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第18話 師匠
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「さて、住所はと……。うん、ここで間違いないな」
ブレイズに教えてもらった住所に着くと、そこは小さな道場が併設された和風の邸宅だった。二つの建物は内部で繋がっており、そのどちらからも出入りできるようだ。
どちらにブレイズのお師匠さんがいるかわからないため、とりあえず邸宅のほうの入口から訪ねてみる。
「ごめんください! どなたかいらっしゃいますか!」
「お返事がないみたいですね……。こちらにはいらっしゃらないのでしょうか……」
と、視聴者さんが何事かに気づく。
《おいトベ、向こうの壁になんか貼ってあるぞ》
《ほんとだ。なんて書いてあるの?》
貼り紙を見ると、『昼から夕刻にかけては道場におります』と書いてあった。やっぱり持つべきものは視聴者さんだなと思いながら、僕たちは道場のほうに向かった。
道場の入口に手をかけると、鍵はかかっておらず、僕たちは挨拶をしながら扉を開けた。
「こんにちは~。あの~、旅の者ですが」
そこでは一人の老人が、真剣な表情で一心不乱に剣を振るっていた。
「ぜいっ! はっ! でやぁっ!」
「あの~、こんにちは」
「とおっ! だだだだっ! どおりゃあっ! ……む?」
相当集中していたのだろう、何度か呼びかけることで老人はようやくこちらに気づいた。
「お稽古中申し訳ありません、トベと申します」
「ア、アカリです。は、はじめまして」
「この子に剣を教えていただければと思い、こちらにまいりました。本人はどんな厳しい修行にも耐えると覚悟の上です」
「これは珍しい客人じゃな。大変申し訳ないが、いまの我が剣は年寄りの道楽、人に教えることはしておらぬのじゃよ」
「あ、それがその、実は僕たち、ブレイズさんのご紹介で来たんです。自分には教えられないから、剣を学びたいのであればここに行けと」
ブレイズの名を出した途端、老人は驚きで目を丸くした。
「なに……? あのブレイズが……? 剣を見ることすら嫌がっていたあやつが、修行先の紹介までするとは、一体どういう風の吹き回しか……。ふうむ、お主ら相当気に入られたんじゃのう」
どうやら僕たちへの対応は、ブレイズという人物の中で異例中の異例だったようだ。老人のとてつもない驚きからそれが伝わってくる。
「ふむ。ブレイズの紹介とあれば、むげに扱うわけにもいかんのう。よかろう、こちらへ来なさい」
ブレイズの師匠ゼインさんに促され、僕たちは道場を抜け、一旦邸宅のほうへと案内された。
「あっ、すいません、言い忘れてました。実はいま僕たち配信中なんですが、よろしかったでしょうか」
「ハイシン? なんだかよくわからんが好きにしなさい」
そもそも配信自体がなにかを理解していないような返答だったため、これでは許可をもらったことにならないだろうと思い、僕はゼインさんに配信とはなにかを改めて説明した。
「……ということなんです。もちろんまだ僕らのチャンネルは小さいので、それほど多くの人に見られているというわけではないのですが」
「むう。細かいことはよくわからないが、便利な世の中になったものだのう。ワシは剣一筋に生きてきた男じゃ、それでお主らが満足するのであれば、ハイシンだかなんだか知らんが好きにしなさい」
《おじいちゃん、ほんとにわかってるのかな?www》
《無許可配信でトベが後で怒られないことを願うwwww》
まあ僕が怒られるぐらいで済むなら全然、いくらでも怒られるんだけどね……。とにかくこれで一応許可はもらえたんだ。アカリの成長配信が継続できるのは、このチャンネルにとって極めて大きい。
邸宅に向かっている間に、先を行くゼインさんの背中を追いながらBPを確認していると、なんとそのBPは5万3806。
ブレイズの『106万』という驚愕の数値を視てしまった後では、ついリアクションも薄くなってしまうが、本来はこれでも破格の数値。しかも隠居してなおこのBPを保っているとは、さすがはブレイズの師匠……。
きっと現役の頃はもっともっと凄まじい実力だったのだろう。これだけの力を有している剣士であれば、ブレイズの推薦どおり、ひとまずアカリの師としてなんら不足はない。
いくら剣の達人とはいえ、まさか背後から密かにそんな品定めをされているなど夢にも思わなかっただろう。しばらく廊下を歩くと、僕たちは邸宅の茶室へと案内された。
ブレイズに教えてもらった住所に着くと、そこは小さな道場が併設された和風の邸宅だった。二つの建物は内部で繋がっており、そのどちらからも出入りできるようだ。
どちらにブレイズのお師匠さんがいるかわからないため、とりあえず邸宅のほうの入口から訪ねてみる。
「ごめんください! どなたかいらっしゃいますか!」
「お返事がないみたいですね……。こちらにはいらっしゃらないのでしょうか……」
と、視聴者さんが何事かに気づく。
《おいトベ、向こうの壁になんか貼ってあるぞ》
《ほんとだ。なんて書いてあるの?》
貼り紙を見ると、『昼から夕刻にかけては道場におります』と書いてあった。やっぱり持つべきものは視聴者さんだなと思いながら、僕たちは道場のほうに向かった。
道場の入口に手をかけると、鍵はかかっておらず、僕たちは挨拶をしながら扉を開けた。
「こんにちは~。あの~、旅の者ですが」
そこでは一人の老人が、真剣な表情で一心不乱に剣を振るっていた。
「ぜいっ! はっ! でやぁっ!」
「あの~、こんにちは」
「とおっ! だだだだっ! どおりゃあっ! ……む?」
相当集中していたのだろう、何度か呼びかけることで老人はようやくこちらに気づいた。
「お稽古中申し訳ありません、トベと申します」
「ア、アカリです。は、はじめまして」
「この子に剣を教えていただければと思い、こちらにまいりました。本人はどんな厳しい修行にも耐えると覚悟の上です」
「これは珍しい客人じゃな。大変申し訳ないが、いまの我が剣は年寄りの道楽、人に教えることはしておらぬのじゃよ」
「あ、それがその、実は僕たち、ブレイズさんのご紹介で来たんです。自分には教えられないから、剣を学びたいのであればここに行けと」
ブレイズの名を出した途端、老人は驚きで目を丸くした。
「なに……? あのブレイズが……? 剣を見ることすら嫌がっていたあやつが、修行先の紹介までするとは、一体どういう風の吹き回しか……。ふうむ、お主ら相当気に入られたんじゃのう」
どうやら僕たちへの対応は、ブレイズという人物の中で異例中の異例だったようだ。老人のとてつもない驚きからそれが伝わってくる。
「ふむ。ブレイズの紹介とあれば、むげに扱うわけにもいかんのう。よかろう、こちらへ来なさい」
ブレイズの師匠ゼインさんに促され、僕たちは道場を抜け、一旦邸宅のほうへと案内された。
「あっ、すいません、言い忘れてました。実はいま僕たち配信中なんですが、よろしかったでしょうか」
「ハイシン? なんだかよくわからんが好きにしなさい」
そもそも配信自体がなにかを理解していないような返答だったため、これでは許可をもらったことにならないだろうと思い、僕はゼインさんに配信とはなにかを改めて説明した。
「……ということなんです。もちろんまだ僕らのチャンネルは小さいので、それほど多くの人に見られているというわけではないのですが」
「むう。細かいことはよくわからないが、便利な世の中になったものだのう。ワシは剣一筋に生きてきた男じゃ、それでお主らが満足するのであれば、ハイシンだかなんだか知らんが好きにしなさい」
《おじいちゃん、ほんとにわかってるのかな?www》
《無許可配信でトベが後で怒られないことを願うwwww》
まあ僕が怒られるぐらいで済むなら全然、いくらでも怒られるんだけどね……。とにかくこれで一応許可はもらえたんだ。アカリの成長配信が継続できるのは、このチャンネルにとって極めて大きい。
邸宅に向かっている間に、先を行くゼインさんの背中を追いながらBPを確認していると、なんとそのBPは5万3806。
ブレイズの『106万』という驚愕の数値を視てしまった後では、ついリアクションも薄くなってしまうが、本来はこれでも破格の数値。しかも隠居してなおこのBPを保っているとは、さすがはブレイズの師匠……。
きっと現役の頃はもっともっと凄まじい実力だったのだろう。これだけの力を有している剣士であれば、ブレイズの推薦どおり、ひとまずアカリの師としてなんら不足はない。
いくら剣の達人とはいえ、まさか背後から密かにそんな品定めをされているなど夢にも思わなかっただろう。しばらく廊下を歩くと、僕たちは邸宅の茶室へと案内された。
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