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二章 混ざり怪編
三十一話
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「大学というのはとても不思議な場所だね。僕みたいにお金も払ってない部外者が潜り込んで学ぶことも出来るのに、きちんとお金を払って入学している生徒に学ぶ気のある者は少ない。いやいや、もちろんそういう人ばかりじゃないというのは分かっているさ。自分の学びたいことのために大学に入った人間だってちゃんといる。それに僕は学ぶ気がない人のことを悪し様に言う気も無いんだ。その人達は大学で学べることに興味がないだけで、他のことには力を入れてる。例えばサークル活動、例えば人脈づくり、例えば起業……。何も勉学だけが人生じゃあない、学生という身分は色々なことを有利にさせてくれる。その身分のために大学に入るのだって全然ありだと僕は思う。それに大学は人種の坩堝、とまでは言わないが実に様々な人間が生活をしている所だ。勉強よりもそういった様々な人と関わる方が将来的に利益になる可能性だってあり得る。だからきっと出席だけ取って授業を受けない人や授業中に寝ている人は、そんな授業以外のことに価値を見出している人達なんだろう」
「……お前は相変わらず人間を過大評価しすぎだよ。普通に何の目的もなく大学に通ってる奴だって山程いる」
昼の十二時、大学構内にあるカフェは満席とまではいかないが、盛況という程度には賑わっている。
そんな中でランチを食べている大黒の前には、紅茶を片手に持論を展開してくる女性が一人。
大黒はうんざりとした顔をしながらも、女性の話にちゃんと耳を傾けている。
「そんな事無いさ、むしろ僕ほど人間をありのまま評価している者はそういないと自負しているくらいだよ。評価、だなんて偉そうに聞こえるかもしれないけど、上から言っているつもりはないからそこは聞き流してほしい。僕の愛すべき親友は僕の言葉を捻じ曲がった捉え方はしないだろうから、今のは必要のない注意だったかもしれないけどね。それで、なんだったかな。そう、評価の話だったね。僕は人間を正しく見ているんだ。人間は誰しもが才能を秘めていて、誰しもが進化する可能性を持っている、そして皆自分の進化のために日々努力を重ねている。ああ、なんとも素晴らしい……」
「後、相変わらず話が長い。色々語ってくるのは結構だけどもう少し短くまとめて話してくれ。何かお前の話聞いてると先生の話聞いてるみたいで眠くなってくるんだよな……」
女性の話の間に食事を終えた大黒は水で喉を潤わしながら、苦言を呈する。
しかし文句を言われた女性はそれに堪えることもなく、嬉しそうに頬を緩めるだけだった。
「ふふ、そんな事を言いながらも君はいつも僕の話を聞いてくれてたじゃないか。君の方こそ昔から変わってない。変わってないついでにお願いしたいんだけど、『お前』なんて余所余所しい呼び方はやめて、昔みたいにルミルミと呼んではくれないか?」
「過去を捏造するな。俺はお前を藤としか呼んだことがないし、未来永劫その呼び名が変わることはない」
そう言って大黒は女性、藤を見て大きくため息をついた。
「はー……、ほんっとに変わってないな……。話し方も思考も思想も、さすがに見た目だけは変わったっぽいけど」
「そうかい? 自分としては見た目もそれほど変化はないと思ってるんだけど」
「俺と大して変わらない身長しといて何言ってんだ。少なくとも170センチは超えてるだろうに。だいぶ大人びたよ、胸だけはあんまり成長してないみたいだけど」
「それこそ何を言うんだって感じだね。そこだけは自身を持って変わったと言える部位なのに。なんとAAがBに進化したんだ、凄い膨張率だろう?」
「部位とか膨張率とか夢のない言い方をするな。もっとメルヘンな言い方をしろ」
「人の身体的特徴を貶してきた癖にそんな配慮を求めるなんて図々しいにも程があると思うんだけど……」
騒がしい店内で二人は話を本題に進めようとはせず、ただ久しぶりに会った友人としての会話を続ける。
先日藤が大黒たちにけしかけてきた鵺について、今ここにいる理由、藤が協会に追われてから八年何をしてきたか。
八年ぶりに会ってすぐにそれらを聞くほど、大黒も機械的な人間ではなかった。
そしてそれは、他愛のない話をずっと話し続けている藤にも言えることであった。
「それに見た目が変わったと言うなら君の方こそ変わっただろう。一体いつから君の左腕は着脱可能になったんだい? 昔は両腕が揃っていたような記憶があるんだけど」
「ブラックジョークすぎるだろ。お前それ俺の残ってる右腕で思いっきりぶん殴られてもおかしくない発言だからな? ……少し前に妖怪と戦って食われたんだよ、別に陰陽師の世界じゃありふれたことだろ」
周りの客に聞こえないように大黒は声を潜める。
「少し前ねぇ。こんな普通の学校に通ってるくらいだから、陰陽師の世界からはすっかり抜けたものかと思ってたけど案外そうでもないのかな?」
「避けられない戦いってのが世の中にはあるだろ。俺としてはもう戦いなんてゴメンだが、逃してくれない状況が発生することもある。例えば知人と買い物に行ってたら急に鵺に襲われたり、とかの状況だな」
「そうそう! その話もしたかったんだ! どうだった、僕の作った妖怪は! 凄かっただろう!?」
大黒としては皮肉のつもりで先日の事を槍玉に上げたのだが、藤は怯むこともなくむしろ嬉々として話題に乗ってきた。
「お前はそういう反応するよなぁ……ミスった……」
「ん? 何がだい?」
「なんでもない。鵺はそりゃ凄かったよ、妖怪の合成獣なんて初めて見たしな。それがああもちゃんと生き物として動いてたんだから、凄い以外の言葉は見つかんねぇよ」
「そうだろうそうだろう! なんせあれは僕の八年の集大成の一つだ! 成功した時は小躍りだってしたものさ!」
大黒たちを危険な目に合わせたことに悪びれもせず、藤は自分の研究の成果を楽しげに語る。
藤の人間性を知っている大黒も特に謝罪を欲していたわけではないため、そのまま藤の話に合わせることにした。
「……お前は相変わらず人間を過大評価しすぎだよ。普通に何の目的もなく大学に通ってる奴だって山程いる」
昼の十二時、大学構内にあるカフェは満席とまではいかないが、盛況という程度には賑わっている。
そんな中でランチを食べている大黒の前には、紅茶を片手に持論を展開してくる女性が一人。
大黒はうんざりとした顔をしながらも、女性の話にちゃんと耳を傾けている。
「そんな事無いさ、むしろ僕ほど人間をありのまま評価している者はそういないと自負しているくらいだよ。評価、だなんて偉そうに聞こえるかもしれないけど、上から言っているつもりはないからそこは聞き流してほしい。僕の愛すべき親友は僕の言葉を捻じ曲がった捉え方はしないだろうから、今のは必要のない注意だったかもしれないけどね。それで、なんだったかな。そう、評価の話だったね。僕は人間を正しく見ているんだ。人間は誰しもが才能を秘めていて、誰しもが進化する可能性を持っている、そして皆自分の進化のために日々努力を重ねている。ああ、なんとも素晴らしい……」
「後、相変わらず話が長い。色々語ってくるのは結構だけどもう少し短くまとめて話してくれ。何かお前の話聞いてると先生の話聞いてるみたいで眠くなってくるんだよな……」
女性の話の間に食事を終えた大黒は水で喉を潤わしながら、苦言を呈する。
しかし文句を言われた女性はそれに堪えることもなく、嬉しそうに頬を緩めるだけだった。
「ふふ、そんな事を言いながらも君はいつも僕の話を聞いてくれてたじゃないか。君の方こそ昔から変わってない。変わってないついでにお願いしたいんだけど、『お前』なんて余所余所しい呼び方はやめて、昔みたいにルミルミと呼んではくれないか?」
「過去を捏造するな。俺はお前を藤としか呼んだことがないし、未来永劫その呼び名が変わることはない」
そう言って大黒は女性、藤を見て大きくため息をついた。
「はー……、ほんっとに変わってないな……。話し方も思考も思想も、さすがに見た目だけは変わったっぽいけど」
「そうかい? 自分としては見た目もそれほど変化はないと思ってるんだけど」
「俺と大して変わらない身長しといて何言ってんだ。少なくとも170センチは超えてるだろうに。だいぶ大人びたよ、胸だけはあんまり成長してないみたいだけど」
「それこそ何を言うんだって感じだね。そこだけは自身を持って変わったと言える部位なのに。なんとAAがBに進化したんだ、凄い膨張率だろう?」
「部位とか膨張率とか夢のない言い方をするな。もっとメルヘンな言い方をしろ」
「人の身体的特徴を貶してきた癖にそんな配慮を求めるなんて図々しいにも程があると思うんだけど……」
騒がしい店内で二人は話を本題に進めようとはせず、ただ久しぶりに会った友人としての会話を続ける。
先日藤が大黒たちにけしかけてきた鵺について、今ここにいる理由、藤が協会に追われてから八年何をしてきたか。
八年ぶりに会ってすぐにそれらを聞くほど、大黒も機械的な人間ではなかった。
そしてそれは、他愛のない話をずっと話し続けている藤にも言えることであった。
「それに見た目が変わったと言うなら君の方こそ変わっただろう。一体いつから君の左腕は着脱可能になったんだい? 昔は両腕が揃っていたような記憶があるんだけど」
「ブラックジョークすぎるだろ。お前それ俺の残ってる右腕で思いっきりぶん殴られてもおかしくない発言だからな? ……少し前に妖怪と戦って食われたんだよ、別に陰陽師の世界じゃありふれたことだろ」
周りの客に聞こえないように大黒は声を潜める。
「少し前ねぇ。こんな普通の学校に通ってるくらいだから、陰陽師の世界からはすっかり抜けたものかと思ってたけど案外そうでもないのかな?」
「避けられない戦いってのが世の中にはあるだろ。俺としてはもう戦いなんてゴメンだが、逃してくれない状況が発生することもある。例えば知人と買い物に行ってたら急に鵺に襲われたり、とかの状況だな」
「そうそう! その話もしたかったんだ! どうだった、僕の作った妖怪は! 凄かっただろう!?」
大黒としては皮肉のつもりで先日の事を槍玉に上げたのだが、藤は怯むこともなくむしろ嬉々として話題に乗ってきた。
「お前はそういう反応するよなぁ……ミスった……」
「ん? 何がだい?」
「なんでもない。鵺はそりゃ凄かったよ、妖怪の合成獣なんて初めて見たしな。それがああもちゃんと生き物として動いてたんだから、凄い以外の言葉は見つかんねぇよ」
「そうだろうそうだろう! なんせあれは僕の八年の集大成の一つだ! 成功した時は小躍りだってしたものさ!」
大黒たちを危険な目に合わせたことに悪びれもせず、藤は自分の研究の成果を楽しげに語る。
藤の人間性を知っている大黒も特に謝罪を欲していたわけではないため、そのまま藤の話に合わせることにした。
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