上 下
45 / 177
第四章 オヤマー領 レイシア11歳

45話  お家に帰ろう!(第四章完)

しおりを挟む
 ターナー領へ帰るまであと7日。
 お祖父様もお祖母様も、レイシアをいたく気に入ってしまった。自分が育てたいくらいに。

 お祖父様は、自分の後継者として。できるなら、内孫の一人と結婚させて、頼りない息子や孫のサポート、あるいはそれ以上の仕事をして欲しい。そのために今から仕事を覚えさせたい、と思ってしまうくらいに気に入っていた。

 お祖母様は、愛する娘アリシアの影をレイシアに投影し、駆け落ちする前の素直でかわいいアリシアを取り戻したい、そのために私が教育をきちんとしなくては、と思うくらいに……。

 二人は、全く正反対の願いのもと、出てくる言葉は同じになった。

「「あんな男と暮らすより、私達と暮らさないか、レイシア」」

 そんな言葉を、ことあるたびにレイシアに投げかけた。

「あんな男と……」
「あんな男と!」
「あんな男」
「あの男のせいで……」
「あの男が、」
「あいつが」
「あれさえいなければ」
「あんな男いなくなれば」
「……………………」
「……………………」

 ありとあらゆる会話に父親の悪口がはいる。悪口のあと、甘い口調でレイシアを誘う。

「「私達と暮らさないかレイシア」」

 気持ち悪い……。
 気持ち悪い……。
 気持ち悪い……。





 あと3日。あと3日我慢すれば……。

 そう思いながらも、呪いの言葉を聞かされながらのディナー。味の分からない料理。ただ口に運ばれるだけ。

「「あんな男より、私たちと暮らそう。何でもしてあげるよ」」

 レイシアは、両手でバタン!とテーブルを叩き、勢い良く立ち上がった!

「もう嫌です! お祖父様もお祖母様も大嫌いです! 貴族の付き合いなんて大嫌いです! 私はレイシアです、お母様ではないです! お父様とクリシュの所へ帰ります! お世話になりました。ご迷惑をおかけしました。もう居られません! おかしくなります! 出ていきます! ごめんなさい。 無理です! ここに居るの無理。嫌。むり……」

 そう言って、泣き崩れてしまった。メイドのノエルとポエムがなだめながら、レイシアを部屋に連れて行った。



 それからレイシアは部屋から出なくなった。
 機嫌を取ろうとお祖父様とお祖母様は何度となく声をかけたが逆効果。悪気はないんだろうが、どうしても上手くいかない。やがてお別れの日となった。



「お世話になりました。ごめんなさい」

「ああ、またおいで」

「……」

「いつでも来ていいのよ。アリシアちゃん」

「……さようなら。お祖母様、お祖父様」

 それだけを言うと、さっさと馬車に乗り込んだ。

 遠ざかる馬車を、肩を落として見送るお祖父様とお祖母様。何がいけなかったのか……理解することはなかった。


◇◇◇


 もうじきターナー領に着く。レイシアはため息をついてボソッと言った。

「温泉入りたい……」

 それを聞いてノエルが言った。

「まあ、アリシア様と同じことを……」
「お母様と?」

「ええ、アリシア様が出産を終えて帰られた時も同じことをおっしゃっていました。同じようにため息をついて」

 レイシアは、「お母様お帰りなさいパーティー」の時の事を思い出した。涙があふれてきた。お母様も同じだったのだろうか。あの家から帰る時……。

「あらあら、では温泉に寄りましょうか」
「そうですわ。アリシア様も温泉でデトックスしていましたもの」

 ポエムが言うと、馬車は温泉を目指し走った。



 温泉でゆっくり毒抜きを終えたレイシア。

「あの時は、何ですぐに来てくれないのだろうと思っていたけど、こういう事だったのね」

「そうだと思いますよ」
「きっとそうです」

「さあ、帰ろう。お父様とクリシュのもとへ。すてきなわが家へ。元気な顔を見せなくては、ね」

 帰ったらクリシュを満喫まんきつしよう。そう思い立ち上がるレイシアだった。



 第四章 完
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

聖女の替え玉がんばります!~ぽんこつメイドが聖女に扮してみたら超有能。偽物だけど貴公子達に溺愛されて世直しムーブが捗ります!!~

R・S・ムスカリ
恋愛
聖都の子爵邸で働くダイアナは、失敗ばかりのぽんこつメイド。 ある日、聖女である子爵の娘が行方をくらませてしまう。 娘の失踪をごまかすため、子爵は背丈と顔が瓜二つのダイアナに身代わりを命じる。 替え玉に扮することとなった彼女は、本物顔負けの聖女を演じて世間を騒がせる一方、社交界の貴公子達から熱烈なアプローチを受ける。 しかし、彼らは口にできない秘密と心の闇を抱えていた。 ダイアナは持ち前の明るさと聖女への〝なりきり〟で彼らの心の闇を払い、共に乱れた国家、宮廷、社交界を世直ししていく。 その果てに、奇跡も魔法も使えない一少女のがんばりが、真の聖女ですら成し得なかった世界の理を改革する!! ※恋愛成分よりも冒険成分が多めです。 ※中盤からマスコットキャラ(もふもふ)も登場します。 ※敵味方ともに人間キャラの死亡退場はありません。 ※本作は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアップ+」でも公開中です。 ※HJ小説大賞2021後期 二次選考通過作品です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。 胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。 いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。 ――――気づけば異世界?  金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。 自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。 本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの? 勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの? どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。 まだ、たった15才なんだから。 ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。 ――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。 浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。 召喚から浄化までの約3か月のこと。 見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。 ※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。 29話以降が、シファルルートの分岐になります。 29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。 本編・ジークムントルートも連載中です。

蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく
ファンタジー
|神代《かみよ》の時代から、創造主:Y.O.N.Nと悪魔の統括者であるハイヨル混沌は激しい戦いを繰り返してきた。 その両者の戦いの余波を受けて、惑星:ジ・アースは4つに分かたれてしまう。 それから、さらに途方もない年月が経つ。 復活を果たしたハイヨル混沌は今度こそ、創造主;Y.O.N.Nとの決着をつけるためにも、惑星:ジ・アースを完全に暗黒の世界へと変えようとする。 ハイヨル混沌の支配を跳ね返すためにも、創造主:Y.O.N.Nのパートナーとも呼べる天界の主である星皇が天使軍団を率い、ハイヨル混沌軍団との戦いを始める。 しかし、ハイヨル混沌軍団は地上界を闇の世界に堕とすだけでなく、星皇の妻の命を狙う。 その計画を妨害するためにも星皇は自分の妾(男の娘)を妻の下へと派遣する。 幾星霜もの間、続いた創造主:Y.O.N.Nとハイヨル混沌との戦いに終止符を打つキーマンとなる星皇の妻と妾(男の娘)は互いの手を取り合う。 時にはぶつかり合い、地獄と化していく地上界で懸命に戦い、やがて、その命の炎を燃やし尽くす……。 彼女達の命の輝きを見た地上界の住人たちは、彼女たちの戦いの軌跡と生き様を『蒼星伝』として語り継ぐことになる。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

処理中です...