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第1説

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僕には双子の兄がいて、僕がまだ物心つく前に病気で亡くなってしまったらしい。

子供の頃から親にそう聞かされて育ってきて、兄の顔は写真でしか見たことがなかったけど、いつも心の中には兄がいた気がする。

いつもと同じ、でもいつもとは少し違う、成人になったその日の夜、いきなり精霊に『世界を救え』なんて言われたって、心の準備ができているはずもなかった。

その日、自宅のベッドで眠りについた僕の夢に、精霊が現れてお告げをしていったのだ。

辺りはまっ暗闇、濃くて先が見通せないほどの白いもやの中、その精霊は現れた。

「勇者よ……目覚めなさい勇者よ……」

「……うん?」

「勇者フラジールよ。あなたが成人するこの日を、ずっと待っていました。あなたの、勇者としての運命を果たす時が来たのです」

「……勇者?この僕が……勇者?」

……いやね、そらね、僕だって昔からなんとなく『予感』めいたものはありましたよ?だってなんか明らかに生まれた時から、他の鼻水垂らして泣きわめいてる子らと違いましたもん、なんかこう……全身から放たれる『オーラ』というか、『輝き』が。こういうことだったんですな。(?)

「え~っと、それで今日は精霊さん、今日は僕の将来性を見込んで、青田買い、スカウトに来られたということでよろしいか?」

「スカウトというか……今この世界は凶悪な魔王の軍勢により、滅亡の危機に瀕しています。この世界を救えるのは、選ばれし勇者であるあなただけなのです。どうかこの世界を救ってください」

選ばれし勇者である僕は勿論、悩むまでもなく瞬時に即答した!!

「嫌です」(キッパリ)(???)

「……」

「僕にはあまりに荷が重すぎますよ。ご存知の通り(?)僕は力もないし剣術に秀でている訳でもないし、何か魔法が扱える訳でもない。なにしろ、生まれてこのかた何か特別な努力というものをまるでしてこなかったんです。だから何の秀でた能力も身についてはいない。命懸けの任務だ、そうおいそれと二つ返事で簡単に引き受ける訳にはいかないことぐらい、僕をおそらくは幼少の頃から見守ってきたであろうあなたには、お分かりのはずでしょう?」

「いや、はずでしょう?ではないのですよ……。そんな情けないことを胸を張って堂々と言われましても……。私も今まで数々の勇者を見てきましたが、このような勇者を見たのは初めてなので……正直困惑しています……。あなたの心配も分かりますが、大丈夫、初めは誰もが初心者なのです。今は何もできなくとも、冒険を重ねて経験を積む内に、素晴らしい勇者へと成長していくものなのです」

「そんな誰にでも言えるような綺麗事言われてもよ~。何も心に響かないんだよね。じゃあ責任取れますか!?もし僕が経験を積んでも何も成長せず、志半ばで冒険の途中で命を失ったとしたら、あなた今の言葉の責任取れますか!?僕はそういうことを言ってるんです!!自らの言葉に責任が取れないのであれば、軽はずみな発言などするべきではない!!いいですか!?自分の命を張って冒険に旅立つのは、あくまで僕なんです!!あなたではない!!あなたは遠隔で安全圏から勇者様ご一行が命懸けで戦っているのを、かぶりつきの特等席から愉しんでいればいいかもしれないが、実際に戦うことになるこっちはそうは行かないんです!!精霊のくせに(?)発言に重みがないねん重みが!!もっと考えて発言はしてくれよな!!」

「……あなたの意見は分かりました。確かにあなたの言うことにも一理あるかもしれません。一部訂正してお詫びさせて頂きます」(?)

「一理あるかもって、なにその言い方。全然納得してないけど、話を円滑に進めるために、今はひとまず謝っといてやるか、的な!!的な!!だいぶ感じ悪いっすよ~」(??)

と、何かと理由をつけて精霊の頼みをかわしてはいるものの、僕が精霊の頼みを断っている理由はただ一つ。

ただただ、『面倒くさかった』からだ。(???)

だりぃ~、勇者とかやってらんねぇしマジで~。『選ばれしもの』とか知らんがな!!精霊もよ~、『勇者フラジールよ。あなたがこの世界を救うのです!!』じゃねえよ!!なんでワシに生まれながらに世界の命運が託されとんねん!!重すぎるわ!!ワシが生まれる前までにも、もっと真面目でマシなやついくらでもいただろ!!なんでワシが生まれてくるのを律儀に待っとんねん!!今はレベル1でも、地道にやっていけばいずれは立派な勇者になるって、じゃあ今既にレベル99のやつに初めから頼みにいけばいいだろ!!なんで世界が存亡の危機の時に、ゆっくりとワシの成長を見守ろうとしとんねん!!(?)

そんなことを考えていると、精霊が何やらぶつぶつ言っていた話は、全て右から左に素通りしてしまっていた。
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