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第四章 実技の授業

34話 お仕事コース(メイド基礎)

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 メイドコース。それは貴族として残れないと判断した女子が受ける科目である。ゆえに夢多き新入生が目指すかと言うと中々そこまで達観している者は少ない。

 しかし、受講者が多いのもメイド基礎の現実。ここでは、貴族に対応できるように、「姿勢」「歩き方」「笑顔」「話し方」「対応力」が教えてもらえる。貴族としても必須の基本。それなのに入学時出来ている者は少ない。

 それを餌に受講者を増やし、基礎を植え付け、やがて来る夢の破れし後の現実に対応できるようにしているのが「メイド基礎」。侮れない科目である。

 服装は「メイド服」か「制服」。スカートが必須だ。
 レイシアは、着慣れたメイド服を着て授業に参加した。



 授業会場のホールは、まるでメイド服ファッションショー。色とりどりのメイド服を着たお嬢様方。
 ミニのスカート、フリルは多め、ロリ、エロ、甘、ゴスロリ、なんでもあるここは魔境。いや、女同士のマウント合戦格闘場。
 そんな中で、真っ黒ロングスカート、シンプルなメイド服のレイシアは、思いっきり悪目立ちをしていた。

「何あの子? あんな古臭いメイド服着て」
「魔女? 黒魔女みたいね」
「まあ嫌だわ。黒魔女なんて」

 そんな陰口も聞こえなければ気にもしなくていいほど、一人隅っこにいた。



「では、グループ分けをします。脱落したものからクラスが決まります。では、最初は10人ずつ一列に並んで歩いて下さい。ただし、頭の上に本を3冊乗せたままです。10秒以内にゴールできた者は次の試験に移ります」

 教師が10人でテストを開始した。まずここで6割程の生徒が脱落した。

「できなかった皆様は見学です。次の試験。今の動きを今度はトレイを持って行います。グラスの水をこぼしたら失敗。いいですか」

 ここでほとんどの者が失敗した。ここまでは例年通りの結果だった。
 残ったのは26人。大抵が貧乏な法衣貴族の娘だった。お金を稼ぐためにバイト経験があるツワモノ達。体感がしっかりしていた。もちろんレイシアは楽らくと通過している。

「では、最後の試験です。私たちの間を通って5個の水入りグラスを空のグラスと交換して回収したらゴールまで行ってください。常に笑顔を絶やさずに。得点は減点方式。チャレンジは3回まで。1回目は練習だと思って気軽に行ってください」

 試験はとんでもないものだった。ふらつくふりで当たってくる教師。ふいにグラスをトレイから取る教師。これをされると、たいがいの生徒はバランスを失いトレイを落とした。試験が3回するのはそのためである。初見殺しのテスト。それが最終試験。

 レイシアは冷静に他の生徒と教師の動きを見ていた。見ながら頭の中でリズムをとる。
 いよいよレイシアの番になった。

 フラッとよろける教師の背中を支え、「大丈夫ですか奥様」と笑いかける笑顔。プラス3点。
 乱暴にグラスを取ろうとする教師に、ニコッと笑いながら「どうぞ」とグラスを差しだすレイシア。プラス5点。
 言い争いに巻き込まれ、ワインに見立てたグラスの水をかけられるもう一方の教師の前に立ち、代わりに水浸しになるレイシア。笑顔は崩さない。プラス30点。
 次々現れる見てもいない数々の罠を次々と潜り抜ける。

 息を飲み、見つめている生徒たち。何とかトレイを落とそうと画策する教師により、アドリブの妨害が繰り広げられる。その空気と殺気をものともせず、ゴールをきったレイシア。

 採点係の教師が「ただ今の得点、183点」と告げると、ホールの空気が凍った。

「魔女よ。やっぱり魔女」
「黒魔女様ステキ」
「なに、あれ」

 生徒たちの動揺と、教師たちの敗北。レイシアは合格証をもらい、今年の実技は免除になった。

 レイシアは、女生徒から恐怖と尊敬を集め『黒魔女様』という二つ名を獲得した。


【現在のレイシアの二つ名】
 制服の悪魔のお嬢様(略称 制服の悪魔 悪魔のお嬢様)(市場)
 黒魔女様(女生徒)

 二つ名、2つもある!
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