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第17話 わたしに剣を教えてください

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「待ってください!」

 必死に後を追って呼び止めると、アカリの剣の師にもっとも相応しいと思える人は、ようやく振り返ってくれた。

「あん? まだなにか用か? 忙しいんだよ俺は」

 いや、昼間からブラブラ飲み歩いてて、とても忙しいようには見えませんが……という言葉はなんとかこらえた。しかし、慌てて呼び止めたはいいものの、どうやって話を切り出そうか……?

「いえ、あの、その~。ところで、お名前のほうは……」

「ブレイズだ。用がねえんなら行くぜ」

「待ってくださいブレイズさん! 実は僕たちナギサタウンから来てまして、いまこの子、アカリの剣の師匠を探しているんです! あっ、僕はトベといいます!」

《ブレイズに剣の教えを乞うフラグキターーーー!》

《トベやっぱりww》

《一体なにを根拠に教えを乞う判断を決めてるのか、全然わからないよねwww》

《酔っぱらいよりさっきの綺麗な道場のほうが、よっぽど良さそうなもんだけどなwww》

「トベだかドベだか知らんが、俺は忙しいと言ってるだろう。そんなことなら、この町で一番人気のテンペンの道場がある。俺なんかに頼らなくともそこで剣を学べ」

「いえ、それがもう、その道場にはすでに……」

 僕は率直に包み隠さず、さきほど道場で起きたことを話した。するとブレイズは、さも愉快そうに腹を抱えて笑い出した。

「ほう、よく気づいたな。ははっ、あのテンペンの野郎、外面ばっかで肝心の腕のほうはからっきしだからな。兄ちゃん青びょうたんに見えて、意外と見る目あるじゃねえか」

 青びょうたんは一言余計だったけど、あの道場が外面だけの見かけ倒しであることは、どうやらブレイズも知っていたらしい。

《え~っ! これってまさかのトベ再評価フラグ?》

《もちろんブレイズの話が本当だと仮定した上でだけど、トベ見抜いてたのかな?ww》

《まさかwwあの短時間でさすがにないでしょwww》

《一体どこに気づく要素あったのよwww》

《勘……? プロデューサーとしての勘……なのか……?》
 
「僕はこの子のプロデューサーなので、実力のない変な人に預けるわけにはいかないんです。ブレイズさんは類い稀な剣の使い手とお見受けしました。この子に剣を教えられるのは、ブレイズさんをおいて他にないと思っています。ほら、アカリからもご挨拶して」

「はいっ! ご、ご紹介にあずかりましたアカリですっ! ブレイズさんよろしくお願いします、わたしに剣を教えてくださいっ!」

 ブレイズは一瞬なにかを考え込んだあと、アカリの才能を値踏みするかのようにジッと見つめた。

「……ふん。その娘、見た感じまあ剣の才はあるようだがな。問題はそんなことじゃねぇ」

「では一体なにが……? ブレイズさんに剣を教えていただけるのでしたら、どんなことでもします!」

 僕たちから視線を外すと、ブレイズは重苦しく口を開いた。

「俺は剣は捨てたんだ。もう自分で剣を握る気も、その技を誰かに教えるつもりもねぇ……」

「捨てたって……。あれだけの腕を持ちながら、一体どうして……?」

 僕の問いに、ブレイズは目を閉じてなにも答えることはなかった。

《おいおい、道場も断ってブレイズにも断られて、アカリちゃん一体どうするのよ》

《頭を下げてお願いまでしたのに、アカリちゃん可哀想……》

《このままアカリちゃんが剣を学べなかったら、プロデューサーであるトベ、お前の責任だからなー》

 クソッ! どうするどうするどうする……? 視聴者さんたちの言うとおり、このままアカリが剣を学べなかったら、それはプロデューサーである僕の責任だ。最後の砦だったブレイズにも断られてしまったら、アカリは一体どうしていけば……。

「……ブレイズさん。あなたにはなにか事情があるようだ。あなたの都合も考えず、不躾なお願いを本当にすいませんでした。これから自分たちがどう進むべきか、いま一度考え直してみます……」

 断られたことは関係ない。立ち止まって話を聞いてくれたブレイズに対して、人としての礼儀は通さなければならない。僕はその姿を、プロデューサーとしてアカリに示したかった。

「あの……。わ、わたしはブレイズさんに剣を教えてほしかったです。でも、わたしたちの気持ちだけでは、それはむずかしいこともわかっています。お話を聞いていただいて、ほんとうにありがとうございました」

 二人で深々と頭を下げ、意気消沈して帰路につこうとした、そのときだった。

「……待て」

 にべもなく断られた僕たちを気の毒に思ったのか、ブレイズはサッと紙になにかを書くと、僕たちに手渡した。

「ここに行ってみろ」

「? ここは……?」

「俺の師匠が住んでるところだ。いまは隠居しちまってるが、まああの道場で学ぶよりはよほど身にはなるだろうぜ」

「ほ、ほんとですか! ありがとうございます!」

「ブレイズさん、ありがとうございますっ!」

 僕もアカリもあまりの嬉しさに涙目になってしまって、二人で手を取り合い、その場で飛び上がって喜んだ。

《おお~! アカリちゃんおめ!》

《ついに修行先見つかったのか! おめでとう!》

《おし、ひとまずお祝いに投げとく》

《ナイスロ!》

《ナイススローです!》

 よかった……このブレイズの師匠であれば、実力は保証されているだろう。ひとまず師がいないという最悪の事態だけは回避できた。

 でも、本音を言えば、それはもちろんブレイズに教えてほしいさ。ブレイズはなんらかの事情から剣を捨ててしまったようだが、お師匠さんからその辺の事情を聞き出すことはできないだろうか……?

「俺も……あのとき剣を捨てなければ、お前らと一緒に……。いや、なんでもねぇ。さっさと行け。お前らの顔を見てると酒がまずくなる」

 酒がまずくなる……それは剣を捨ててしまった過去への後悔から来ているのだろうか……? 僕たちがブレイズと共に歩んでいける未来は、本当にないのか……?

 まだ見ぬ未来を想いながら、僕たちはブレイズに教えてもらった住所へと向かった。
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