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第4話 戦略
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勝つためにはまず、この世界の配信者たちはどうやってチャンネル登録者や再生数を増やしているのか、敵を知り、己を知り、勝利へとつながる『戦略』を練る必要がある。
僕は、アクトの極上のライブが終わり、恍惚としていたおじさんたちを叩き起こすようにして、この世界の配信事情を詳しく尋ねた。
「なんだよも~、せっかくいい気分でいたのに。えっ? キングラの配信事情? わかったわかった、そんなに焦らなくても教えてあげるから」
そうしておじさんたちから頑張って集めた情報は、次のようなものだった。
・この世界での配信者は、『キングライブ』の名前になぞらえて『キングライバー』と呼ばれている。
そこから配信の内容によって、
・冒険の様子を配信する『アドベンチャーライバー』。
・モンスターや他のライバーとの戦いを配信する『バトルライバー』。
・魔法の詠唱法やその活用方法などを配信する『マジックライバー』。
・農場や牧場での仕事や生活の様子を配信する『ファームライバー』。
・武器や防具をより良い装備に鍛えあげていく過程を配信する『スミスライバー』。
・錬金術で様々なものを生みだす面白さを配信する『アルケミーライバー』。
・お宝にどのぐらいの価値があるのか鑑定の様子を配信する『アプレイザルライバー』など、細かく派生していくというわけだ。
現世のゲームなんかでは、モンスターを倒せば都合よくお金が落ちてくるものの、この世界ではそんなことはなく、冒険者はその様子を配信して『視聴者から投げ銭や収益を得る』ことで、初めてお金を得られるシステムになっているらしい。
当然、人気がない冒険者は視聴数も伸びないため、冒険者たちは人気を得るためにあえて危険なモンスターに挑むなど、冒険の魅せ方に日々頭を悩ませているとのこと。
冒険だけでなく、アクトのように歌や踊りなどの配信で人気を獲得する配信者もおり、どのようなやり方でチャンネルを伸ばすかはまさに千差万別、現世よりも個々人の『個性』がより色濃く出る配信事情になっていると言えるだろう。
この世界の配信者たちがどうやって人気を獲得しているのか、少し敵を知れたことで、次は『己』について考えてみよう。
いまの僕に一体なにができるのか? おかみさんに貸していただいた客室に戻り、僕は自分なりにまとめていくことにした。
・まず一番は、対象の『バズる才能』が視れるということ。
これがわかることによって僕にどんなアドバンテージがあるのかというと、『敵の配信においての価値や強さがわかる』ということと、『バズる才能のある人物を見抜ける』ということだ。
敵の価値や強さがわかるとどんな利点があるのかといえば、出現率の低い希少なレアモンスターを狙い打ちしたり、現状の実力では到底かなわないモンスターなどを『事前に回避できる』という点があげられる。現状の実力より弱いか、同等ぐらいの相手を常に選んで戦っていけば、全滅のリスクを減らして着実に経験を積んでいけるわけだ。一気に人気を獲得したいと思えば、実力より格上の相手を見極めてチャレンジしていくこともできる。
また、僕はバズる才能のある人物がわかるため、そういった人物を味方につけることができれば、配信界でトップを取るのにこの上なく心強い味方になってくれることだろう。
・二つめ。自分でバズることはできなくても、十年の経験の中で『配信でこれをやるとダメ』ということがわかるのは、僕にとって大きな強みで財産だと思う。
これをやると伸びるというのは、自分自身が伸びていないのだから言えないけど、配信者としてこれをやったら絶対ダメだよということに関しては、人にアドバイスしていける自信はある。
では、敵を知り己を知ったところで、あれほど圧倒的な人気を誇るライバルに、こういった手持ちのカードでどう『対抗』していくか?
現世の配信でなにをやっても芽が出なかった僕だからわかる、この世界で僕が自分一人でどんなにあがいたところで、人気はまったく出ないだろう。
正攻法ではとてもかなうはずはない。少なくとも、僕が戦ったところで一年どころか一生、逆立ちしてもかなう相手ではない。
そのとき、僕は初めて気づいた。
それは僕にとって、まさに『天啓』のような閃きだった。
別に配信者として戦うのは、『僕である必要はない』のではないか?
僕自身に配信者としての才能や魅力がないことは、現世での結果やBPの数値ですでに証明されている。それをなぞったところで、また同じ失敗を繰り返すのはわかりきったこと。
僕自身に配信者としての魅力がないのであれば、僕は『魅力ある人物』を裏からサポートして、『配信者としてプロデュース』していけばいいのではないか?
かつての僕であれば、そんなことはとても不可能だったけど、いまの僕にはこの『バズる才能視』がある。
その力で『逸材』を発見して育てていけば、いずれアクトに匹敵する配信者を生み出すこともできるかもしれない。
少なくとも、僕自身がプレーヤーとして戦おうとするより、よほど『勝ち筋』の見える、賭ける価値のある『戦略』だと感じた。
それだ! それしかない!
自分の取るべき『戦略』が見えた僕は、弾丸のように客室を飛び出すと、おかみさんのところに走った。スタッフさんに場所を尋ねて向かってみると、おかみさんはキッチンで料理の味見をしているところだった。
「おかみさん! すいません、ちょっとお話があるんですが!」
「なんだいそんなに慌てて! あんたまだじっとしてなきゃいけないんだよ!」
こんな得体の知れない僕なんかの心配をしてくれるなんて、本当に良い方だなと感動しながらも、僕は話を続けた。
「いえ、体調はすこぶる健康です! それより、お世話になってるのでなにか恩返しをしたいのですが、いまは観光のシーズンではないので客数も寂しいとおっしゃってましたよね」
「ああ、たしかにそんなことも言ったね」
「それでは、宿の宣伝も兼ねて、こんな『イベント』を開いてみるというのはどうでしょうか!」
おかみさんは初めは半信半疑ながらも、僕の話を聞き終わると、すぐにそのイベントの将来性に気づいたようだった。
「そりゃ面白いね! ふ~ん、あんた結構アイディアマンなんだ。あたしゃそういう今風のイベントは思いつかないから助かるよ。宿のいい宣伝になりそうだね」
そのイベントに関してはあんたに一任するよと言ってもらえたので、僕は早速部屋に戻って一息に企画書を書き上げた。
アイディアや活力がとめどなくあふれてくるというのはこういう状態のことを言うのだろう。現世ではまったく感じたことのない『イケそうな手応え』に、僕はとにかく燃えていた。
戻ってきてすぐにまた飛び出すとは忙しいやつだなと自分で思いながらも、僕は宿中を走って、スタッフの方々に書き上げた企画書を配ってまわった。
「へぇ、旅人さん、これはなかなか面白い企画ですね。最近この宿も、窓から海が見えるというウリだけではお客さんに飽きられはじめていたので、良い宣伝になるかも」
「あっ、旅人じゃなくてウラベロクローです。ほんとみなさんのご協力が頼りの企画なので、よろしくお願いします!」
そこから一週間、僕は街頭でのビラ配りに、各戸へのポスティング、ナギサタウンの町長にも話を通し、宿や町のアカウントでの宣伝告知と、いまの自分にできるかぎりの宣伝をした。
おかみさんやスタッフの方々は宿の仕事があるため、あまり迷惑をかけないように、一人でもできるところは可能なかぎり一人で、イベントに必要な準備もすべて終わらせた。
そうしていよいよ、この宿でもこの町でも初となる、イベント当日の朝がやってきたんだ。
僕は、アクトの極上のライブが終わり、恍惚としていたおじさんたちを叩き起こすようにして、この世界の配信事情を詳しく尋ねた。
「なんだよも~、せっかくいい気分でいたのに。えっ? キングラの配信事情? わかったわかった、そんなに焦らなくても教えてあげるから」
そうしておじさんたちから頑張って集めた情報は、次のようなものだった。
・この世界での配信者は、『キングライブ』の名前になぞらえて『キングライバー』と呼ばれている。
そこから配信の内容によって、
・冒険の様子を配信する『アドベンチャーライバー』。
・モンスターや他のライバーとの戦いを配信する『バトルライバー』。
・魔法の詠唱法やその活用方法などを配信する『マジックライバー』。
・農場や牧場での仕事や生活の様子を配信する『ファームライバー』。
・武器や防具をより良い装備に鍛えあげていく過程を配信する『スミスライバー』。
・錬金術で様々なものを生みだす面白さを配信する『アルケミーライバー』。
・お宝にどのぐらいの価値があるのか鑑定の様子を配信する『アプレイザルライバー』など、細かく派生していくというわけだ。
現世のゲームなんかでは、モンスターを倒せば都合よくお金が落ちてくるものの、この世界ではそんなことはなく、冒険者はその様子を配信して『視聴者から投げ銭や収益を得る』ことで、初めてお金を得られるシステムになっているらしい。
当然、人気がない冒険者は視聴数も伸びないため、冒険者たちは人気を得るためにあえて危険なモンスターに挑むなど、冒険の魅せ方に日々頭を悩ませているとのこと。
冒険だけでなく、アクトのように歌や踊りなどの配信で人気を獲得する配信者もおり、どのようなやり方でチャンネルを伸ばすかはまさに千差万別、現世よりも個々人の『個性』がより色濃く出る配信事情になっていると言えるだろう。
この世界の配信者たちがどうやって人気を獲得しているのか、少し敵を知れたことで、次は『己』について考えてみよう。
いまの僕に一体なにができるのか? おかみさんに貸していただいた客室に戻り、僕は自分なりにまとめていくことにした。
・まず一番は、対象の『バズる才能』が視れるということ。
これがわかることによって僕にどんなアドバンテージがあるのかというと、『敵の配信においての価値や強さがわかる』ということと、『バズる才能のある人物を見抜ける』ということだ。
敵の価値や強さがわかるとどんな利点があるのかといえば、出現率の低い希少なレアモンスターを狙い打ちしたり、現状の実力では到底かなわないモンスターなどを『事前に回避できる』という点があげられる。現状の実力より弱いか、同等ぐらいの相手を常に選んで戦っていけば、全滅のリスクを減らして着実に経験を積んでいけるわけだ。一気に人気を獲得したいと思えば、実力より格上の相手を見極めてチャレンジしていくこともできる。
また、僕はバズる才能のある人物がわかるため、そういった人物を味方につけることができれば、配信界でトップを取るのにこの上なく心強い味方になってくれることだろう。
・二つめ。自分でバズることはできなくても、十年の経験の中で『配信でこれをやるとダメ』ということがわかるのは、僕にとって大きな強みで財産だと思う。
これをやると伸びるというのは、自分自身が伸びていないのだから言えないけど、配信者としてこれをやったら絶対ダメだよということに関しては、人にアドバイスしていける自信はある。
では、敵を知り己を知ったところで、あれほど圧倒的な人気を誇るライバルに、こういった手持ちのカードでどう『対抗』していくか?
現世の配信でなにをやっても芽が出なかった僕だからわかる、この世界で僕が自分一人でどんなにあがいたところで、人気はまったく出ないだろう。
正攻法ではとてもかなうはずはない。少なくとも、僕が戦ったところで一年どころか一生、逆立ちしてもかなう相手ではない。
そのとき、僕は初めて気づいた。
それは僕にとって、まさに『天啓』のような閃きだった。
別に配信者として戦うのは、『僕である必要はない』のではないか?
僕自身に配信者としての才能や魅力がないことは、現世での結果やBPの数値ですでに証明されている。それをなぞったところで、また同じ失敗を繰り返すのはわかりきったこと。
僕自身に配信者としての魅力がないのであれば、僕は『魅力ある人物』を裏からサポートして、『配信者としてプロデュース』していけばいいのではないか?
かつての僕であれば、そんなことはとても不可能だったけど、いまの僕にはこの『バズる才能視』がある。
その力で『逸材』を発見して育てていけば、いずれアクトに匹敵する配信者を生み出すこともできるかもしれない。
少なくとも、僕自身がプレーヤーとして戦おうとするより、よほど『勝ち筋』の見える、賭ける価値のある『戦略』だと感じた。
それだ! それしかない!
自分の取るべき『戦略』が見えた僕は、弾丸のように客室を飛び出すと、おかみさんのところに走った。スタッフさんに場所を尋ねて向かってみると、おかみさんはキッチンで料理の味見をしているところだった。
「おかみさん! すいません、ちょっとお話があるんですが!」
「なんだいそんなに慌てて! あんたまだじっとしてなきゃいけないんだよ!」
こんな得体の知れない僕なんかの心配をしてくれるなんて、本当に良い方だなと感動しながらも、僕は話を続けた。
「いえ、体調はすこぶる健康です! それより、お世話になってるのでなにか恩返しをしたいのですが、いまは観光のシーズンではないので客数も寂しいとおっしゃってましたよね」
「ああ、たしかにそんなことも言ったね」
「それでは、宿の宣伝も兼ねて、こんな『イベント』を開いてみるというのはどうでしょうか!」
おかみさんは初めは半信半疑ながらも、僕の話を聞き終わると、すぐにそのイベントの将来性に気づいたようだった。
「そりゃ面白いね! ふ~ん、あんた結構アイディアマンなんだ。あたしゃそういう今風のイベントは思いつかないから助かるよ。宿のいい宣伝になりそうだね」
そのイベントに関してはあんたに一任するよと言ってもらえたので、僕は早速部屋に戻って一息に企画書を書き上げた。
アイディアや活力がとめどなくあふれてくるというのはこういう状態のことを言うのだろう。現世ではまったく感じたことのない『イケそうな手応え』に、僕はとにかく燃えていた。
戻ってきてすぐにまた飛び出すとは忙しいやつだなと自分で思いながらも、僕は宿中を走って、スタッフの方々に書き上げた企画書を配ってまわった。
「へぇ、旅人さん、これはなかなか面白い企画ですね。最近この宿も、窓から海が見えるというウリだけではお客さんに飽きられはじめていたので、良い宣伝になるかも」
「あっ、旅人じゃなくてウラベロクローです。ほんとみなさんのご協力が頼りの企画なので、よろしくお願いします!」
そこから一週間、僕は街頭でのビラ配りに、各戸へのポスティング、ナギサタウンの町長にも話を通し、宿や町のアカウントでの宣伝告知と、いまの自分にできるかぎりの宣伝をした。
おかみさんやスタッフの方々は宿の仕事があるため、あまり迷惑をかけないように、一人でもできるところは可能なかぎり一人で、イベントに必要な準備もすべて終わらせた。
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