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第二章 お母様と弟 レイシア6歳

20話 私らしく

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 次の日、レイシアは神父様に相談した。お母様が求めている事が本当に分からなかったから。

「私らしく。ふむ、哲学ですね。レイシア、その命題はね、誰にも解けていない、永遠の課題なでのすよ」

「誰も分からないのですか」

「ええ、では考えていきましょうか」

 さすが学問フェチの神父様。話をややこし……哲学に落とし込んだ。

「まず、レイシア、あなたは1人しかいません。これは分かりますね」

「当たり前です」

「ですが、あなたを見ている人は沢山います。私にとっては素晴らしい生徒ですし、孤児たちにとっては素敵な姉御です。料理長は料理をしている時は一人前の弟子だけど、普段は自分が仕えるお嬢様。メイド長も同じ様な感じですか。お父様から見たら手のかからない娘ですし、お母様から見たら……どう見えると思いますか?」

「お母様から見る私、ですか?」

 レイシアはしばらく考えた。自分がどう見られているか。そんなこと考えたことなどなかったから。

「5歳の時の私と、今の私。全然違いますか?」

「もちろんです。レイシアは成長しているのですから。頑張って何も出来ない子供が、いろいろ出来るようになったでしょう」

 なるほど、とレイシアは思った。

「お母様は5歳の私を見ているのですね」

「人はいろいろな様に見るのです。5歳のレイシアも見ていますし、今のレイシアも見ています。それだけでなく、想像上のレイシアも見ているのですよ」

 神父は間をおいて続けた。

「でも、一番は、レイシア。あなたがあなたをどう見ているかです」

「私が私を……ですか?」

「人はね、今の自分と未来の自分、なりたい自分と出来ない自分、理想の自分と現実の自分に悩むのです。自分のことが一番見えていなくて、一番勘違いする、それが自分自身なのですよ。人はそこで悩むのです」

 容赦なく哲学をぶち込む神父学問オタク。相手は6歳。

「自分が自分と向き合うためにはいろいろと体験しなければいけません。君は、弟のためにそこの育児書を読みましたね。どう思いましたか」

「本によって書いてあることがバラバラでどれがいいのか分かりませんでした」

「よく読めています。それで正解ですよ。沢山育児書はありますが、書いている人は大抵が学者。子育てなど奥様や乳母に押し付けてなんにもしたことがない人たちです。その点レイシア、あなたはこの孤児院で立派なお姉さんをやっていますよね。一人ひとりが皆違う、育ち方に正解はないと知っているのです。だから、あなたは育ちたいように育てば良いのですよ」

「でも、お母様は料理もメイド修行も止めて、女の子らしさを身に着けなさいと……女の子らしさって何でしょう。私は料理もメイド修行も大好きなのに」

「こう考えてはいかがでしょう。レイシア様は新たな師を得たのです。女子力を侮ってはいけません。悪役令嬢のオープニングの追放劇は、女子力の高いヒロインに主人公が貶められ、バカ王子に無実の罪を着せられて婚約破棄・追放されるのでしょう。主人公に不足だったのは女子力です。女子力が高ければ防げる悲劇があるのですよ」

 神父はよく分からない説得を始めた。何でラノベ?何で悪役令嬢?

「貴族社会は、特に女性の社交で女子力がないのは致命的。罠にはめてくださいと言っているようなものです。あなたの失敗は弟の致命傷になりかねないのです」

「弟の致命傷?」

「そうです。学園は素晴らしい所、と同時に危険な所でもあるのです。女子力、女子力は大事です。料理とメイド修行は、これからは師のもとを離れ、自ら考え学ぶ時期になったのです。次の課題は女子力です」

「弟のために女子力を磨くのですね。分かりました」

 結局、最初の哲学は置き去りになりながらも、レイシアは新しい課題を、弟のために頑張ろうと決めたのだった。

 弟のために頑張る、今までもこれからも。それが私らしい生き方だ。

 レイシアはそう思った。
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