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第二章

あと少しでパパに会えます

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 誰が最初に声を発するのか、そんな駆け引きがあったかは分からないけど、最初に声を発したのはラパンだった。

「エリーゼ、いくら妹が傷付けられたからって容赦ないな。これじゃ素材も剥ぎ取れねえ」

「ゴメンなさい。オーグレーは残ってるからそれで許してくれる?」

 エリーゼにそう言われてしまうと、ラパンもこれ以上強く言えない。

「ま、まあ、別に責めてる訳じゃない。今度は気を付けてくれればいいよ」

「それにね? アルミラージだって食べやすくなって喜んでるかも?」

「こわっ……エリーゼこわっ」

 別に後始末の事まで考えて使った魔法じゃないと思う。まあ、ラパンはやり過ぎと取ったみたいだけど。
 それから少し時間が経ち、自分達のパーティー全員の無事を確認し終わった頃、他のパーティーも私達の事が気になり近付いてきた。

「あなた達は下層調査に来たA級パーティーですか?」

「いいえ、中層までいくD級パーティーです」

 女の冒険者に話し掛けられ、普通に本当の事を言うエリーゼ。それに対し、男の冒険者は胡乱げな目をしながら否定する。

「ははは…冗談だろ? D級? いや、C級やB球でもあんな真似できるもんか!」

「嘘じゃないんだけどなぁ…」

 最後の魔法、エリーゼがあれだけ派手にやれば、D級パーティーなどと言っても信じてもらえる筈ないか。

「まあ、別に文句を言いに来た訳じゃなくて、さっき助けてもらった礼が言いたくて来たんだが……」

「同じ冒険者ですから気にしないで下さい」

 エリーゼがやんわりと受け答えをする。しかし、なぜか近付いて来たパーティーの者達は横に並ぶ私の方ばかりを見ている。

「あの、皆さん顔が赤いですけど何処か調子でも悪いんですか?」

 などと応える私は相当鈍いらしい。

「アイシャ、同じパーティーだから教えてやるよ。服が破けて胸が半分見えてるんだ。俺はそれでも構わないけどな」

「え?」

 ラパンに言われ、やっと自分の姿がとんでもない事になっていると知った。見えそうで見えない、男心をくすぐる姿ってやつですか?

「なぁぁぁっ!? エリーゼどうして教えてくれないのよ?」

「だって減るものじゃないし」

 私を見る男達は全員『そうだそうだ』と頷いている。サービスしすぎた……。

「むぅぅ……」

「まあ、それは置いておくとして、これだけの数のオーガは一体どこから現れたのかしら?」

 オーガ達は何処から現れたのか、それはもっともな疑問だ。
 何度もダンジョンに来ているラパンやコーディもこのダンジョンにオーガが出るなど聞いた事はないらしい。それが第二層にどうやって現れたのか是非知りたい。

「そ、それが……空間が歪んだと思ったらいきなりこの数で現れたんだよ」

「空間が……転移魔法かしら?」

「で、殆どのパーティーは三層に降りてたから、なんとか二層に居たパーティーで凌いでたんだが、後はそこに君達のパーティーが加勢してくれたって訳だ」

 その後の事は私達も知っての通りだ。そして、ラパンが足らない部分を少しだけ補足する。

「今ここにいるパーティーはダンジョン中層で活動してるやつらばかりさ。だから最初に下層にいくパーティーがダンジョンに入り、その後まとまって中層に行くパーティーが入るんだ」

「そっか、だから私達は最後尾の方に並んだって訳ね?」

「そう言う事だ。このダンジョンに入る場合の暗黙のルールみたいなものだな」

 エリーゼは知っていたみたいだけど、私とイリージャだけが此処に来るのが初めてなので分からなかったのだ。そして、ある程度話しが落ち着くと、他パーティーがこんな事を言い出した。

「今日はこれからも何があるか分からない。もし良かったら、此処にいるパーティー全員で中層まで行かないか?」

「そちらのパーティーと一緒に居れば余程のことが無い限り大丈夫そうだしな」

 などとこちらのパーティーを当てにするような発言が幾つか聞こえだす。しかし、目的が違う以上ずっと一緒に行動するという訳にもいかない。そこでこちらから提案したのは中層に入るまでという条件だった。

「私達もやる事があるので、中層に入るまでという事でどうでしょう?」

 各パーティーのリーダーが集まり相談を始めるが、すぐ結論が出たのか代表の者がエリーゼに返答をする。

「それでも助かる。特にあの支援魔法と治癒魔法は何かあった時に使ってもらえるとありがたい」

「ええ、そのくらいなら」

 第二層にいるパーティーが合同で中層まで行く事が決定した。早速移動を開始し、さっきから私とエリーゼはひっきりなしに質問攻めにされている。

「俺はアンタの腕が千切れ飛ぶのを見たんだけど、どうやってくっつけたんだ?」

「ああ、それよりもあれだけ派手に吹っ飛ばされて無事ってのは何かのマジックアイテムか?」

 私は答えづらい質問ばかりしないでって心の中で悲鳴をあげる。むぅぅ……。

「えっと…手がくっついたのは……」

「神の加護よ」

 困っている私にかわりエリーゼがさらりと答えた。

『神の加護?』

 神の加護は特別な力であり、誰でも持てるというものじゃない。それこそ神の眷属が持つ力であったり、神に愛されているような者達が使える力だ。
 私でもそのくらいわかるけど、エリーゼは多くの視線を集めながら平然と答える。

「私達姉妹は神に愛されてるの」

「それは一体……」

「見ないと分からないでしょうね。こう言う事よ」

 エリーゼは腰の短剣を抜き、掌を皆に見える様にして切り付けた。

『………!?』

 最初見た者は誰でも驚くんだけど、傷はあっというまに塞がり元通りになってしまう。エリーゼは肉体再生能力に関しては公開してもいいと既に決めているようだ。

「これ程強力な加護を受けてるって事は、アンタ達は神の眷属だとでもいうのか?」

「申し訳ないけどこれ以上は詳しく話せないの」

『………』

 肉体再生能力やエリーゼの魔法など、確かに神の加護という事で説明出来る事ではあるけど、そう簡単に神から加護を受ける事など出来ないというのもある。でも、実際に見せつけられてしまえば納得するしかない。

 質問も落ち着くと、その後は特に強力なモンスターが現れるという事もなく第三層へ進む事ができた。そして、今は第三層も終わりに近づき、既に第四層への下り道が前方に見え始めている。

「ねえ、エリーゼちょっと…」

 下り道の途中、私はエリーゼを手招きして耳打ちをした。

「オーグレーと戦ってた時の事なんだけど、腕が千切れ飛んで胸骨も粉々にされて……それでもあっと言う間に再生しちゃったんだよ?」

「ああ、それはクロノスが居る場所に近いからだと思う。だって、私も魔法やりすぎちゃったもの」

「そういう事かぁ……エリーゼは加護の恩恵が強くでて、私はなんだろ?」

「アイシャも同じだと思う」

 私もクロノスの加護を受けているという事なのだろう。生まれた時にエリーゼから一部の加護が移ったのか、それとも別な何かなのはわからない。  
 本当自分ではわからない事だらけなんです。
 エリーゼはいろいろ思い当たる事があるみたいだけど、まあ、もうじき会う事になるからその時聞けばいいかな。

 暫く考え事をしながら歩いていると、パーティーは中層域である第五層に入った。中層域は第四層までとはガラリと変わり、灰褐色の石壁が延々と続く迷宮となっているようだ。

(エリーゼです。クロノス……私達が来たの分かる?)

 中層域に入った途端、エリーゼはクロノスの存在を強く感じ取れるって耳打ちで教えてくれた。それはクロノスも一緒のはずだろうとも……。
 よくわからないけど、私も同様に何者かの存在を感じ、それが大きくなっていくのがわかった。

(あと少しでパパに会えるんだね)
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