4 / 10
第4話
しおりを挟む
犯人と共に中に入ると、室内は外観から想像できる以上にボロボロで、荒れ果てた様相を呈していた。
雨の日は雨漏りし放題であろう天井には穴が空いており、障子は破れ畳は変色し、夏は蒸し暑く冬は寒風吹きすさぶ過酷な環境であろうことが、容易に想像できた。
更に、ただ単に古いだけではなく、室内にはゴミがそこら中に散乱し、どこに身体を置けば良いか熟知している家主以外には、足の踏み場もないような有様である。
変色した畳の上、万年床のように敷かれた汚い布団の上に、どっかりと腰を据える犯人。
まずは、何はともあれ今夜の『成果』を確認したかったようで、私たちは鞄から出されて一人一人汚い布団の上に並べられると、その数を数えられていった。
金額をひとしきり確認するとどうやら満足したようで、私たちはひとまとめにされて犯人の財布の中に突っ込まれた。
犯罪の事後処理が終わると、急に犯人が立ち上がり、部屋を出ていく。
部屋にお金を置いたままどこに行くのかと思うと、すぐに戻ってきて冷えたビールとツマミを持ってきた。
自身の犯罪行為もひとまずは成功に終わり、どうやらそれを祝して軽く祝杯するらしい。
無論、成功といっても、いずれ防犯カメラの映像から犯人に足がつくのは時間の問題であるが、この犯人は逮捕されるのを全く怖がっていないフシもあり、むしろこのような悲惨な生活環境では『刑務所に入った方がまだマシ』という感もあった。
別に完全犯罪を目論んでいる訳でもなく、強盗した金で放蕩するまでの時間を稼げればそれで御の字というもので、本人もその後は刑務所で年を越した方が良いとでも考えているのだろう。ある意味では合理的な考え方であると言えなくもない。
これまではその文明の進歩に驚かされることばかりだったが、この国は一見、表面上は皆が幸福で豊かな国に見せかけてはあるものの、その裏ではこうした腐敗や荒廃した国民を多々生み出してしまっている、貧しい国に陥ってしまっているのかもしれない。
かつて私が目指していた『美しい国日本』の姿は、一体どこに行ってしまったのか。
きらびやかな『光』の裏には、それと相反して必ず漆黒の『影』が生まれるのが、この世界の理である。
表面上の隆盛や華やかさの裏には、一体どれほどの『犠牲』や『影』が生み出されてきたのか、私には想像もつかない。
かつて私が生きていた時代よりも、日本は確実に栄えているにも関わらず、それと比例して人々も幸せになっているとは、私には到底思えなかった。
国が如何にも富んでいるかのように見せかけるその裏で、人々の心は傷付き、貧しくなってしまっているのではないか。
私がそんなことを憂いている横で、ビールを飲みながら犯人がテレビを点けると、テレビでは銀行に強盗が入ったというニュースが流れていた。
コンビニに強盗に入ったこの犯人と同様、世の中には銀行に強盗に入る輩も存在するらしい。
銀行といえば『私』が多数存在する場所だが、テレビから流れてくる情報によると犯人は未だ捕まっておらず、逃亡を続けているようだ。
「遅ぇなあいつ……」
私に盗み聴きされているとも知らず、ボソリと呟く犯人。
遅いということは、誰かと約束でもしているのか?
そこから犯人がビールとツマミを食べ終え、テレビのニュースが終わるかどうかというところで、外から戸口を叩く音が聴こえた。
その外観からも分かる通り、どうやらこのあばら家に呼び鈴などという便利なものは存在していないらしい。
戸口に向かう前に、私たちの入った財布をズボンのポケットに入れる犯人。
万が一にも戸口の向こうの人物に奪われないように、警戒しているのだろうか。
私たちを従えて犯人が戸口を開けると、そこにいたのはあまりにも意外すぎる人物だった。
雨の日は雨漏りし放題であろう天井には穴が空いており、障子は破れ畳は変色し、夏は蒸し暑く冬は寒風吹きすさぶ過酷な環境であろうことが、容易に想像できた。
更に、ただ単に古いだけではなく、室内にはゴミがそこら中に散乱し、どこに身体を置けば良いか熟知している家主以外には、足の踏み場もないような有様である。
変色した畳の上、万年床のように敷かれた汚い布団の上に、どっかりと腰を据える犯人。
まずは、何はともあれ今夜の『成果』を確認したかったようで、私たちは鞄から出されて一人一人汚い布団の上に並べられると、その数を数えられていった。
金額をひとしきり確認するとどうやら満足したようで、私たちはひとまとめにされて犯人の財布の中に突っ込まれた。
犯罪の事後処理が終わると、急に犯人が立ち上がり、部屋を出ていく。
部屋にお金を置いたままどこに行くのかと思うと、すぐに戻ってきて冷えたビールとツマミを持ってきた。
自身の犯罪行為もひとまずは成功に終わり、どうやらそれを祝して軽く祝杯するらしい。
無論、成功といっても、いずれ防犯カメラの映像から犯人に足がつくのは時間の問題であるが、この犯人は逮捕されるのを全く怖がっていないフシもあり、むしろこのような悲惨な生活環境では『刑務所に入った方がまだマシ』という感もあった。
別に完全犯罪を目論んでいる訳でもなく、強盗した金で放蕩するまでの時間を稼げればそれで御の字というもので、本人もその後は刑務所で年を越した方が良いとでも考えているのだろう。ある意味では合理的な考え方であると言えなくもない。
これまではその文明の進歩に驚かされることばかりだったが、この国は一見、表面上は皆が幸福で豊かな国に見せかけてはあるものの、その裏ではこうした腐敗や荒廃した国民を多々生み出してしまっている、貧しい国に陥ってしまっているのかもしれない。
かつて私が目指していた『美しい国日本』の姿は、一体どこに行ってしまったのか。
きらびやかな『光』の裏には、それと相反して必ず漆黒の『影』が生まれるのが、この世界の理である。
表面上の隆盛や華やかさの裏には、一体どれほどの『犠牲』や『影』が生み出されてきたのか、私には想像もつかない。
かつて私が生きていた時代よりも、日本は確実に栄えているにも関わらず、それと比例して人々も幸せになっているとは、私には到底思えなかった。
国が如何にも富んでいるかのように見せかけるその裏で、人々の心は傷付き、貧しくなってしまっているのではないか。
私がそんなことを憂いている横で、ビールを飲みながら犯人がテレビを点けると、テレビでは銀行に強盗が入ったというニュースが流れていた。
コンビニに強盗に入ったこの犯人と同様、世の中には銀行に強盗に入る輩も存在するらしい。
銀行といえば『私』が多数存在する場所だが、テレビから流れてくる情報によると犯人は未だ捕まっておらず、逃亡を続けているようだ。
「遅ぇなあいつ……」
私に盗み聴きされているとも知らず、ボソリと呟く犯人。
遅いということは、誰かと約束でもしているのか?
そこから犯人がビールとツマミを食べ終え、テレビのニュースが終わるかどうかというところで、外から戸口を叩く音が聴こえた。
その外観からも分かる通り、どうやらこのあばら家に呼び鈴などという便利なものは存在していないらしい。
戸口に向かう前に、私たちの入った財布をズボンのポケットに入れる犯人。
万が一にも戸口の向こうの人物に奪われないように、警戒しているのだろうか。
私たちを従えて犯人が戸口を開けると、そこにいたのはあまりにも意外すぎる人物だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
【新作】読切超短編集 1分で読める!!!
Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。
1分で読める!読切超短編小説
新作短編小説は全てこちらに投稿。
⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる