九尾の狐、監禁しました

八神響

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二章 混ざり怪編

二十話

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「動物が混ざりあった姿ももちろん有名だが、鵺の最大の特徴といえば鳴き声なんだ。ヒョー、ヒョー、と消え入りそうな、どこか人を不安にさせるような鳴き声。それが鵺の鳴き声だ、だからあんな人間みたいに笑うのはおかしすぎる」
「ふーん? まあそういう奴もいるってだけなんじゃないっすかね? 人間だって色んな話し方する奴いるし」
「そういうレベルの話じゃないんだよ。鬼川の例えで言うなら、人間が犬の言語使って話してるようなもんだ」
「なるほど、そりゃ変っすね」

 大黒の説明に納得した鬼川は、懐から肘まで覆える真っ黒な手袋を取り出しそれを装着する。

 その手袋はぴっちりとした素材で作られているようだったが、腕の動作を妨げる程のものではないようで、鬼川は掌や肘をスムーズに動かして準備運動をしている。

「それは?」
「戦闘準備っすよ。変なのは分かったっすけど戦わないなんて選択肢もないし。少なくともそいつを安全な所まで逃がす時間くらいはあたしが作るんで」

 鬼川は大黒が右手で抱えている磨を顎で指し示す。

「……いいのか?」
「さすがのあたしもそれくらいの空気はよむっすよ。もう完全に関わらせないことは無理にしても、遠ざけるくらいはしときたいでしょうし……ってもういねぇ!」

 先程までは隣に神妙な顔をした大黒がいたのだが、たった一瞬目を話した隙にその場から姿が消えていて、鵺とは反対方向に走り去っていた。

 その大黒の背中を見て、鬼川はため息をついて煙草に火を付ける。

「ぷはぁー……、納得してからの行動が早すぎる……。そこら辺はさすがに兄妹か……。じゃ、まあ気持ちを切り替えてやってやっかぁ。さあ来いよ、暫定鵺。狭い箱なんてとっととぶっ壊してあたしと遊ぼうぜ」

 そんな鬼川の言葉に呼応するように、鵺は爪に渾身の力を込めてとうとう結界を突き破った。

「ひっ、ひひっ、ひひひひひひひひひひ!」
「元気いいなぁ。いいぜ、あたしも楽しくなってきやがった……!」


「……なんか酒呑童子みたいなこと言ってるなぁ。あいつも戦闘マニアだったのか……」

 背後から聞こえてくる楽しげな鬼川の声に、大黒は走りながらも呆れた声を出す。

 大黒にとって戦闘はあくまで自分の目的を果たす手段の一つ。むしろ避けられるなら出来るだけ避けたい事柄だった。

 勝利したときの快感がないといえば嘘になるがそれよりも敗北した時のことを考えてしまうと、鬼川のように戦闘を楽しむなんてことは出来そうにもない。

 だからこそ大黒の声には呆れの他に、自分には出来ないことをしている人間への多少の尊敬の念も混じっていた。

 そして無事に帰ったらお礼に何かを奢ろうかと考え始めた大黒へ、腕に抱えられている磨が話しかけてきた。

「ねえ、あの人を置いてきてよかったの?」

 突如現れた鵺への疑問でも無く、鵺に対する大黒と鬼川の慣れた対応への疑問でもなく、磨から出てきたのは鬼川を心配する言葉。

 どこまでも自分を気にかけない磨の将来を改めて不安に思いながら、大黒は鬼川を置いてきた理由について話す。

「ああ、多分大丈夫だ。ちょっとの不確定要素はあるけど、それくらいじゃ鬼川は負けないと思う。なんせあの純が選んだ従者だし、こんな危機は何度も乗り越えてきてるはずだからな。……それよりもゴメンな磨、なんの説明もしないまま振り回しちゃって」
「……いいの。あなたが何も知らないことを私に望むなら私はそのとおりにするわ。私はそれに少しの不満も抱かない」
「……そうしようかと思ってたけど、こうなったら全部知っていて貰うほうが磨にとっても安全だ。家に帰ったら全部話すよ、この先磨が生きていくためにな」
「…………」

 幸せに生きてほしい、大黒が磨に望むのは究極的に言えばそれだけだった。

 子供が幸せに生きられる世界を望む大黒。見知らぬ子供の幸せさえ願える大黒にとって、知っている子供である磨の幸せを思うのは至極当然のことだった。

 しかし磨は、諸事情からそういった感情を向けられることに慣れていない。

 だから大黒の言葉になんと反応していいか分からず、どうにも落ち着かない気持ちになっていた。

 その気持ちから目を逸らすように視線を背けた磨の目に、そこにはいないはずのものが見えてしまい思わず声を上げた。

「あ」
「え、どうしたんだ……あ」

 つられて磨が見ていた方向に視線を向けた大黒も思わず声を上げ、二人揃って固まってしまう。 
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