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第二章

王都に帰ってきました

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 夜が明け、干し肉等で簡単な朝食を摂るとすぐ出発をする。流れる風景が楽しいのか、今日もティアは幌の付いていない後ろに寄り、ずっと外の風景を眺めている。

「んん? ねぇアイシャ、あれはなあに?」

 いろいろな質問をしてくるティアに対し、私は自分が知っている事なら面倒くさがらずに答えるんだけど、今回は答える事が出来なかった。

「う~ん……エリーゼ、私も分からないんだけどあれって何?」

 馬車の後方、進行方向から見て右後方の山の上に、なんらかの建造物らしきものが見えるけど、私にはそれが何なのか分からなかった。

「あれはテタリオ砦と言ってタリナの民が住んでるのよ」

「タリナの民?」

「男女共に美形で戦いにも長けているらしいけど、私も詳しい事は分からない。王都で商隊を護衛する為の護衛業をしてるわね」

「そうなんだ……ティア分かった?」

「うん……ねぇねぇ、それじゃあれはなあに?」

「どれどれ……!? え? ええぇぇぇっ!」

 次は何かとティアが指差す方向を見ると、砂塵を巻き上げながら何十騎もの騎馬がこちらへ走って来る所だった。って、呑気にしてる場合じゃない!

「盗賊よ! どうしよう…応戦する?」

「いや、このまま走らせるからコーディとエリーゼの魔法でなんとかできないか?」

 エリーゼは少し考えるとすぐに返事をする。

「私は構わないけど、手加減が出来るかは微妙よ?」

「俺の意見としては、ある程度敵か敵じゃないか分かる距離まで近付かせてからの応戦でいいと思うが」

 コーディの意見にエリーゼが頷き、相手の見極めが開始された。
 現在相手までの距離は数百メートル。その距離が二百メートルくらいまで近付くと、私には完全に確認が出来ないが、およそ盗賊で間違いないと思われた。
 それは隊列や装備が統制されていない事や、我先に駆けてくる事からも予想できた。

「もう盗賊って事でいいよね?」

「ああ、間違いないな」

「よし、まず俺が弓で牽制してみよう」

 なんとも緊張感がない事だけど、コーディが一本の弓を射ると、それは綺麗な放物線を描きながら盗賊の一団に吸い込まれていく。そして、少しして馬上から転げ落ちた盗賊が後塵の向こうに置き去りにされるのが見えた。

「次は私ね」

 エリーゼが魔法を使う為に後方へ移動した時だった。盗賊達は狙いを定めさせない為か左右に分かれ、そのまま馬車を挟み込む位置へ速度を上げて走って来る。

「少しは頭が回るようじゃない」

「ちょっとエリーゼ、関心してないで早く魔法使ってよ」

「分かってるわ! ラパンあまり速度をあげて馬に負担かけないでね?」

「おう、そこらへんは抜かりないぜ!」

 エリーゼは集中して魔力を高めると、向かって右側を走る盗賊達の手前に魔法を発動した。
 なんか緊張感なさすぎ!

『アクア・ウォール』

 横に十五メートルほどの水の壁が出来上がると盗賊達はどんどん突っ込んでいき、一騎も壁を抜けてくる者はいなかった。これで盗賊達はあっさり半分の人数が脱落した事になる。

「コーディ、残りの盗賊にどんどん矢を射て!」

「了解」

 コーディは矢による攻撃を開始し、エリーゼはまた集中をはじめる。しかし、流石に固まっているのは不味いと思ったようで、盗賊達も分散しはじめた。最初に脱落した者達の中で無事だった盗賊も向かってきてる。まだ距離は遠いけどね。

「もう……まだ諦めないんだね」

「盗賊は嫌いよ」

 イリージャは自分が捕まった時の事を思い出したのか、冷たい表情で言い放つ。

「あと十騎しかいないのに……本当がんばるなぁ」

 盗賊には盗賊なりのプライドでもあるのだろう。そして、お互いの距離が五十メートルもないくらいに近付いた頃だった。

「すまん……もう矢が残り少ない」

 コーディから矢の残数が少ない事が告げられた。

「いいわ! あとは私の魔法で片付け……」

 すると、今まで大人しくしていたティアが急に立ち上がった。

「アイシャ、あれ悪いやつ?」

「え、えぇ……悪いやつだけど……」

「イリージャも嫌いなの?」

「大嫌い! 盗賊なんていなくなればいいのよ!」

 その言葉を聞いた瞬間、ティアは馬車から飛び降りた。

「ティアっ! ラパン馬車を停めて!」

「お、おう」

 馬車から飛び降りたティアは、剣を抜き放つと逆手に持って大きく跳躍した。そして、体を回転させるとともに剣を振り抜くと、左右を駆け抜け攻撃してきた盗賊が二人同時に血飛沫をあげて落馬する。
 その後も馬の間を縫うようにして、電光石火の動きで斬る、斬る、斬る、斬りまくる。
 討ち漏らした盗賊も追い縋って斬る。
 馬車が停まり、アイシャ達が駆けつけた時には馬上にいる盗賊が一人もいない状態だった。しかし、全員息があるのはティアが手加減したからだろうか。
 こうなると、アクア・ウォールから復帰し追ってきた盗賊達も、流石に分が悪いとみて仲間を見捨て逃げて行く。

「ティア……」

 またしてもティアの身体能力の高さを見せつけられ、驚きに目を大きくする私達だった。

「ぐうぅぅ……痛てぇ……助けてくれぇ……」

 盗賊達は、斬られた傷より落馬時の衝撃による怪我のほうが酷いみたい。それでも簡単に治癒をしてあげたりはしない。

「頼む……助けてくれ……」

「あなた達は命乞いした者を助けたりしないでしょ?」

 そう言い放つとイリージャは踵を返し馬車の方へ戻って行く。

「自業自得ね」

「アイシャとイリージャが嫌いなのはティアも嫌い!」

 私も同様に馬車へ向かい、その後をティアが付いてくる。

「仲間が戻って来るのを期待するのね」

 エリーゼが踵を返すと、残りの者もその後を追い盗賊達の元を離れた。
 盗賊達が逆の立場になったからと言って、それを助けてやる義理は無いのだ。寧ろ多くの冒険者は捕えて奴隷商に売るか、その場で命を断つ者のほうが多いだろう。
 後味が悪い気もしなくはないけど、盗賊や犯罪者に救いの手を差し伸べる者は少ないのだ。

 再び馬車が走り始めると、私はティアの事を考えていた。

(魔族なのに……人間を殺した事が無いから迫害されてたとか言ったわね。だから盗賊も殺さなかったのかな……)

 魔族の事はよく分からないけど、一般的に魔族の系統の者は高い身体能力と残忍な者が多いと言われている。
 でも、ティアは残忍というわけではないし、むしろ人間に近い感じで付き合っていけると私は思っている。
 鬼族の末裔達、その他にも幾つか人間に友好的な魔族は知られているし、会った事はないが冒険者にも魔族がいるという話しは聞いた事がある。
 心配のしすぎかもしれないが、ティアがすんなり冒険者として認められるか、ハミュールさんあたりに相談してみるのがいいかもしれない。
 まず私が冒険者がどういうものなのかをティアに説明し、その上で本人にやってみるか聞くのがいいだろう。

 この時点でアイシャはまだ知らなかったが、エリーゼは既にティアルカを冒険者にするつもりでいた。そうする事で三人一緒にいる事が出来るし、パーティーを組んで行動する事で、何があっても他の冒険者に文句を言わせないつもりなのだ。

 盗賊との一件より、幾つかのパーティーとすれ違いながら大街道へ合流する。
 夕刻までまだ時間があるけど、イダンセ南門へと続く大街道は、クシュ方面やリトナから来る商人と旅人が殆どだ。
 正面遠くに見える高台には王城グリーンフォレストの荘厳な姿が見え始め、それを見たティアが目を大きくしながら私に話し掛けてきた。

「あそこのお城、魔王様でも住んでるの?」

「えっと、魔はいらないかな……王様が住んでるのよ」

「おぉぉぉっ」

 御者席にいるラパンの後ろにちょこんと立ち、周囲を見渡しては何にでも感嘆の声をあげている。
 そうしている間にも南大門に着き、馬車専用の入り口で兵士から検分を受ける。
 兵士は本当にきちんと検分をしてるのかと思うほど私とエリーゼを頻りにチラチラと見てくる。
 中には見られる事に優越感を覚える人もいるらしいけど、私は男にジロジロ見られるのは嫌い。
 ぜったいエッチな事を考えているに違いないんだもん。兵士の顔が少し赤いし、鼻の下がのびてる感じなのがそれを証明している。
 しかし、それも兵士がティアの姿を見るまでだった。

「その者は人間ではないな? 肌の色や耳の形状からすると、エルフや魔族の系統か?」

「魔族だけど、何か問題ある?」

 エ、エリーゼ! 誤魔化す算段はどこにいったのよ。

「魔族か……最近メトが魔族の兵団を結成し、あらゆる国に密偵を放ったという情報があるんだ。今日もいろいろとあってな。まあ、全ての魔族を悪者と決め付けるつもりはないが、念の為身分を証明する物の掲示、それから名前を控えさせてもらおう」

「ええ、わかったわ」

 ギルドカードを掲示し名前を告げると、それを確認した兵士はやっと安心した顔になり門を通してくれた。
 自分達が王都を離れている数日で、どうやら国外情勢に変化があったみたいだけど、すぐ戦になったりという事はないのだろう。それに、メトであればイダンセではなく隣国ラハリクに攻め入る可能性だってある。
 そこらへんの情報は冒険者ギルドに行けば詳しく聞く事が出来るはずだ。

「ラパン、このまま冒険者ギルドに向かってちょうだい」

「おうっ」

 報酬とギルドでの情報収集、そこらへんの考えは全員一致している為、ギルドに向かう事に異議を唱える者はいない。だけど、ギルドへ向かう馬車の中は無言だった。
 せっかくティアという新しい家族が増えたというのに、私は魔族の扱いに対し嫌な予感ばかりがしてならなかった。
 
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