上 下
3 / 177
第一章 ステキなお姉様になるよ(レイシア5歳)

3話 初めてのダンス

しおりを挟む
 教会の活動の一つに孤児院の運営がある。様々な理由で親の庇護が受けられない子供達を保護するのだが、孤児院のあり方は教会次第。神父(運営)や領主(タニマチ)の思い一つでどうとでもなってしまう。

 ターナー領の孤児院は、王国一孤児に優しいと言っても過言ではない。神父が頑張っているから。領主がケチらないから。

 おかげで、例えば旦那を亡くし後妻に入る未亡人に、
「子供は要らん、連れてくるな」
といった横暴な相手がいたとする。言う事を聞かなければいけない母親が、自領の孤児院を嫌がり、わざわざ他領から子供を捨てに来る。そんなことがよく起こっていた。

 王都近くの裕福な地域に住んでいながら遠いど田舎まで来られる程余裕のある家の子供が、あまり豊かとは言えないターナー領の孤児院に捨てられて行くのだ。理不尽……。

 世知辛い話だが、他領の孤児院は酷い所が多い。親心としては少しでも子供に幸せになって欲しいと言う事だろうが、ターナー領からしたらいい迷惑。

 しかし来る孤児こばめない。
 それが、人の良いターナー領の性質。

 故に農村特有の『ご近所同士の相互扶助』がしっかりしているのどかな田舎の割に、ターナー領の孤児院には多くの子供達が集まっていた。



 教会の控室。洗礼を終えたレイシアに両親は、「よく頑張った」「素敵でした」とレイシアを褒めながら、家族でゆっくりと休憩していた。

 儀式をやりきって緊張の解けたレイシアは絶え間なく話し続けていた。しばらくして興奮が収まるのを見届けてお父様が言った。

「レイシア、私があげたプレゼントの正しい使い方を神父様が教えてくれるよ。これから神父様に字を習って来なさい。素敵なレディになるためにね」

と言って石板とチョークを渡した。

 レイシアは石板を胸に抱え、迎えに来た神父に連れられて教会を出た。歩きながら神父は、

「これから行く教室の中では、私の事をバリュー先生と呼ぶように。君のことはレイシアと呼びます。これは教室での先生と生徒の約束事です。よろしいですね」

と伝えた。

 レイシアが、「はい、バリュー先生」と言うと神父は「よくできました」と褒めた。そして先生は教室の扉を開いた。



 敷地の奥に孤児院がある。食堂では子供達が自習をしていた。机と椅子が設置された広い部屋は食堂しかないから。奥にある調理場では当番の孤児が、お昼ごはんを調理していた。

「はい、皆顔を上げてこちらを見なさい」

 神父がそう言うと、みんなの視線がレイシアに集まった。レイシアは神父の陰に隠れた。

「大丈夫。ほら顔を出して挨拶しなさい」

 神父がレイシアの背に手をやり前に誘導する。レイシアは勇気を出して挨拶をした。

「はじめまして、レイシア・ターナーです」

とスカートを摘んでお辞儀をした。
 
 あちらこちらから一斉に「カワイイ!」「キレイ!」「おひめさま?」「ホンモノ?」といった声があがった。

「はい、みんな静かに、今日から皆と一緒に勉強するレイシアです。仲良くするように」

「「「は~い」」」とみんな答えた。

「じゃあレイシア。そこの席に座りなさい。」

「はい。バリュー先生」

「よろしい。では授業を始めます。今日はレイシアの初めての授業です。ですから『レイシア』の文字を覚えましょう」

 先生はレイシアの石板の上半分に『レイシア』と大きく書いて、レイシアに見せながら言った。

「この文字とこの文字が合わさって『レ』、この文字一つで『イ』、これとコレとこの記号を合わせて『シ』この文字は一つで『ア』です。自分の名前は大切ですからここのスペースに何度も書いて今日中に覚えましょう」

レイシアが見本の文字を、書いては消しまた書いたのを確認して、神父は周りの子供達に指導に行った。



「今日の授業はここまでです。お昼ごはんの支度があるので5歳以下の子は外で待ってるように。6歳以上の子は調理場へ集合」

 神父がそう言うと子供達は、

 (お姫さまのような服を着たカワイイちっちゃな新人と遊べる!)

とテンション瀑上がり。

 教会では、孤児がまともな仕事につけるように、礼儀作法も指導している。故に授業中は静かだったが、休み時間は無関係。

「かわいい!」「どっから来たの!」「お外行こう」「あた\#@……」「わら%&+」「√π׶∆×」と一斉に話し出すので聞き取ることも出来ないレイシア。思いっきり腕を引っ張られ外に連れて行かれた。

 レイシアは屋敷の中ではいつも静かな大人としか接していなかったので、あまりの勢いにどうしていいか分からずパニック。「こっちこっち」と駆けずり回る子供達に引きずられたレイシアは思わず、

「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャーー」

とお嬢様らしからぬ笑い声をあげてクルクル回った……。子供のパニックはいつも想像のナナメ上。

 子供達は大喜び。レイシアのパニクったテンションにシンクロしたのか

「「「 ウヒャヒャヒャヒャー 」」」

と笑いながら手を繋いで大きな輪になり、グルグルグルグル回り始めた。 

 (お祈りした、名前も書いた。でも分からないことだらけ。そうだ輪になったままダンスしよう… これだわ!)

♬ラン ラ ラ、さあ丸くなって輪舞ロンド
ラ ラン ラン、すぐにできるから
ルン ル ルン、ああ輪になってダンス踊れ
ルルー ルルー、友達になれるよ

み~ん~な~~で~~~(ジャカジャン)♪

 踊りきった。歌いきった。

 壊れまくったテンションのまま、みんなは心を一つにして大声で笑った。

「「「ウヒャヒャヒャヒャー」」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

いじめられて死のうとしていた俺が大魔導士の力を継承し、異世界と日本を行き来する

タジリユウ
ファンタジー
 学校でのいじめを苦に自殺を図ろうとする高校生の立原正義。だが、偶然に助かり部屋の天井に異世界への扉が開いた。どうせ死んだ命だからと得体の知れない扉へ飛び込むと、そこは異世界で大魔導士が生前使っていた家だった。  大魔導士からの手紙を読むと勝手に継承魔法が発動し、多大な苦痛と引き換えに大魔導士の魔法、スキル、レベルを全て継承した。元の世界と異世界を自由に行き来できるようになり、大魔導士の力を継承した正義は異世界と日本をどちらもその圧倒的な力で無双する。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...