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第32説

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サルバトルには、わざわざ村での大事な仕事を中断してもらってまで、ここまでついてきてもらったんだ。

それだけでもう感謝しかないし、いつまでも無理をさせて拘束する訳にはいかない。

アイリス村には、サルバトルの帰りを待っている、彼の力を必要としている人たちがたくさんいるんだ。

「ここまでいくつかの村や街を回ってきたが、不思議だな。貴殿とこうして共に宿を探しにいくのは、今日が初めてだ」

これまで、僕が宿を取ってくるまでは、絶対に自ら手を貸そうとはしなかったサルバトル。

サルバトルのことだから、それを自分が代わりにやってしまっては、僕の『仕事』を奪うことになる、それでは戦わない僕が『輝ける場所』がなくなってしまうと、僕のことを想って、敢えて黙って見守っていてくれたのかもしれない。

そのサルバトルが、今日に限っては何故か僕と一緒に、宿を探しについてきてくれている。

その理由が、僕には痛いほど分かった。

いつもすぐ近くにいたサルバトルのことだ、彼がいま何を思っているのか、何を感じているのか。彼の体温や空気で、言葉にしなくても通じていた。

もう、『自分の役目は済んだ』から。

これから先は、自分が僕の『仕事』を奪ってしまうこともないと、彼はその背中で語っていた。

サルバトルも分かっているんだ。

今夜の宿。

そこにもう、自分の姿はないことを。

正直僕は、このまま永遠に宿屋になんか着かなければいいのにと思った。

初めてできた、僕の大切な仲間。

サルバトルと離れたくない。

どこを探しても宿屋が見つからず、町をグルグルと歩き回って、このまま永遠にこの時間が続いていけばいいのにと思った。

だけど、そんな僕の願いとは裏腹に、今夜の宿は見つかってしまって、サルバトルは宿屋の扉を開けた。

「いらっしゃい。ここは城下町の宿屋だ。一晩200ゴルドだが、泊まっていくかい?」

「うむ、『二人分』よろしく頼む。ただ、泊まるのは私ではなく、こちらのフラジールともう一人の仲間だ」

宿の予約を済ませると、今度は道具屋へと向かう僕たち。

ここまで二人でもめちゃくちゃ苦労してきたのに、当然また徒歩でサルバトルがアイリス村に帰れる訳もない。

最後のお別れの前に、サルバトルのために『アレ』を買いに行かなければ。
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