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第一章

スキルのチカラ

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「止まれっ! この女がどうなっても…」

 止まれと言われて素直に止まってやるわけないのに……。
 それに、お頭はイリージャの身体を弄ぶのに夢中で武器を手にしていないんだから。
 私は状況から瞬時に判断して直線で最短距離を詰める。
 もうお頭までの距離は十メートルもないはずだ。

「殺したっていいから止めろおおおぉ」

 もう取り押さえる事など考えず、武器を持った手下が何人も襲い掛かってくる。
 一人目の攻撃は余裕をもって躱し、二人目の攻撃は剣で受け流す。そして三人目の攻撃は右上腕部に傷を負いながらなんとか躱しきった。
 まだ私に未練があるのか、何人かの手下は死んでしまうような急所へ攻撃をしてこないのも幸いした。
 でも、四人目の攻撃は左後方の死角からだったので剣で脇腹を突き通され、動きが大きく鈍ってしまった。痛いというよりは熱いという感覚だけど我慢できる。

「うっ…」

「いやあああっ アイシャっ」

 お頭まではあと数歩という位置だ。

「よーし、よくやった。後で褒美を……」

 私は構わず剣が抜けきるまで前進し、怪我を気にする事なく距離を詰める。そして、お頭の前まで到達すると同時に、躊躇なく左胸を刺し貫いてやる。

「ぐぶぅ…ぎっぎざまぁ……」

 全て子分任せなんて……お頭は驚愕の顔で私を見ているけどなんてマヌケなんだろう。
 お頭は少しして口から大量の血が流れ出てくると前のめりに倒れて動かなくなった。それと同時にイリージャも開放されて自由になる。

「ありゃ……お、お頭がやられちまったぞ?」

「ああ、やられちまった」

 お頭が死んだ事など他人ごとのような盗賊達。
 私はイリージャに持っていた剣を渡してやり、腰のククリナイフを抜き放ちながら素早く盗賊達を向く。
 すると止まっていた手下達も動き出そうとするが、大きな声を張り上げてそれを牽制した。

「お前達、全滅したくないなら武器を捨てなさい」

「はあ? 瀕死の女が二人だけでどうしようってんだ?」

「誰が瀕死ですって?」

「そりゃお前…が……!?」

 盗賊達からすれば目の前に居るのは瀕死の女。そして、後ろから見るイリージャからも、剣で腹部を貫かれたアイシャは重傷であるはずだった。しかし、誰の目から見ても劇的な変化がアイシャに起こっていた。

「お、おい、女の傷が治ってきてないか?」

「そんな馬鹿な事が……うわああああああっ」

 そしてこの場にいた全員が見た。シミになっていた血痕は消えていき、負っていた傷という傷がどんどん治っていく。気を付けて見ていれば、すでに消えている右上腕部の傷が治っていく様子も見れたはずだった。だが、盗賊達にそこまで注意深い者はいない。

「化け物だああああ」

「この女、噂に聞くヴァンパイアかアンデッドじゃないのか? いや…それとも魔人とか……」

 盗賊達が騒めく。

「だったらなんなの? 言っとくけど、私は死なないから全滅するのはアナタ達よ」

 私を見る目は誰もが人外の化け物でも見る様な眼をしている。勿論イリージャはその限りではないけど。

「このまま武器を捨てて洞窟から去りなさい。そうじゃないなら全員殺し尽くすまで暴れるから」

 私達が女だからまだどうにかなると盗賊達は考えているようだ。
 だったらどうにもならない存在だと教えるだけ。
 私は左腕を盗賊達に見えるように真横に突き出し、手に持つククリナイフで深々と切り付けた。しかし、傷は逆再生でも見るかのように元通りになり、全く傷の無い綺麗な状態に戻った。

『!?』

 二度も目の当たりにすれば、盗賊達も信じない訳にはいかなかった。そして、今残っている者の中でも力がある者だろう、その男が武器を捨てると、残りの者も全員武器を捨て戦闘を放棄した。

「わ、分かった降参だ。もうお前達に手出しはしない。だから見逃してくれ…」

 男は懐のポケットから赤い液体の入った小瓶を出すと私に渡してよこした。

「高級回復ポーションだ。最初からその女は治療する予定だった。いつまで強がれるかゲームみたいなものだったんだよ……」

「それでも服を剥ぎ取られて辱めを受けた事に変わりないわね」

 ここで、イリージャも自分がまだ上半身裸であったことに気づき、慌てて自分の胸を隠す。

「あなた達、どうせ最近住みついてたいした物も置いてないでしょ? とにかくこの洞窟から出て行って! そろそろ暴れるわよ?」

「わ、わかった! 出てくから暴れないでくれ」

「いい? 半日はここに戻らない事。そして、命が惜しければここで見た事は話さない事ね。話したら……わかるでしょ?」

 残り少ない盗賊の残党達は無言で頷き、持てるだけの物を持ち慌ただしく洞窟を出て行く。
 ものの十分ほどで盗賊達が居なくなると、私はイリージャの矢傷にポーションを振りかけ治療を始めた。

「アイシャ……あなたは何者なの? まさか本当にヴァンパイア?」

「違う違う、このスキルっていうか体質は母からの遺伝なの」

「それじゃアイシャのお母さんがそういった系統?」

「普通に人間よ? あ…やっぱり普通じゃないかな……」

 私も母親の事をいろいろ知ったのは最近の事なのよね。それに自分達の生活にも関わるし、いくらイリージャだからって下手に話す訳にもいかない。

「あはは……」

「よし、これで怪我のほうは大丈夫だと思う」

「ありがとう。アイシャを化け物だなんて思ってないから安心して」

「それはそれは……ではそろそろ血を頂戴すると致しますか」

「え……」

 イリージャの顔が本当に化け物を見る顔に変じようとした瞬間、私は破顔して笑いながら謝った。

「冗談だってば。調子に乗り過ぎました御免なさい」

 イリージャの手当てが終わると、此処での事は二人の秘密という事で話しは落ち着いた。

 朝方洞窟を出た私達は、急ぎ街道へ出て手頃な商隊に声を掛ける。
 盗賊達が持ち出し忘れた宝石を報酬に交渉し、なんとか乗せてもらう事になると、やっと安心して帰路に就く事が出来た。

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