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9話 修行の開始

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 いつもの如く、朝日とともに目が覚める。

 俺の人生史上一番危険な朝だというのに、どこか憑き物が落ちたかの様にスッキリとした朝だった。
 
 「今日からは修行をしよう 。ただ、その前に、この辺りじゃ俺のレベルじゃ太刀打ち出来ないと思うし、移動しようかな。」

 纏める荷物など何も無いが、腰にフェルから預かった剣を挿し、ブルーに声をかけて木の根っこから這いずり出る。

 まるでキャンプの朝の様な、鳥のさえずりと、滝の音が聞こえ、マイナスイオンたっぷりの良い朝だった。

 「やっぱり行くなら川下かな。」

 そう一人で呟きながら、川下に移動を開始する。

 水辺に近づき過ぎると、あの辺な触手みたいなやつが怖いので、ある程度距離を保ちながら、しかしながら森にの中にも注意を払いながら、ゆっくりと進む。

 しばらく歩いていだのだが、思いのほか警戒しながら歩くことが大変なことに気づき、休憩を挟む。

 ここまでの道のりの中で、食材は一切発見できず、水に関しても川の中にいるモンスターが怖くて手を出せない状況だ。
 
 「ふー……割とお腹も喉も限界を迎えてる……ここは、勇気を出して川の水を飲むべきか……」

 しばらく悩んだ末に、俺は水を飲む事にした。
 死ぬかもしれない、そう思っても喉の渇きには勝てなかった。

 立ち上がり、剣を抜き、ジリジリと、すり足で少しずつ水が飲める位置に移動を開始する。

 ブルーも付いてきてくれる、それがなんだか、非常に心強いかった。

 ゆっくりと近づきつつ、何事もなく、水が飲める位置まで移動出来た。

 すぐに、川底を確認すると、この辺りの川は非常に浅く、流れも穏やかな事が分かった。

 「とてもじゃないけど、あの巨大なクマを襲える様な生物はいないな。」

 その事に安堵し、剣をしまい、手で水をすくう。

 キンキンに冷たい水が手にしみたが、御構い無しに喉へと流す。

ーーゴクッゴクッ…ブハァ

 冷えた水が口の中から、食道を通り胃に到達したのが分かった。
 
 「くぅ~……うんっまっ!」

 それからは、しばらく満足のいくまで水を飲み続けた。
 そんな時だった。

 川の中に、俺の目の前を優雅に泳ぎ去っていく、20cm程の魚影を発見したのだ。

 「食料まであるっ!っしゃあ。あいつ喰ってやる」

 俺は、剣を抜き、ゆらゆらと水の中を泳ぐ魚影に向かい、上から剣を突き刺した。

 逃げられては、追いかけて突き刺し、逃げられては、追いかけて突き刺した。

 「ハァ…ハァ…ハァ…くそぅ」

 その後も粘り続けたのだが、一向に捕まえられる様子もなく、一度岸に戻り、大の字になって休憩した。

 「どーやれば、あいつを捕まえられるんだよ…くそっ。剣じゃダメなのか…俺のステータスが高ければ…川を割るくらいの力があれば……もっと楽に……。ん?川を割る?そ、そうか!川を割れば良いのか!」

 俺は、疲れた体にもう一度力を入れ、立ち上がり、魔力を練る。

 「いけぇっ、最大級の"アースウォールッ"」

 アースウォールっていうのは、俺が付けた名前だが、今まで何度か出入り口を塞ぐために使った魔法のことだ。

 それを川下と川上に作り、言葉の通り、魚影が見えた場所の水を割って、隔離した。

 水が無くなり、ピチピチと一匹の魚が、川底で跳ねているのが分かる。

 そいつに、剣を突き刺し、俺は叫んだ。

 「取っ○どぉー」

 俺の作戦は成功したのだ。

 「へへ、やれば出来るんじゃん、俺だって。」

 俺は悠々と、魚を持ち上げながら、川岸に向かい、魚を下ろす。
 
 ブルーもなんだか嬉しそうにプルプルと震えている。

 俺は、周りに落ちている小枝を拾ってきて、重ね合わせ、火魔法で火を付けた。
 火は簡単に付き、水で濡れていた体に一気に暖かさが戻った事を感じた。

 剣を使って、魚の腹を開いて、ワタを取り出し、火にかけた。

 生活が出来ている、そう思うだけで涙が出そうになったが、まだ安心するのは早いと、涙を堪えて、焼き魚が出来上がるまでじっくりと魚を見ていた。


◆◇???side

 ここは、『原始の森』。ハンター成り立てのSランクハンター達が最初に体験する、人間の住む場所の近くにある様な、つまらん森とは全く異なる森である。

 巨大生物達が己が生き残るためだけに弱肉強食を繰り返し、生きる為なら自らの子ですら喰らう。
 そんな、自然そのものと言ってもいいほどの森だ。

 この森での、カーストにいるのはA級モンスターの『ビックファングベアー』だ。
 ただ、決して弱いわけじゃない。通常、Aランク冒険者達は、4人でコイツを倒す。

 なのに、ハンターズギルドに所属するためには1人で勝つ必要があると無理難題を言われ、俺も若い頃は何度も殺されかけたのを今でも鮮明に思い出す。

 あの巨大にも関わらず、6本の足がある事により、足の速さも早く、追い付かれたら最後、首まである大きな口の中に生えた無数の鋭い牙に身体をミンチの様に潰される。

 何より、危険なのは、ヤツの感知能力。見えないほど遠くにいようが類稀なる鋭い嗅覚で、エサである人間の匂いを捉えて襲ってくる。

 そんなヤツが、この森ではカースト最底辺にいる事を知った時、俺は腰を抜かした。


 ま、そんな俺も強くなり、今では、目を瞑ってでも倒せる相手になっているのだが。

 「っとぉ…アーサー公爵の言っていた場所は、この辺かな?んん…?どれどれ〔魔力感知サーチ〕」

 俺は魔力感知を発動し、辺りを探る。

 すると、森の中にある大きな石の塊に、魔力の跡が残っている事を発見する。

 どうやらここに隠れていた様だ。まだ生きてるみたいだな。

 「この魔力だな、きっと。よし。〔地図表示マッピング〕そして、〔道案内ルート〕おー。意外と進んでるな。ってか、コイツ、滝壺を住処として好む、SS級の古龍種の『フォールズネーク』のとこ通ったな。本当によく生き残ってるな。」


 そして、彼は移動を開始する。最短ルートを検索し、森の中を駆け抜ける。ケータが苦戦している森ですら、彼にとっては、こんな森は庭同然なのだ。

 彼はSSSランクハンターの『ライオット・ガ・ネスタ』。
 SSSランクになってから10年間、未開の地の調査を行なっていたが、今回アーサー公爵から直々に連絡が入り、ケータの捜索に乗り出したのだった。

 アーサー公爵には、ライオットが若い頃に色々と世話になった事から、返しきれない程の恩がある。
 だからこそ、今でもアーサー公爵のお願いであれば聞くようにしていた。


 アーサー公爵は、マラトン公爵が街のゴロツキ達を雇い、ステータスの低いケータを、生きることが難しい原始の森で遭難させる様に仕向けている事を、事前に掴んでいた。

 そもそも勇者召喚反対派だったアーサー公爵は、勝手に呼び出しておいたのに、使えないから森へ放置し殺す、というマラトン公爵のやり方に疑問を抱くとともに、もし、ケータが何かしらの方法でステータスが上がったりして国を滅ぼしに来た場合のことを考え、助ける、という選択をした。
 それほど、異世界からの転生者は分からない事だらけだったからだ。

 ただ、公爵家の身分では、コソコソと動けないため、今回はライオットに依頼を出した。ライオットはこの依頼を快く引き受け、自分のやっていた調査を中断し、すぐに向かってくれていた。

 そして、ライオットは、川岸でB級モンスターの『ネイルフィッシュ』を頬張るケータを発見するのであった。
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