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第二章 入学式
11話 入学式
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入学式。それは貴族の子供にとって、己の格と家の財力を見せしめる初めての戦いの場。もちろん、新入生の親は、己の一族の威信をかけて子供を着飾らせる。そんな風潮が出来たのは、まだ10年にもなっていないが、現在発展途上中だ。
「イリアさん。制服でいいんですよね」
大ホールに集まった生徒たちを見ながら、レイシアはイリアに聞いた。だってそこには、タキシードや燕尾服を似合いもせずに着させられた男子と、これでもかと宝石や装飾品をゴテゴテと付けさせられ、アフタヌーンドレスを着せられている女子だらけだった。中には、カクテルドレスを着ている集団もいる。
レイシアは『入学式の案内』を確認した。
『入学式は、制服かそれに準ずる気品ある服装……』
「それに準ずる気品ある服装があれよ」
イリアは新入生たちをあごで指し示しながら言った。
「なんか、あたしが入学する数年前から、それに準ずる気品ある服装ってのを拡大解釈してドレス着てくる貴族女子様がいたらしくてね……。あたしに時で7割くらいだったのが、とうとう全員着る様になったね。アンタ以外」
「制服でいいんですよね」
「もちろん! ちゃんと書いてあるじゃん。かえって目立つけどな。さ、行っといで」
背中を押され前に進むレイシア。
着飾ったお嬢様の中で制服姿のレイシア。
似合わないメイクのお嬢様の中ですっぴんのレイシア。
身に着けている装飾品が、安物の猫の髪飾りしかないレイシア。
めちゃくちゃ悪目立ちしている!
それでいて、無駄に姿勢のいいレイシア。メイド歩行術のおかげだ。
人間、得体のしれない者には近づかず、遠くから観察し始めるもの。席に行こうと歩くたび、波が引くように着飾ったお貴族様が下がる。モーゼの海割りの様にザザザっと。
お嬢様方の嘲りが始まる。しかしレイシアは気づかない。遠回しの表現は理解できないから。まさか自分が話題の中心になっているとは思ってもいないので、一人きりで夕食のメニューを考えている。やがて、どこからかラノベを出して読みふけり始めた。待ち時間対応は完璧なレイシア。
やがて、効果がないと分かると、今度は無視を始めるお嬢様方。時間が近づき全員イスに座る。レイシアの近くにいる人は嫌味を言い始める。ここで初めて「わたしのこといっているんだ」と分かったが、どうしようもない。無視することしかできなかった。
◇
長い、大した意味のない学園長のはなしが終わった。次に生徒会より、学園での生活の注意事項が説明された。
「(前略)というように、学園長などは『この学園では身分の差などなく、皆平等に学ぶように』などと建前を話されますが、この学園は貴族社会を徹底的に学ぶ学園です。貴族社会の序列の意味、派閥の重要性、そこを無視した平等などありえないのです。身分の差は絶対! それを忘れないようにして、学園生活を楽しんでください。なお、高位貴族による横暴な命令、下の者に対するセクシャルハラスメントは処罰の対象となります。ノブレス・オブリージュ。貴族としての責任を忘れぬように。生徒会よりは以上です」
なんともあからさまな注意事項ではあるが、毎年序列を無視し高位貴族の息子に色仕掛けをかける者や、命令と称して下の者に不埒なことをする者が出てくるのだから仕方がない。建前だけでは成り立たない貴族社会の掟は、学園時代に学ばなければいけないのである。
最後に、新入生代表の挨拶がおこなわれた。真新しい制服を着た生徒が出てくると、会場がざわめいた。
「王子?」 「王子様だわ」 「きゃー」
今年の新入生の最高位が王子なのだから予定通りなのだが、なぜか燕尾服やモーニング、タキシードといった礼服ではなく、制服を着用していたのだ。
「本日は、我々新入生のために、このような立派な式を行っていただきありがとうございます。われわれは(中略)。ところで、新入生諸君。何か勘違いしていないでしょうか。ここは学園。学問の学び舎です。浮ついて着飾って、一体なにをしようとしているのでしょうか? 学園には制服というものがあるというのに。皆様の興味は宝石やドレスしかないのでしょうか? 男性諸君も同様です。これからの王国を担う皆様は、学園に何をしにきているのでしょうか? どうやらわたくしと同じ心持を持てる者は、そこの騎士服をまとっている彼ら……ああ、あそこに制服の女子がいますね。それくらいですか? 残念でなりません」
女子たちの目線がいっせいにレイシアに向かった。
(巻き込まないで~~~~)レイシアは心の中で盛大に叫んでいたが、何もできず固まるしかなかった。
関係者席に紛れ込んでいたイリアは、王子の演説を楽しそうに速記していたが、制服のくだりで(やばい!)とあせったが何もできない。どうにかして逃がしてあげなければと、逃亡ルートを考えていた。
「本日は皆様に生徒を代表して感謝を申し上げます。新入生代表、アルフレッド・アール・エルサム」
何事もなかったかのように王子はステージから去っていった。
「以上を持ちまして、入学セレモニーは終了となります。なお、5時より保護者の皆様には説明会、並びに説明会終了後、先生方を交えた懇親会を予定しております。ご参加下さいますようよろしくお願いいたします。では、解散です。生徒の皆様は、後方法衣貴族のグループより会場を出る様に。では解散」
司会者のナレーションが終わると同時に、学生が立ち上がった。
女子達が一斉にレイシアを見つめる。その時、
イリアは、人の少ない壁の窓を開け放ち「逃げるよ、こっち!」と叫んだ!
「イリアさん。制服でいいんですよね」
大ホールに集まった生徒たちを見ながら、レイシアはイリアに聞いた。だってそこには、タキシードや燕尾服を似合いもせずに着させられた男子と、これでもかと宝石や装飾品をゴテゴテと付けさせられ、アフタヌーンドレスを着せられている女子だらけだった。中には、カクテルドレスを着ている集団もいる。
レイシアは『入学式の案内』を確認した。
『入学式は、制服かそれに準ずる気品ある服装……』
「それに準ずる気品ある服装があれよ」
イリアは新入生たちをあごで指し示しながら言った。
「なんか、あたしが入学する数年前から、それに準ずる気品ある服装ってのを拡大解釈してドレス着てくる貴族女子様がいたらしくてね……。あたしに時で7割くらいだったのが、とうとう全員着る様になったね。アンタ以外」
「制服でいいんですよね」
「もちろん! ちゃんと書いてあるじゃん。かえって目立つけどな。さ、行っといで」
背中を押され前に進むレイシア。
着飾ったお嬢様の中で制服姿のレイシア。
似合わないメイクのお嬢様の中ですっぴんのレイシア。
身に着けている装飾品が、安物の猫の髪飾りしかないレイシア。
めちゃくちゃ悪目立ちしている!
それでいて、無駄に姿勢のいいレイシア。メイド歩行術のおかげだ。
人間、得体のしれない者には近づかず、遠くから観察し始めるもの。席に行こうと歩くたび、波が引くように着飾ったお貴族様が下がる。モーゼの海割りの様にザザザっと。
お嬢様方の嘲りが始まる。しかしレイシアは気づかない。遠回しの表現は理解できないから。まさか自分が話題の中心になっているとは思ってもいないので、一人きりで夕食のメニューを考えている。やがて、どこからかラノベを出して読みふけり始めた。待ち時間対応は完璧なレイシア。
やがて、効果がないと分かると、今度は無視を始めるお嬢様方。時間が近づき全員イスに座る。レイシアの近くにいる人は嫌味を言い始める。ここで初めて「わたしのこといっているんだ」と分かったが、どうしようもない。無視することしかできなかった。
◇
長い、大した意味のない学園長のはなしが終わった。次に生徒会より、学園での生活の注意事項が説明された。
「(前略)というように、学園長などは『この学園では身分の差などなく、皆平等に学ぶように』などと建前を話されますが、この学園は貴族社会を徹底的に学ぶ学園です。貴族社会の序列の意味、派閥の重要性、そこを無視した平等などありえないのです。身分の差は絶対! それを忘れないようにして、学園生活を楽しんでください。なお、高位貴族による横暴な命令、下の者に対するセクシャルハラスメントは処罰の対象となります。ノブレス・オブリージュ。貴族としての責任を忘れぬように。生徒会よりは以上です」
なんともあからさまな注意事項ではあるが、毎年序列を無視し高位貴族の息子に色仕掛けをかける者や、命令と称して下の者に不埒なことをする者が出てくるのだから仕方がない。建前だけでは成り立たない貴族社会の掟は、学園時代に学ばなければいけないのである。
最後に、新入生代表の挨拶がおこなわれた。真新しい制服を着た生徒が出てくると、会場がざわめいた。
「王子?」 「王子様だわ」 「きゃー」
今年の新入生の最高位が王子なのだから予定通りなのだが、なぜか燕尾服やモーニング、タキシードといった礼服ではなく、制服を着用していたのだ。
「本日は、我々新入生のために、このような立派な式を行っていただきありがとうございます。われわれは(中略)。ところで、新入生諸君。何か勘違いしていないでしょうか。ここは学園。学問の学び舎です。浮ついて着飾って、一体なにをしようとしているのでしょうか? 学園には制服というものがあるというのに。皆様の興味は宝石やドレスしかないのでしょうか? 男性諸君も同様です。これからの王国を担う皆様は、学園に何をしにきているのでしょうか? どうやらわたくしと同じ心持を持てる者は、そこの騎士服をまとっている彼ら……ああ、あそこに制服の女子がいますね。それくらいですか? 残念でなりません」
女子たちの目線がいっせいにレイシアに向かった。
(巻き込まないで~~~~)レイシアは心の中で盛大に叫んでいたが、何もできず固まるしかなかった。
関係者席に紛れ込んでいたイリアは、王子の演説を楽しそうに速記していたが、制服のくだりで(やばい!)とあせったが何もできない。どうにかして逃がしてあげなければと、逃亡ルートを考えていた。
「本日は皆様に生徒を代表して感謝を申し上げます。新入生代表、アルフレッド・アール・エルサム」
何事もなかったかのように王子はステージから去っていった。
「以上を持ちまして、入学セレモニーは終了となります。なお、5時より保護者の皆様には説明会、並びに説明会終了後、先生方を交えた懇親会を予定しております。ご参加下さいますようよろしくお願いいたします。では、解散です。生徒の皆様は、後方法衣貴族のグループより会場を出る様に。では解散」
司会者のナレーションが終わると同時に、学生が立ち上がった。
女子達が一斉にレイシアを見つめる。その時、
イリアは、人の少ない壁の窓を開け放ち「逃げるよ、こっち!」と叫んだ!
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