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第一章

戦闘になりました

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 馬車の中、全員が御者席の方へ寄って前方を注視する。ある程度の距離まで近づくとどのような戦闘が行われているのか様相が分かってきた。普通に人間の背丈に見えるのは冒険者パーティーだと思うが、二個パーティーがやや離れた位置でモンスターと戦闘をしているようだ。相手はゴブリンだがその数が尋常ではない。二個パーティー合わせても十人という人数に対し、五十匹はいると思われる大軍勢で襲い掛かっているのだ。
 それにしても前衛はゴブリンの攻撃をよく凌いでる。それだけでも前衛のレベルの高さが伺える。見たところどちらのパーティーも前衛四、魔術師が一という前衛重視のパーティーで、ある程度パーティー同士が連携できているのも凌げている理由だろう。
 
「ダンジョンに向かっているパーティーがゴブリンの大群に襲われてるのか?」

「あれだけの数がいれば、ゴブリンだからと侮る事はできないぞ」

「それは分かってるが、手遅れになる前に加勢したほうがよさそうだな」

 ラパンとコーディが前方で行われている戦況を分析する中、エリーゼは別な方向に目を向けていた。

「ラパン、馬車を停めて!」

「はあ? まだ距離があるぞ?」

「右手の林縁から多数のゴブリンが移動してきてるわ」

「なに!? まだ来るのかよ!」

 全員がエリーゼの指差す方向を見ると、複数のゴブリンが戦闘している場所へ向かっているのが分かった。

「あれをまず片付けましょう」

「よーし、わかった!」

 馬車はゆっくり速度を落としていき、完全に停止すると全員が外へ出る。

「でも、あちらのパーティーも疲れが見える。アイシャはラパンとイリージャを連れて加勢しに行って。近付いてきてるゴブリンは私とコーディでなんとかするから」

「了解」

「無理はしないで! 支援魔法だけ掛ける!」

 エリーゼの体が高まった魔力に白光を帯び、複数の支援魔法を詠唱なしで連続発動する。

『リーン・フォース・オール(全身体能力強化)、レジスト・ポイズン(毒耐性向上)、ディバイン・プロテクション・レイ(光の加護により防御力向上)」

「エリーゼすごい!」

「うおおおおっ!」

「こ、これは……」

「体の奥から力が……」

 全員の体が薄く白光を帯び、魔法で能力が強化されたのが分かる。

「これならやれる! 急いで行きましょ」

『了解!』

「コーディ、移動しているゴブリン達を足止めしてから魔法で叩くわ! もしこちらへ向かってきたゴブリンがいたら排除して!」

「おう!」

 アイシャ達が戦闘している場所へ向かうと、エリーゼは魔法の発動を開始する。

『アクア・ウォール』

 魔法発動と同時に移動しているゴブリン達を半円に囲む水壁が出来上がる。ゴブリン達の足が止まると、今度はそこへ打ち込む為の魔法を発動する。エリーゼの前方数メートルに無数の魔法の矢が生成されていき、その数が五十に達したかという所で一気に矢が放たれた。

『インフィニット・アロー』

(無詠唱っていうのも凄いが、連続発動でこれか…エリーゼすげぇ)

 コーディが驚きも露わに矢の行方を追っていると、次々とゴブリンを射抜き断末魔の声があがる。しかし、流石に全て仕留める事は出来ない。魔法の出処に気付いた生き残り達がこちらに向かってきた。
 エリーゼは次の魔法を放つべく集中し、コーディは弓を番えて向かってくるゴブリンへ射始めた。

◇      ◇      ◇

 一方、私達も危険なのは女魔術師を庇うパーティーと判断し、その外側から攻撃を開始した。

「加勢します。こちらは任せて!」

「恩に着る。流石にこの数は捌けん」

 前衛達は体の至る所に傷を負っているが致命傷は無い様だ。私達の参戦を好機と捉えたのか、最後の力を振り絞り攻勢に出る。別パーティーの方はまだ少し余裕のようだけど、そちらも連動して動き出した。
 支援魔法で強化されている私達にとって、ゴブリンは丁度いい標的だった。女二人でさえバーサーカーのようにゴブリンを蹴散らしてしまえるのだ。それを見た別パーティーの者達はかなり驚いている。

「イリージャ、凄いね支援魔法って」

「うん。こんなに動いても全然疲れた感じがしない」

「ラパンはどう?」

「同じだ。しかし武器の切れ味が落ちてきた」

「もうじき終わると思うから頑張ろう」

「おうよ!」

 切る! 切る! 切る! 切り飛ばす!
 ある程度戦闘が進み、そろそろゴブリン達が可愛そうに思えてきた頃、頭の悪いゴブリン達も不利を悟り撤退を始めた。そこへ別行動をしていたエリーゼ達も合流し、周囲に動くゴブリンが居なくなると戦闘は終了となった。

「ふいぃ、助かったぜ……あの数はやばかった。俺はこのパーティーのリーダーをしているヘンゼルだ」

「私達は……」

「他の者も顔や名前はある程度知っている。君はアイシャだろ? 最近美人が冒険者になったって有名だもんな。隣りは?」

「姉のエリーゼです」

「美人姉妹だなあ」

「どうせ美人じゃないです……」

 イリージャが拗ねちゃった。

「拗ねるなイリージャ、お前も普通に美人だから心配するな」

「普通にかぁ……でも、ありがとう」

 コーディ、ナイスフォローよ!
 そこへ今度はもう一つのパーティーが合流した。

「助太刀ありがとさん。そちらさんなかなかのお手並みだな。大丈夫かヘンゼル?」

「ああ、なんとかな。加勢してくれなければ終わってたよ。ダスト、一個貸しにしといてくれ」

「今夜お前さんのパーティーの魔術師さんが返してくれてもいいがな」

 ヘンゼルのパーティーの魔術師は、本気とも冗談ともとれる物言いにダストを睨んでいる。

「馬鹿言うな! うちの紅一点なんだからよ」

「冗談だよ」

 その後はお互いにそこそこの自己紹介をし、本日はパーティー合同で野営をする事になった。
 後で話しを聞くと余裕のあるように見えたパーティーも余裕はなかったのだと言う。
 ゴブリンがこうも大群で襲ってくるのは珍しいが無い事ではない。つまり、運が悪かったという事になるんだけど、結果、事なきを得たのだから運が良かったという事で笑い話しとなった。

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現ステータス(簡易)

母(エリーゼ)・職種(魔術師)
【肉体再生能力・空間操作能力・不老・魔力無尽蔵、その他不明】
 肉体年齢は十九歳の時に固定された。いろいろ隠し事が多い。
 魔法は攻撃、支援、治癒と一通り使える。

娘(アイシャ)・職種(剣士)
【肉体再生能力・空間操作能力・その他不明】
 歳は十八歳。まだまだこれから成長します。
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