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第23話 ゼインとの立ち合い
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その日の晩、ゼインさんがふるまってくれた手料理の数々に舌鼓を打ちながら、僕たちは武道会出場と修行の件を話した。
「なにっ? いまから武道会を目指すじゃと? 弟子たちのためにという気持ちは嬉しいが、さすがにそれは無茶がすぎるぞ……あまりにも時間がなさすぎる……」
そんなこと、過去にまったく『前例』がないと戸惑うゼインさんを、僕は説得した。
「それがこの子、アカリは『普通の子』ではないんです。普通であれば一年かかるところも、本人の才能と努力次第では一週間で身につけられるかもしれない。この子の才能はプロデューサーである僕が保証します。あとは本人の努力次第。『前例』がないのであれば、作ってしまえばいいだけではないですか?」
ゼインさんは僕の言葉にしばらく考え込むと、やがてなにかを思いついたように口を開いた。
「よかろう。そこまで言うのなら、その『可能性』を示してみなさい」
立ち上がると、僕たちを別室へとうながす。
ゼインさんはその畳敷きの和室で竹刀を手に取ると、試しにこれを振ってみなさいとアカリに握らせた。
掛け声と共に、懸命に竹刀を振るアカリ。
「ていっ! ていっ! てやっ! とおっ!」
アカリのデタラメな振りを目にして、ゼインさんは頭を抱えた。
「むう……全然ダメじゃな……。掛け声だけは立派だが、基本がまるでなっておらんぞ……。これをいまから武道会に間に合わせるのは……」
ゼインさんが呆れたように僕のほうを見る。
「これでもまだ、この娘にそこまでの才能があると申すか?」
もちろんだ、僕がこの目で視て選んだ子だぞ。僕は自信を持って答えた。
「はい、この子はまだわかっていないだけなんです。基本を知れば必ず見違えるように伸びますから、いま少しだけでも基本を教えてやってください」
僕の言葉に半信半疑で、ゼインさんはアカリに竹刀の持ち方や振り方の基本を指導し始めた。
「違う違う! そう、そうじゃ、そこから一直線に振り下ろす!」
「は、はいっ! でやあっ!」
掛け声と共に振り下ろされたアカリの竹刀。その太刀筋を目にした瞬間、ゼインさんの表情が一変した。
「こ、この娘……ワシの教えをもうすべて自分のものにしておる……! かつてのブレイズと同等……いや、それ以上の……」
僕はゼインさんに見えないように、後ろでニヤリとガッツポーズをした。当たり前じゃないか、僕がこの目で見込んで、その才能に惚れ込んだ子なんだぞ。ゼインさんはそこで初めて、アカリの持つ巨大な才能に気づいたようだった。
さきほどまでの呆れたような表情はすっかりと消え、ゼインさんは真剣極まる表情で自分も竹刀を取った。
「……よかろう。では今度はワシに向かって、全力で打ち込んできなさい」
「えっ、で、でも……」
「どうした? いつでもよいぞ?」
「あ、あの、その、防具は……」
「ハハハ。なに、案ずることはない。すでに隠居した身なれど、かつてはあのブレイズの剣もすべていなしてきた。守りに関してはいまでも劣るつもりはない」
「わ、わかりました……!」
竹刀を構えて対峙する両者の間に、緊張が走る……!
《アカリちゃんがんばれ……!》
《で、でもどうなんだろう……。アカリちゃんの覚えたての剣が、このゼインさんに通用するんだろうか……?》
《正直無理めだよな……。あまりにも時間が足りなさすぎるよ……》
「い、いきますっ! はぁあああぁああぁあっ!」
アカリはゼインさんの教えどおり、その竹刀を一直線に振り下ろした!
「でやあっ!」
「こ、これは……! なんという曇りのない剣……!」
アカリの振り下ろしたどこまでも真っすぐな太刀筋は、慌てて受けに回った竹刀ごと破壊して、そのままゼインさんの脳天に叩き込まれた!
「み、見事……!」
アカリの強烈な一撃を喰らい、ゼインさんがその場にドサリと倒れる。
「きゃあっ! ごっ、ごめんなさいっ! 大丈夫ですかっ!」
《アカリちゃんエグっwww》
《さすがは天才美少女剣士www看板に偽りなしwwww》
《ジイサンが自分で防具はいらんと言ったんだからなwww自業自得とはまさにこのことwwww》
《スライム一匹にあんなに苦戦してたのに、基本さえわかればマジで才能あったのかよwww》
《それを見抜いてたトベの慧眼もどんだけって話だけどなwww》
視聴者さんたちは大盛り上がりだったけど、こっちは笑いごとではない。二人で呼びかけてもゼインさんが一向に目を覚まさないため、僕は気つけの意味で顔に軽く水をかけた。すると、ゼインさんがようやく目を覚ましてくれて、僕たちはホッと胸を撫で下ろした。
「いやはや、まさか受けに回った竹刀ごと打ち込まれるとは……。その娘、恐ろしいほどの剣の才じゃ……」
「わ、わたしのせいで……。ほんとうにごめんなさいっ!」
「いやいや、まさかこのワシにまともに打ち込める初心者がおるとは夢にも思わんでな。初心者などというレベルを遥かに超えてしまっておる。悪いのはお主の驚異的な成長速度を見くびったワシじゃよ。武道会までみっちりと修行を積み、我が道場の代表として出てもらうことにしよう」
「ほ、ほんとですか! やったなアカリ!」
「あ、ありがとうございますっ! わたし、一生懸命はげみますのでっ!」
《やった~っ!》
《アカリちゃんおめでと~っ!》
《ミモザさんのほうは特定班が頑張ってくれてるから、アカリちゃんたちも頑張れよ~!》
《お祝いにスパスロ行っときま~すwww》
《ナイスロっ!》
《これはナイスでしかない!》
しかし、無事ゼインさんに認めてもらうことができたのは朗報だけど、ゼインさんのような達人でも、アカリが弱いという『先入観』で目が曇ってしまうことがあるのかと、僕はゾッと背筋の凍る思いがした。そういった思い込みから、時に人の才能は潰されることがあるから……。
いや、僕だってけして他人事じゃない。この目があったからこそアカリの才能を見抜けたものの、もしなかったとしたら先入観を持たずに見れていたかどうかは……。
人間、先入観にとらわれていては、物事の『本質』を見抜くことはできない。アカリが基本を知らなかっただけで弱い、才能がないと思い込まれていたように、上辺だけを見てその人のすべてを知った気になるのは、とても危険なことだと思う。(それに加えて、アカリが小さくて華奢な女の子で、とても強そうには見えないという先入観も働いていたのではないか)
人間の思い込みというものの危険性を感じながら、僕はあのときのブレイズの言葉を思い出していた。
『……ふん。その娘、見た感じまあ剣の才はあるようだがな。問題はそんなことじゃねぇ』
思えばブレイズは、アカリの才能をなにも知らないあの段階で見抜いていた……。
ブレイズってやっぱり凄い……。やはり基礎の先はどうしてもこの人に教えてほしい、この人じゃないといけないと、僕は強く再認識した。
「なにっ? いまから武道会を目指すじゃと? 弟子たちのためにという気持ちは嬉しいが、さすがにそれは無茶がすぎるぞ……あまりにも時間がなさすぎる……」
そんなこと、過去にまったく『前例』がないと戸惑うゼインさんを、僕は説得した。
「それがこの子、アカリは『普通の子』ではないんです。普通であれば一年かかるところも、本人の才能と努力次第では一週間で身につけられるかもしれない。この子の才能はプロデューサーである僕が保証します。あとは本人の努力次第。『前例』がないのであれば、作ってしまえばいいだけではないですか?」
ゼインさんは僕の言葉にしばらく考え込むと、やがてなにかを思いついたように口を開いた。
「よかろう。そこまで言うのなら、その『可能性』を示してみなさい」
立ち上がると、僕たちを別室へとうながす。
ゼインさんはその畳敷きの和室で竹刀を手に取ると、試しにこれを振ってみなさいとアカリに握らせた。
掛け声と共に、懸命に竹刀を振るアカリ。
「ていっ! ていっ! てやっ! とおっ!」
アカリのデタラメな振りを目にして、ゼインさんは頭を抱えた。
「むう……全然ダメじゃな……。掛け声だけは立派だが、基本がまるでなっておらんぞ……。これをいまから武道会に間に合わせるのは……」
ゼインさんが呆れたように僕のほうを見る。
「これでもまだ、この娘にそこまでの才能があると申すか?」
もちろんだ、僕がこの目で視て選んだ子だぞ。僕は自信を持って答えた。
「はい、この子はまだわかっていないだけなんです。基本を知れば必ず見違えるように伸びますから、いま少しだけでも基本を教えてやってください」
僕の言葉に半信半疑で、ゼインさんはアカリに竹刀の持ち方や振り方の基本を指導し始めた。
「違う違う! そう、そうじゃ、そこから一直線に振り下ろす!」
「は、はいっ! でやあっ!」
掛け声と共に振り下ろされたアカリの竹刀。その太刀筋を目にした瞬間、ゼインさんの表情が一変した。
「こ、この娘……ワシの教えをもうすべて自分のものにしておる……! かつてのブレイズと同等……いや、それ以上の……」
僕はゼインさんに見えないように、後ろでニヤリとガッツポーズをした。当たり前じゃないか、僕がこの目で見込んで、その才能に惚れ込んだ子なんだぞ。ゼインさんはそこで初めて、アカリの持つ巨大な才能に気づいたようだった。
さきほどまでの呆れたような表情はすっかりと消え、ゼインさんは真剣極まる表情で自分も竹刀を取った。
「……よかろう。では今度はワシに向かって、全力で打ち込んできなさい」
「えっ、で、でも……」
「どうした? いつでもよいぞ?」
「あ、あの、その、防具は……」
「ハハハ。なに、案ずることはない。すでに隠居した身なれど、かつてはあのブレイズの剣もすべていなしてきた。守りに関してはいまでも劣るつもりはない」
「わ、わかりました……!」
竹刀を構えて対峙する両者の間に、緊張が走る……!
《アカリちゃんがんばれ……!》
《で、でもどうなんだろう……。アカリちゃんの覚えたての剣が、このゼインさんに通用するんだろうか……?》
《正直無理めだよな……。あまりにも時間が足りなさすぎるよ……》
「い、いきますっ! はぁあああぁああぁあっ!」
アカリはゼインさんの教えどおり、その竹刀を一直線に振り下ろした!
「でやあっ!」
「こ、これは……! なんという曇りのない剣……!」
アカリの振り下ろしたどこまでも真っすぐな太刀筋は、慌てて受けに回った竹刀ごと破壊して、そのままゼインさんの脳天に叩き込まれた!
「み、見事……!」
アカリの強烈な一撃を喰らい、ゼインさんがその場にドサリと倒れる。
「きゃあっ! ごっ、ごめんなさいっ! 大丈夫ですかっ!」
《アカリちゃんエグっwww》
《さすがは天才美少女剣士www看板に偽りなしwwww》
《ジイサンが自分で防具はいらんと言ったんだからなwww自業自得とはまさにこのことwwww》
《スライム一匹にあんなに苦戦してたのに、基本さえわかればマジで才能あったのかよwww》
《それを見抜いてたトベの慧眼もどんだけって話だけどなwww》
視聴者さんたちは大盛り上がりだったけど、こっちは笑いごとではない。二人で呼びかけてもゼインさんが一向に目を覚まさないため、僕は気つけの意味で顔に軽く水をかけた。すると、ゼインさんがようやく目を覚ましてくれて、僕たちはホッと胸を撫で下ろした。
「いやはや、まさか受けに回った竹刀ごと打ち込まれるとは……。その娘、恐ろしいほどの剣の才じゃ……」
「わ、わたしのせいで……。ほんとうにごめんなさいっ!」
「いやいや、まさかこのワシにまともに打ち込める初心者がおるとは夢にも思わんでな。初心者などというレベルを遥かに超えてしまっておる。悪いのはお主の驚異的な成長速度を見くびったワシじゃよ。武道会までみっちりと修行を積み、我が道場の代表として出てもらうことにしよう」
「ほ、ほんとですか! やったなアカリ!」
「あ、ありがとうございますっ! わたし、一生懸命はげみますのでっ!」
《やった~っ!》
《アカリちゃんおめでと~っ!》
《ミモザさんのほうは特定班が頑張ってくれてるから、アカリちゃんたちも頑張れよ~!》
《お祝いにスパスロ行っときま~すwww》
《ナイスロっ!》
《これはナイスでしかない!》
しかし、無事ゼインさんに認めてもらうことができたのは朗報だけど、ゼインさんのような達人でも、アカリが弱いという『先入観』で目が曇ってしまうことがあるのかと、僕はゾッと背筋の凍る思いがした。そういった思い込みから、時に人の才能は潰されることがあるから……。
いや、僕だってけして他人事じゃない。この目があったからこそアカリの才能を見抜けたものの、もしなかったとしたら先入観を持たずに見れていたかどうかは……。
人間、先入観にとらわれていては、物事の『本質』を見抜くことはできない。アカリが基本を知らなかっただけで弱い、才能がないと思い込まれていたように、上辺だけを見てその人のすべてを知った気になるのは、とても危険なことだと思う。(それに加えて、アカリが小さくて華奢な女の子で、とても強そうには見えないという先入観も働いていたのではないか)
人間の思い込みというものの危険性を感じながら、僕はあのときのブレイズの言葉を思い出していた。
『……ふん。その娘、見た感じまあ剣の才はあるようだがな。問題はそんなことじゃねぇ』
思えばブレイズは、アカリの才能をなにも知らないあの段階で見抜いていた……。
ブレイズってやっぱり凄い……。やはり基礎の先はどうしてもこの人に教えてほしい、この人じゃないといけないと、僕は強く再認識した。
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