上 下
70 / 177
第二章 入学式

11話 入学式

しおりを挟む
 入学式。それは貴族の子供にとって、己の格と家の財力を見せしめる初めての戦いの場。もちろん、新入生の親は、己の一族の威信をかけて子供を着飾らせる。そんな風潮が出来たのは、まだ10年にもなっていないが、現在発展途上中だ。

「イリアさん。制服でいいんですよね」

 大ホールに集まった生徒たちを見ながら、レイシアはイリアに聞いた。だってそこには、タキシードや燕尾服を似合いもせずに着させられた男子と、これでもかと宝石や装飾品をゴテゴテと付けさせられ、アフタヌーンドレスを着せられている女子だらけだった。中には、カクテルドレスを着ている集団もいる。

 レイシアは『入学式の案内』を確認した。
『入学式は、制服かそれに準ずる気品ある服装……』

「それに準ずる気品ある服装があれよ」

 イリアは新入生たちをあごで指し示しながら言った。

「なんか、あたしが入学する数年前から、それに準ずる気品ある服装ってのを拡大解釈してドレス着てくる貴族女子様がいたらしくてね……。あたしに時で7割くらいだったのが、とうとう全員着る様になったね。アンタ以外」

「制服でいいんですよね」

「もちろん! ちゃんと書いてあるじゃん。かえって目立つけどな。さ、行っといで」

 背中を押され前に進むレイシア。
 着飾ったお嬢様の中で制服姿のレイシア。
 似合わないメイクのお嬢様の中ですっぴんのレイシア。
 身に着けている装飾品が、安物の猫の髪飾りしかないレイシア。

 めちゃくちゃ悪目立ちしている!

 それでいて、無駄に姿勢のいいレイシア。メイド歩行術のおかげだ。
 人間、得体のしれない者には近づかず、遠くから観察し始めるもの。席に行こうと歩くたび、波が引くように着飾ったお貴族様が下がる。モーゼの海割りの様にザザザっと。

 お嬢様方の嘲りが始まる。しかしレイシアは気づかない。遠回しの表現は理解できないから。まさか自分が話題の中心になっているとは思ってもいないので、一人きりで夕食のメニューを考えている。やがて、どこからかラノベを出して読みふけり始めた。待ち時間対応は完璧なレイシア。

 やがて、効果がないと分かると、今度は無視を始めるお嬢様方。時間が近づき全員イスに座る。レイシアの近くにいる人は嫌味を言い始める。ここで初めて「わたしのこといっているんだ」と分かったが、どうしようもない。無視することしかできなかった。



 長い、大した意味のない学園長のはなしが終わった。次に生徒会より、学園での生活の注意事項が説明された。

「(前略)というように、学園長などは『この学園では身分の差などなく、皆平等に学ぶように』などと建前を話されますが、この学園は貴族社会を徹底的に学ぶ学園です。貴族社会の序列の意味、派閥の重要性、そこを無視した平等などありえないのです。身分の差は絶対! それを忘れないようにして、学園生活を楽しんでください。なお、高位貴族による横暴な命令、下の者に対するセクシャルハラスメントは処罰の対象となります。ノブレス・オブリージュ。貴族としての責任を忘れぬように。生徒会よりは以上です」

 なんともあからさまな注意事項ではあるが、毎年序列を無視し高位貴族の息子に色仕掛けをかける者や、命令と称して下の者に不埒なことをする者が出てくるのだから仕方がない。建前だけでは成り立たない貴族社会の掟は、学園時代に学ばなければいけないのである。

 最後に、新入生代表の挨拶がおこなわれた。真新しい制服を着た生徒が出てくると、会場がざわめいた。

「王子?」 「王子様だわ」 「きゃー」

 今年の新入生の最高位が王子なのだから予定通りなのだが、なぜか燕尾服やモーニング、タキシードといった礼服ではなく、制服を着用していたのだ。

「本日は、我々新入生のために、このような立派な式を行っていただきありがとうございます。われわれは(中略)。ところで、新入生諸君。何か勘違いしていないでしょうか。ここは学園。学問の学び舎です。浮ついて着飾って、一体なにをしようとしているのでしょうか? 学園には制服というものがあるというのに。皆様の興味は宝石やドレスしかないのでしょうか? 男性諸君も同様です。これからの王国を担う皆様は、学園に何をしにきているのでしょうか? どうやらわたくしと同じ心持を持てる者は、そこの騎士服をまとっている彼ら……ああ、あそこに制服の女子がいますね。それくらいですか? 残念でなりません」

 女子たちの目線がいっせいにレイシアに向かった。
(巻き込まないで~~~~)レイシアは心の中で盛大に叫んでいたが、何もできず固まるしかなかった。
 関係者席に紛れ込んでいたイリアは、王子の演説を楽しそうに速記していたが、制服のくだりで(やばい!)とあせったが何もできない。どうにかして逃がしてあげなければと、逃亡ルートを考えていた。

「本日は皆様に生徒を代表して感謝を申し上げます。新入生代表、アルフレッド・アール・エルサム」

 何事もなかったかのように王子はステージから去っていった。

「以上を持ちまして、入学セレモニーは終了となります。なお、5時より保護者の皆様には説明会、並びに説明会終了後、先生方を交えた懇親会を予定しております。ご参加下さいますようよろしくお願いいたします。では、解散です。生徒の皆様は、後方法衣貴族のグループより会場を出る様に。では解散」

 司会者のナレーションが終わると同時に、学生が立ち上がった。
 女子達が一斉にレイシアを見つめる。その時、







 イリアは、人の少ない壁の窓を開け放ち「逃げるよ、こっち!」と叫んだ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

いじめられて死のうとしていた俺が大魔導士の力を継承し、異世界と日本を行き来する

タジリユウ
ファンタジー
 学校でのいじめを苦に自殺を図ろうとする高校生の立原正義。だが、偶然に助かり部屋の天井に異世界への扉が開いた。どうせ死んだ命だからと得体の知れない扉へ飛び込むと、そこは異世界で大魔導士が生前使っていた家だった。  大魔導士からの手紙を読むと勝手に継承魔法が発動し、多大な苦痛と引き換えに大魔導士の魔法、スキル、レベルを全て継承した。元の世界と異世界を自由に行き来できるようになり、大魔導士の力を継承した正義は異世界と日本をどちらもその圧倒的な力で無双する。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...