上 下
22 / 61

第22話 強くなりたい

しおりを挟む
 そう、それは他でもない、このキングラにいるだ。

 二人では困難なことも、視聴者さんたちの多くの知恵を借りれば問題を解決できるかもしれない。これが昔では到底考えられなかった、『人と人とが繋がる時代』の最大の利点なのかもしれないと、僕は感じた。

 ミモザさん捜しの、おそらく一番の良案を思いついた僕は、すぐに視聴者さんたちに頭を下げた。

「みなさんお願いします! ミモザさんを見つけるために力を貸していただけませんか? 僕たちの力だけではとても無理ですが、みなさんの力をお借りできればあるいは……!」

《そうか、二人では難しくても、みんなの力を集めれば……》

《でも誰がやる? これは捜索の中でも極めて難易度の高い案件だぜ》

 視聴者さんたちがざわつく中、コメントに動きがあった。

《しょうがねえなあ。トベじゃ無理だろうから俺たちが動いてやるかwww》

《特定班キターーーー!》

《特定班かっけぇwww》

 画面の視聴者さんたちが神さまのように見えて、僕とアカリは何度も何度も頭を下げた。

《とりあえず、俺は二十年前に町を出たときと、他の町に移り住んだときの目撃者がいないか調べてみる》

《トベ、ゼインさんからミモザさんの写真借りてきてよ。本人が映り込んでる動画とか画像が、過去にアップされてないか特定してみるわ》

 特定班のみなさんの間で話はドンドン進んでいき、しかもその捜索方法はどれも的確、僕なんかが口を挟む隙もないほどだった。

「……心強い視聴者さんたちだね、アカリ」

「はいっ。わたしたち幸せです。こんなにすばらしい視聴者さんに恵まれて……」

 この調子ならもう、ミモザさんの捜索のほうはみなさんに任せておけば大丈夫だな。

 だが、それで僕たちのやるべきことがなくなったわけではない。

 ここまでの作戦を考えている間に、僕は気づいていた。

 特定班による捜索が行われている間に、僕とアカリは『別方向』で動く必要があることに。

 そう、ブレイズとミモザさん、二人のために僕たちがやるべきことは、実はもう一つあるんだ。

「アカリ」

「はいっ、トベさんっ」

 なんの曇りもない、どこまでも透き通った目で見つめてくるアカリに、僕は力強く言った。

「特定班のみなさんと平行して、僕たちは武道会で優勝するんだ」

 ミモザさんの捜索が行われている間に、アカリに武道会で優勝できるだけの剣術の基礎を身につけさせる。それが僕の考えた、いまの僕たちにできる最善の作戦だった。

 ブレイズとミモザさんの失われた時を取り戻すとは、二人の関係だけでなく、ブレイズの棄権によって失った、『武道会の優勝』という栄光をも取り戻すということではないかと僕は思う。

 ならばその師匠は誰にするか? もちろんその師匠はゼインさんだ。なにしろあのブレイズに剣を教えた人、応用ではなく基礎の範囲であれば、むしろ初めに習う師としてはブレイズよりも適任かもしれない。

 武道会までは残り半月ほど。それまでにゼインさんが納得するだけの実力を身につけ、道場の代表として出場を認めさせなければならないということ。大丈夫、アカリの才能ならやれる。僕のこの『バズる才能視』が見いだした、天が与えた逸材なんだから。

「武道会まで時間がない。厳しい修行になると思うけど、覚悟はいい?」

 アカリは僕の問いに即答はせず、しばらく目を閉じると、やがて決意を固めた表情で答えた。

「わたし、強くなります。視聴者さんやゼインさん、ブレイズさんやミモザさんのために。そしてなにより、わたしをここまで連れてきてくださった、トベさんのために」

「アカリ……」

《アカリちゃん、なんていい子なんだ~っ!》

《こんなにも想ってもらえるトベが羨ましいね》

《このこのっ! こんな可愛い子に羨ましいぞこのやろうっ! でも二人とも、剣の修行がんばれよ!》

「みなさんありがとうございます! 応援よろしくお願いします!」

《応援はするけどトベじゃなくてアカリちゃんにな》

《それな》

《いよいよアカリちゃん初の修行編か~。これからの配信が楽しみ!》

 どんな厳しい修行になるか先行きは不安だけど、視聴者さんたちが配信を楽しみにしてくれているのが嬉しい。現世ではこんなことは絶対にありえなかったから……。

 今後の作戦が決まり、少し気持ちをリフレッシュするため窓を開けると、外はもう夕日が沈んでいた。

 今日一日で、あまりにもいろんなことがありすぎたからな……。早朝のモンスターとの激闘(?)から始まり、テンペンの道場を拒否、刃物男の事件からブレイズとの出逢い、その紹介でゼインさんの道場にたどり着き、ブレイズの過去やミモザさんの失踪を知り現在に至る。本音は少し心と身体を休めたいところだけど、一日の終わりまでもう少しなんだ、頑張らないとな。

 部屋を出てミモザさんの写真を借りにいくと、ゼインさんは夕食の仕込みをしているところだった。チャンネルの視聴者さんたちが協力してくれることになった件を話すと、ゼインさんは厳粛な面持ちで、僕たちに深々と頭を下げた。

「それじゃ、特定班のみなさん、いまからミモザさんの写真をお送りしますので、よろしくお願いします」

《おけ》

《こっちは任せろ》

 ゼインさんからお借りした写真を送信すると、修行の件と武道会を目指す件は、夕食の時間にまた落ち着いて話すことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...