上 下
23 / 61

第23話 ゼインとの立ち合い

しおりを挟む
 その日の晩、ゼインさんがふるまってくれた手料理の数々に舌鼓を打ちながら、僕たちは武道会出場と修行の件を話した。

「なにっ? いまから武道会を目指すじゃと? 弟子たちのためにという気持ちは嬉しいが、さすがにそれは無茶がすぎるぞ……あまりにも時間がなさすぎる……」

 そんなこと、過去にまったく『前例』がないと戸惑うゼインさんを、僕は説得した。

「それがこの子、アカリは『普通の子』ではないんです。普通であれば一年かかるところも、本人の才能と努力次第では一週間で身につけられるかもしれない。この子の才能はプロデューサーである僕が保証します。あとは本人の努力次第。『前例』がないのであれば、作ってしまえばいいだけではないですか?」

 ゼインさんは僕の言葉にしばらく考え込むと、やがてなにかを思いついたように口を開いた。

「よかろう。そこまで言うのなら、その『可能性』を示してみなさい」

 立ち上がると、僕たちを別室へとうながす。

 ゼインさんはその畳敷きの和室で竹刀を手に取ると、試しにこれを振ってみなさいとアカリに握らせた。

 掛け声と共に、懸命に竹刀を振るアカリ。

「ていっ! ていっ! てやっ! とおっ!」

 アカリのデタラメな振りを目にして、ゼインさんは頭を抱えた。

「むう……全然ダメじゃな……。掛け声だけは立派だが、基本がまるでなっておらんぞ……。これをいまから武道会に間に合わせるのは……」

 ゼインさんが呆れたように僕のほうを見る。

「これでもまだ、この娘にそこまでの才能があると申すか?」
 
 もちろんだ、僕がこの目で視て選んだ子だぞ。僕は自信を持って答えた。

「はい、この子はまだわかっていないだけなんです。基本を知れば必ず見違えるように伸びますから、いま少しだけでも基本を教えてやってください」

 僕の言葉に半信半疑で、ゼインさんはアカリに竹刀の持ち方や振り方の基本を指導し始めた。

「違う違う! そう、そうじゃ、そこから一直線に振り下ろす!」

「は、はいっ! でやあっ!」

 掛け声と共に振り下ろされたアカリの竹刀。その太刀筋を目にした瞬間、ゼインさんの表情が一変した。

「こ、この娘……ワシの教えをもうすべて自分のものにしておる……! かつてのブレイズと同等……いや、それ以上の……」

 僕はゼインさんに見えないように、後ろでニヤリとガッツポーズをした。当たり前じゃないか、僕がこの目で見込んで、その才能に惚れ込んだ子なんだぞ。ゼインさんはそこで初めて、アカリの持つ巨大な才能に気づいたようだった。

 さきほどまでの呆れたような表情はすっかりと消え、ゼインさんは真剣極まる表情で自分も竹刀を取った。

「……よかろう。では今度はワシに向かって、全力で打ち込んできなさい」

「えっ、で、でも……」

「どうした? いつでもよいぞ?」

「あ、あの、その、防具は……」

「ハハハ。なに、案ずることはない。すでに隠居した身なれど、かつてはあのブレイズの剣もすべていなしてきた。守りに関してはいまでも劣るつもりはない」

「わ、わかりました……!」

 竹刀を構えて対峙する両者の間に、緊張が走る……!

《アカリちゃんがんばれ……!》

《で、でもどうなんだろう……。アカリちゃんの覚えたての剣が、このゼインさんに通用するんだろうか……?》

《正直無理めだよな……。あまりにも時間が足りなさすぎるよ……》

「い、いきますっ! はぁあああぁああぁあっ!」

 アカリはゼインさんの教えどおり、その竹刀を一直線に振り下ろした!

「でやあっ!」

「こ、これは……! なんという曇りのない剣……!」

 アカリの振り下ろしたどこまでも真っすぐな太刀筋は、慌てて受けに回った竹刀ごと破壊して、そのままゼインさんの脳天に叩き込まれた!

「み、見事……!」

 アカリの強烈な一撃を喰らい、ゼインさんがその場にドサリと倒れる。

「きゃあっ! ごっ、ごめんなさいっ! 大丈夫ですかっ!」

《アカリちゃんエグっwww》

《さすがは天才美少女剣士www看板に偽りなしwwww》

《ジイサンが自分で防具はいらんと言ったんだからなwww自業自得とはまさにこのことwwww》

《スライム一匹にあんなに苦戦してたのに、基本さえわかればマジで才能あったのかよwww》

《それを見抜いてたトベの慧眼もどんだけって話だけどなwww》

 視聴者さんたちは大盛り上がりだったけど、こっちは笑いごとではない。二人で呼びかけてもゼインさんが一向に目を覚まさないため、僕は気つけの意味で顔に軽く水をかけた。すると、ゼインさんがようやく目を覚ましてくれて、僕たちはホッと胸を撫で下ろした。

「いやはや、まさか受けに回った竹刀ごと打ち込まれるとは……。その娘、恐ろしいほどの剣の才じゃ……」

「わ、わたしのせいで……。ほんとうにごめんなさいっ!」

「いやいや、まさかこのワシにまともに打ち込める初心者がおるとは夢にも思わんでな。初心者などというレベルを遥かに超えてしまっておる。悪いのはお主の驚異的な成長速度を見くびったワシじゃよ。武道会までみっちりと修行を積み、我が道場の代表として出てもらうことにしよう」

「ほ、ほんとですか! やったなアカリ!」

「あ、ありがとうございますっ! わたし、一生懸命はげみますのでっ!」

《やった~っ!》

《アカリちゃんおめでと~っ!》

《ミモザさんのほうは特定班が頑張ってくれてるから、アカリちゃんたちも頑張れよ~!》

《お祝いにスパスロ行っときま~すwww》

《ナイスロっ!》

《これはナイスでしかない!》

 しかし、無事ゼインさんに認めてもらうことができたのは朗報だけど、ゼインさんのような達人でも、アカリが弱いという『先入観』で目が曇ってしまうことがあるのかと、僕はゾッと背筋の凍る思いがした。そういった思い込みから、時に人の才能は潰されることがあるから……。

 いや、僕だってけして他人事じゃない。この目があったからこそアカリの才能を見抜けたものの、もしなかったとしたら先入観を持たずに見れていたかどうかは……。
 
 人間、先入観にとらわれていては、物事の『本質』を見抜くことはできない。アカリが基本を知らなかっただけで弱い、才能がないと思い込まれていたように、上辺だけを見てその人のすべてを知った気になるのは、とても危険なことだと思う。(それに加えて、アカリが小さくて華奢な女の子で、とても強そうには見えないという先入観も働いていたのではないか)

 人間の思い込みというものの危険性を感じながら、僕はあのときのブレイズの言葉を思い出していた。

 『……ふん。その娘、見た感じまあ剣の才はあるようだがな。問題はそんなことじゃねぇ』

 思えばブレイズは、アカリの才能をなにも知らないあの段階で見抜いていた……。

 ブレイズってやっぱり凄い……。やはり基礎の先はどうしてもこの人に教えてほしい、この人じゃないといけないと、僕は強く再認識した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

処理中です...