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第三章

旅立ち(修行の旅へ)

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 エルモアへの報告が終わると、私達はギルドの酒場でグランツが来るのを待った。くつろぎたいというのに、相変わらずパーティーへ誘われたりと男達が放っておいてくれない。
 いい加減嫌気が差してきた頃、エルモアの使いでハミュールが呼びに来た事でなんとか解放されたけど、その頃にはエリーゼですら無視を決め込む程だった。

 場所は変わってエルモアの執務室。中に入ると既にグランツと一緒にサージの姿もあった。
 どうやってここまで連れてきたのかはあえて聞かなかったけど、両手が後ろで拘束されている事から察する事が出来る。そして、関係者として呼ばれたのかルシェリの姿もあり、憎悪の籠った目でサージを睨んでいる。

「全員集まりましたね。では始めましょうか」

 まず最初にエルモアが今判明している事を話してくれた。
 密偵が王都を離脱したのは間違いなく、北街道をワカルフへ向かったものと思われるが、現在消息不明であるとの事だった。王都を出る際、何者かが協力したのは間違い無いようで、ある王族が一人同行しているらしい。その者の名は『メイシェラ=エレシオン』といい、過去王位継承争いから失脚したとある王族の血筋である。
 庶民は知らないが、不当に王位を奪われたような血の黒歴史が王族にはいくつもあり、エレシオン家もその一つだという。つまり、メトは王族の末裔たる血筋を使い何かを企んでいるのではとの見立てが出来る。
 一番考えられるのは、メトが後ろ盾になっての戦争の口実、不当に奪われた王位を取り戻してやろうと利用するというものだが、今はどんな事も推測の域を出ない。

「メイシェラ様はまだ十三歳と若く、メトが利用するにしてもすぐではないと思うわ。この件に関してはグランツにいろいろと動いてもらっていたんだけど、まさか監視の目を盗み王都の外に連れ出されるとわね」

「まあ、王位継承に関してはサムルト殿下はまだ三歳、サルファス殿下に至ってはお産まれになられたばかりだ。メトが何を考えてるかは分からんが、魔族の兵団を組織した事と言い、間違いなく何か仕掛けてくるだろう」

「何かするにしてもすぐではないでしょうけど……」

「だな。それと、俺の具申で王城から追手が組織され放たれている頃だ。ワカルフ領主にも早馬が走っているし、慌てずともそのうち結果が出るだろう。依頼の範囲がギルドの権限を超えてしまうし、俺達に出来るのはここまでだ」

「そうね。冒険者ギルドにも公開される形で部分的に依頼が来ると思うけど、それは数日遅れになるでしょう」

 その数日は追う側としては致命的な日数になる。つまり、冒険者ギルドに来る依頼は、網に掛ればいい程度、情報を集めてくれればいいという内容のものだろう。
 あまり表に出したくない王家の問題、恥部が含まれていれば、問題の中枢に関わる人間はなるべく少ない方が良いのだから。
 この後はサージの扱いに関して話し合われた。当然ルシェリは王都警備隊に付き出すべしとの考えを示したが、グランツは意外にも別な考えを示した。罪を償う機会を与え、自分にサージを預けろと言ったのだ。
 流石に冒険者殺しの罪である事からそこまで容認出来ないとエルモアも言ったが、罪人に施す戒めの呪をサージに施すという事で折れてしまった。
 戒めの呪とは、罪を犯した者を一定期間、或いは一生縛り付ける呪いのようなものである。例えば、ある戒めを破った場合に体中に激痛が走るものから、最大のもので死に至るものまでがあり、ラターニア王国では死刑囚以外の罪人が等しく負う罰である。

「ルシェリ、納得はいかないかもしれないけど、グランツがここまで言うからには何かあるんでしょう。なんとか堪えてはもらえないかしら?」

「エルモア様がそういうのであれば、私は……ただ、気持ちとしてはこの王都にだけはいて欲しくないです」

「なら丁度いい。俺は暫く中央大陸エルダストに行く。鍛える為にアイシャとティアルカを連れて行くつもりなんだが、それにサージも連れて行こうと思うがそれでどうだ?」

「それなら……」

 ルシェリは納得している訳ではないようだが渋々了承した。それに対しサージは黙して何も語らず決まるに任せ、アイシャとティアルカは事の成り行きを見守っている。その間エリーゼはずっとサージを観察し、エルモアは部屋の中を行ったり来たりしながら思案していたが、やっと結論が出ると立ち止まってグランツに顔を向けた。

「いいわ、まずは長くても二年経ったら一度戻ってきてちょうだい。ただし、必要であればいつでも呼び戻します。あと、ダンジョン下層の調査に行っているA級冒険者を呼び戻し、冒険者ギルドもいろいろと態勢を整える事にするわ。ルシェリ、とりあえず二年経ったらもう一度あなたの目でサージを判断なさい。それと、あなたには今日から私の補佐として動いてもらいます。まずエルフの里に行き、後で示す者を呼んで来てもらうわね」

 話は決まった。
 全員エルモアの決定に同意し、それぞれ動く事となったが、アイシャは一つだけ気がかりな事があった。

「エリーゼは私達と一緒に行かないの?」

「ええ、今までずっと一緒だったから、少しの間離れてみるのもいいでしょ?」

(本当はちょっとした親離れ子離れの儀式だけども)

「うん……寂しいけど我慢する」

 こうして冒険者ギルドを巻き込んだ一つの騒動は、王都に住む一般人に大きく知られる事なく終息し、捜査諸々の件は王都警備隊へ引き継がれた。

 数日の後、ラターニア王国はメトとの国交断絶を決定、メトへの警戒を強める為、ワカルフに一個連隊の兵を派兵する事が同時に決定された。このまま戦争に発展するのか、それとも別な何かなのか、今は何一つ確かなものがなかった。

◇      ◇      ◇

 アイシャとエリーゼの家の前には馬車が一台と見送りの者が何人か集まっていた。
 旅に出るならサージの事もあるから早い方がよいとグランツが提案し、あれから日を置かずに旅立つ日が決められたのだ。そして、その日はやって来た。
 見送りにはイリージャ、ラパン、コーディ、忙しいというのにエルモアとハミュールの姿まであった。

「アイシャがいなくなるなんて寂しくなるなぁ」

「もうイリージャったら永遠の別れになる訳じゃないのに……二年なんてあっという間よ。戻ったらまた一緒にパーティー組んだりしましょ」

「うん。気をつけてね」

 それぞれが暫しの別れを済ませ、アイシャ達一行は中央大陸エルダストへと旅立った。
 すっかり元気になったティアルカは、見知らぬ場所へ行けるのが嬉しいのか、とても楽しそうにしている。それと違い、アイシャは出発してからずっと物思いに耽っているようだ。エリーゼや友人と別れ遠くへ行く事に寂しさを感じているからだろうか。
 そんな二人とはまた様子が違い、サージは半分生気が抜け落ちたように元気がない。仲間を、そして、故郷メトをも裏切った事を今になって悔いているのかもしれない。
 皆には話していないが、グランツもただ中央大陸へ行く事にした訳ではない。アイシャを必ず強くして戻る事をエリーゼに誓い、何が最善であるか出発する前からずっと模索しているのだ。
 本当に強力なモンスターや、英雄と呼ばれる人物は殆どが中央大陸に存在し、比較的平和なアース大陸ではいろいろな経験をさせるのに不十分と判断しての事だった。
 アイシャは今より強くなる為に、ティアルカは魔界とは違うこの世界に何かを感じる事が出来ればいいだろう。そして、サージには今までの自分を見つめ直す事をグランツは課している。
 
 アース大陸北方に不穏な空気が漂う中、それぞれが違う思いを懐き、アイシャ達の修行の旅は始まった。

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現ステータス(簡易)

エリーゼ・職種(魔術師)
スキル1【肉体再生能力・空間操作能力・不老・魔力無尽蔵】
スキル2【治癒の涙(使えるかも?)】
 現在C級冒険者。
 肉体年齢は十九歳の時に固定された。
 いろいろ隠し事が多い。
 過去教会に関係していたようだが詳細不明。
 魔法は攻撃、支援、治癒と一通り使える。

アイシャ・職種(剣士)
スキル1【肉体再生能力・空間操作能力・不老】
スキル2【武器等魔剣化:魔力付与】
スキル3【治癒の涙:血にも効果あり】
 現在C級冒険者。
 肉体年齢は十八歳で固定された。
 修行の旅で成長するはず。

ティアルカ・職種(剣士)・年齢(不明)
スキル1【夢魔に近い能力を持つ】
スキル2【深紅の魔眼:能力の詳細は不明】
スキル3【魔気:身体能力強化】
 現在C級冒険者。
 魔力や身体能力が高い。
 武器は通常より丈夫で重いハルバードを使用。

サージ・職種(不明)・年齢(不明)
スキル 【魔気:身体能力強化(防御特化)】
 身体能力が高い。
 覚醒し魔気を使えるようになったが、まだ完全に使いこなせていない。
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