしばらく考え込んだあと、やがて決意を固めたようにゆっくりと言葉を紡いだ。

「……わかりました。ブレイズに会うのではなく、ひとりの後輩の試合を見守るために、わたしはブシドータウンに戻ります。わたしは観客として試合を見守るだけですので、その旨どうかよろしくお願いします」

「ありがとうございます! どうか当日アカリのがんばりを見守ってやってください。今日はお時間をいただき、本当にありがとうございました」

「いいえ、わたしのほうこそ、お師匠さまやみなさまとお話ができて、本当に嬉しかったです。なんだか久しぶりに、昔に帰れたような気がしています……。本当に、ありがとうございました」

 いえ、ミモザさん……。あなたとブレイズ、二人が本当の意味で昔に帰るのは、まだまだこれからですよ……。

 失われた時を取り戻すための大事な大事な約束を交わし、ミモザさんとの通話は終わった。

 ブレイズのことを案じていたゼインさんが、僕に確認する。

「それで、ブレイズにはどうする……? このことを伝えたほうが良いのかの?」

「いえ……それを知ると、ブレイズさんは必ずミモザさんの元へと向かうため、ミモザさんが武道会に来てくれなくなる可能性があります。ミモザさんのことは伏せて、僕たちが道場の代表として出場することだけを伝えてください」

「わかった。急いては事を仕損じるというもの。ワシらが長年解けなかった問題を、ここまで解決に導いてきたお主らを信じるぞ。ブレイズにはワシのほうから伝えておこう」

「ありがとうございます。僕はこのあとちょっと向かうところがあるので、すいませんが修行はお二人で進めてください。アカリ、配信機材は置いていくからな」

「ト、トベさん……?」

 突然自分の元を離れようとする僕を、アカリが心配そうに見つめてくる。そういえばこれまで、ずっと一緒に行動してきたからなぁ……。ひな鳥が親鳥を想って鳴くような感情だろうか、心配してくれるのは素直に嬉しい。

 僕もできれば単独行動はしたくないのだけど、話がこじれて万が一にもアカリに危険が及ぶようなことになったらと思うと、ここはやはり僕一人が適任だ。

「大丈夫。別に命の危険があるとかじゃないから、アカリは安心して修行にはげんで。それじゃゼインさん、あとはよろしくお願いします」

「うむ。どこに向かうかは知らぬが、気をつけてな」

「トベさん、できるだけはやく帰ってきてくださいねっ!」

 僕は二人に手をあげて、道場を後にした。

 余計な心配をかけないために、アカリには命の危険はないと言ったけど、話の流れ次第ではそれもある……のか? まあいい、そのときはそのときだ。漢ウラベロクロー、この命、タダではくれてやらないぞ。

 そんな覚悟さえ決めて向かう先は、『あの人』のいる場所。
 
 そう、あの人の協力さえ得られれば、すべての『謎』がハッキリするはずなんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...